第58話 レベルを上げたい
ベガルタを倒した直後、ソラは黒い煙に呑み込まれた。
その煙は、ソラの胸の中に吸い込まれた。
これによりSPだけでなく使用権も移ったのだとすれば、この短剣が装備出来るのも納得だ。
獣皇の胸当ても、嬉しい装備と性能だ。
これでやっと、Eランクから装備し続けている胸当てが更新出来る。
最後に、上級覚醒の宝玉だ。
「なるほど、強い職業に転職する場合は、それ用の宝玉が必要なのか」
以前、ソラはレベルが上がってから再び宝玉を使おうと決めていた。
ステータスが上がったら、上位職業に就けるのではないかと思ったからだ。
だが、それは半分正解で、半分間違いだった。
レベルが上がれば上級職に就ける。だが、上級職に転職するためには、それ専用のアイテムが必要だったのだ。
「危うく、普通の宝玉を使うところだった」
もし覚醒の宝玉を使って職業が変わらなければ、上位職への転職を諦めていたに違いない。
そんな上位職への転職アイテムが、いま手に入ったのは僥倖である。
すぐに使用したいが、まずはレベル制限をクリアしなければならない。
「装備もある程度整ったし、ダンジョンに行ってレベルを上げるか」
一体どのような職業に就くのか、いまから楽しみだ。
アイテムの確認を終えると、ソラは装備の精錬を行った。
今回手に入れたアイテムと、その他のアイテムを強化する。
名称:ベガルタ ランク:LR
攻撃力:100→140 精錬度:―→4
装備条件:AGI+80→120 ベガルタ
名称:獣皇の胸当て ランク:SR
防御力:50→75 精錬度:―→5
装備条件:VIT+60→100
名称:ライフブレイカー ランク:R
攻撃力:+60→98 精錬度:1→6
装備条件:AGI+60→110
上昇した装備条件に合わせて、ソラはステータスを割り振った。
ついでに、変更していたアビリティもレベリング用に付け直す。
これで、準備は万端。
明日から、レベリング再開だ。
名前:天水 ソラ
Lv:44 ランク:C
SP:65→0 職業:上級アサシン
STR:85→100 VIT:80→100
AGI:105→120 MAG:0 SEN:79→94
アビリティ:【成長加速】【上級二刀流術】【弱点看破】【危機察知】+
スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】【隠密】【気配察知】
装備(効果):ベガルタ、ライフブレイカー、獣皇の胸当て(火炎耐性)、亡者のローブ、ゴブリンキングの小手、漆黒のブーツ、疾風の腕輪(AGI+30)、湖水のネックレス(VIT+30)、鬼蜘蛛の憤怒(STR+30)、骸骨兵のイヤーカフ(SEN+30)
○
「うわっ」
Cランクのダンジョンで魔物を斬り倒したソラが、驚きの声を上げた。
相手は固い甲殻を持つ、エリートアントだ。
以前に攻略した、Dランクのアリよりも二回りほど大きい。
エリートアントの甲殻は、並の武器では切り裂けないほど硬いと言われている。
その甲羅を、ベガルタはいとも容易く切り裂いてしまった。
「まったく力を入れてなかったのに……。ああ、ビックリした」
ソラはベガルタを畏敬の眼差しで眺める。
ベガルタは、獣皇が持っていたものと同じ赤黒い小剣だった。
剣身は幅広で、短めのブロードソードのようだ。
ただし先端に反りがある。ここ切っ先三寸が、とにかくよく斬れる。
迂闊に人体に向けてはいけないと思えるほどだ。
斬れ味の良さは、ベガルタだけではない。
ライフブレイカーもまた、斬れ味が向上して、並の魔物では刃を止めることさえ出来なくなっていた。
無論、これらの性能は、ソラの身体能力あってのものだ。
「ステータスがかなり上がったから、ずいぶん余裕があるな」
Cランクの魔物と対峙しても、まるで脅威を感じない。
それは現在のステータスが、Cランクを遙かに上回っているためである。
様々な補正を受けた現在のステータスの合計は414P。レベル1あたり、ステータスは5P上昇する。(端数の4Pは、レベル1時点のステータスだ)
これを加味して計算すると、現在のソラの状態はレベル83と同等となる。
対して、レベル44の補正なしのステータスの合計が219Pである。
素の状態のレベル44と比較すると、39レベル分――ステータスにしてなんと195Pも上乗せされている計算だ。
Cランクの魔物が相手でも、脅威を感じないのも頷ける。
「やっぱり、ベガルタはCじゃなくてBランクくらいだったか」
ベガルタには、それ程の威圧感があった。
あれを経験すると、Cランクでは少し物足りなく感じてしまう。
それはソラにとっての安全ラインが、少し後退したからか。
「気をつけないと、うっかり死線に踏み込みそうだ」
そうならないよう、自分の状態を自覚して、意識的にブレーキをかける。
まだ先にいける。先の景色を見たい。
逸る気持ちを抑えて、ソラはレベリングに徹するのだった。
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