第57話 SP大幅アップ

「おかしい……計算が合わない」


 ステータスボードを眺めながら、ソラは首を傾げた。

 ベガルタを倒してレベルが上昇した。それも、【成長加速】を装着していない状態で3つだ。いかにベガルタが強かったかを思い知らされる。


 レベルが3つ上昇したことで、SPが増加した。ここまでは良い。

 これまでレベル1ごとに、SPは5つ上昇した。

 だが今回、レベル44で得られたSPは65だった。


 明らかに計算が合わない。


「レベルアップでボーナスがあった? でも、ボーナスが出るような切りの良いレベルじゃないしな……」


 レベル40や45に上がった時に、SPが通常よりも増加するならばわかる。

 だがレベル41から44だ。とてもボーナスが発生するレベルだとは思えない。

 ならば考えられる可能性は一つ。


「……あの霧が原因か」


 ソラのSPが大幅に増加したのは、黒い霧を吸収したためだ。


「転生が失敗したとかどうとか言ってたし、もしかしてこれが、シコウの本当の力なのか?」


 ベガルタはソラを見て『シコウ』と言っていた。おそらくそれは、ソラが吸収した黒い玉の名前だ。

 ソラがベガルタを倒したことで、そのシコウがベガルタの力を吸収した……と考えると、一応は辻褄が合う。


 だが辻褄が合ったからといって、理解出来たわけではない。

 まだ、色々と疑問点はある。


『マコウ』、『転生』、『アインツヴァルト』、『人間を食って力を取り戻す』。


 これらの言葉から、ある程度は状況を推測することは出来る。

 ベガルタにはマコウという名の仲間がいた。そのマコウから教えられた何らかの方法を用いて、ベガルタが転生した。ソラが取り込んだシコウもその一人(?)だ。


 転生した体は、以前よりも力が衰えていた。

 その衰えた力は、人間を食らうことで回復する。


「もしかしたら、地球にダンジョンが生まれたのも、ベガルタたちのせい?」


 そこまで考えて、ソラは首を振った。

 考えが少し飛躍しすぎた。


 ダンジョンは20年前に出現しているのだ。

 その間、ベガルタたちのような者――ソラはこれを便宜的に魔人と呼ぶことにした――魔人が現われたという情報は耳にしていない。


 ――あるいは、情報が秘匿されているか。


「……いや、これは駄目だな」


 ソラは首を振る。

 確固たる証拠や情報がないことを、『誰かが隠している』とするのはただの陰謀論。危険思想だ。


 語りえぬものについては、沈黙しなければならない。

 ――憶測による断定は避けるべきである。


 彼らがどこから来たのか、いつ来たのか、既にこの世に幾人も存在するのか。

 それらは、なにもわからない。


 だが、唯一ソラが断定出来ることがある。


「あいつらを野放しにするのは危険だ」


 ベガルタは人間を食すことで力を取り戻せるといっていた。

 取り戻す――つまり、あれほどの強さがありながら、まだ未完全だったのだ。

 力を取り戻した状態を想像すると、空恐ろしい。


 ベガルタのような魔人が今後、現われないとは限らない。

 他の魔人が力を付ける前に、少しでもレベルを上げておかねば、勝負にすらならない可能性が高い。


「……強くならないと」


 ソラは決意を静かに口にした。

 生き残るために。戦うために。

 そして誰にも、何も、奪われないように。


「さてっ」と気持ちを切り替えて、中断していた確認作業を再開する。


 レベルが3つ上昇し、SPが65増加した。

 このSPは今回、強いボスを倒したボーナスだと思うことにする。


 分配は後回しにして、ソラはインベントリの画面に切り替える。

 テンポラリーダンジョンの中でもちらりと見えていたが、改めて今回入手したアイテムの確認をする。


『ベガルタ』『獣皇の胸当て』『上級覚醒の宝玉』



名称:ベガルタ ランク:LR

攻撃力:100  精錬度:―

装備条件:AGI+80 ベガルタ

説明:獣皇ベガルタのためだけに作られた小剣。斬れ味は鋭く、どんなに硬い盾をも切り裂くと言われている。獣皇ベガルタ本人にしか扱えない。


名称:獣皇の胸当て ランク:SR

防御力:50  精錬度:―

装備条件:VIT+60

説明:獣皇の皮をなめして作られた逸品。耐久性、伸縮性ともにバツグンで、防御力も秀でている。火炎耐性が非常に高い。


名称:上級覚醒の宝玉 ランク:LR

使用条件:レベル50以降

説明:使用者の能力を最適化する。上級職への転職が可能。



「すごいアイテムばっかりだ! けど、これ使えるのか?」


 ベガルタはかなり強い。失った鬼蜘蛛の足剣の代わりとしてはこの上ない。

 またランクも、初めて出てくるLR――レジェンドクラス。伝説の名に相応しい性能である。

 だが、ベガルタ本人にしか装備出来ないと書かれている。


「……一応、装備してみるか」


 チャレンジしなければ、本当のことはわからない。

 駄目で元々だ。

 ソラはベガルタを取り出して、装備する。


「……あ、れ? 装備出来るな」


 何度も握ったり、逆手に持ち替えてみたりするが、違和感はない。

 軽く素振りをするが、特に『装備出来ていない』と思うようななにかは感じられなかった。


「ああ、もしかして、ベガルタを取り込んだからか?」

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