第35話 リッチーとの死闘2

 リッチーが吹き飛ぶほどの攻撃を目の当たりにし、瀕死の重傷を負った稔田が、眦を決した。


(一体、あいつは誰だ!?)


 リッチーを吹き飛ばした攻撃からは、稔田以上の力を感じた。

 パーティメンバーでは、まずあり得ない攻撃だ。


(侵入者? まさか……いや、それしか考えられない)


 このダンジョンが変異している以上、出入り口は塞がれている。

 その状態で、パーティ以外の冒険者が現われたとなると答えは一つだ。


 何者かが、レアアイテムの『突破石』を用いて稔田たちを助けに来てくれたのだ。


 稔田はすぐに、その何者かを探す。

 しかし、姿が見当たらない。


(……どういうことだ?)


 稔田が首を捻ったその時だった。

 突如、リッチーがくの字に折れ曲がった。

 その腹部から、光輝く棍棒が落下した。


(……なんだありゃ?)


 初めて見る武器だ。

 ただの棍棒のようだが、尋常でないほど輝いている。

 リッチーの反応がなければ、おもちゃにしか見えなかっただろう。


 どうも、侵入者がリッチーに向けて棍棒を投げつけたようだ。

 ただその人物の姿が、やはり見当たらない。


 そこでやっと、稔田は気がついた。


(そうか、スキルかッ!)


 隠密系のスキルがあれば、姿を隠しながら攻撃出来る。

 リッチーは魔法使い系の魔物だ。

 魔法使いは暗殺者に対して劣位にある。

 そのためスキルにプラス補正がかかり、隠密が綺麗に決まっているのだ。


「……す、すげぇ」


 次々と投げつけられる武器を眺めながら、稔田はぽつりと呟いた。

 棍棒が投げつけられる速度、衝撃。そのいずれもが稔田の攻撃以上である。

 まるで、高ランクの戦いを見物している気分だった。


 自分達が行って来たダンジョン攻略とは、まるで次元が違う。


(これが、強者の戦いなんだ)


 その迫力と緊迫感に、稔田の皮膚がちりちりと粟立ちっぱなしだった。

 しばらくすると、リッチーが足を止めた。


(体力が尽きたか?)


 稔田が訝った、その時だった。

 突然、侵入者の姿が露わになった。


(――誰だ?)


 自分の知らない男だった。

 その男は、いままさにリッチーに攻撃を仕掛けんとしていたところだった。

 どうやら男が攻撃した瞬間に、リッチーが隠密を看破したようだ。


(急に動かなくなったと思ったら、リッチーはこれを狙ってやがったのか!)


 隠密が通じなくなると、勝敗はわからない。

 爆発的に増加したリッチーの殺意に、稔田の背筋が凍り付いた。


 リッチーが猛スピードで接近。


(死――!)


 稔田は男の死を予感した。

 このままでは殺される。

 だが稔田は、動けなかった。

 ダメージが大きすぎて、指一本動かない。

 ヒールしなければ、遠くない未来に命尽きるだろう。


 そんな自分には、何も出来ない。

 無力な自分に、唇を強く噛みしめる。


(頼む、頼む、勝ってくれ!)

(勝って俺達を、助けてくれ……!)


 稔田はただ泣きながら、男の勝利を祈ることしか出来なかった。



          ○



『お前か』


 声なき声が聞こえた気がした。

 リッチーの体で殺意が爆発。

 ソラは回避。

 隠密は、使用出来ない。

 リッチーの視線が振り切れない。


「くっ……」


 懐に入り込む隙が見当たらない。


 右へ左へ、フェイントを入れ、バックステップ。

 ソラの動きに、リッチーは少しも反応しない。


 カウンター狙いか。

 凄まじい重圧だ。気軽に手が出せない。


 ソラは徐々に、追い詰められていく。

 リッチーが一歩前に出る毎に、安全地帯が削られる。


 そうしてソラはとうとう、リッチーの間合いに入った。

 もうどこへも、逃げられない。

 逃走を試みても、瞬間的に魔法が放たれ潰される。


(くっ……どうする!?)


 ソラのこめかみを、冷たい汗が流れ落ちた。

 このピンチをどう切り抜けるか、必死に頭を働かせる。


 しかしその時間は、与えられなかった。

 リッチーが一歩、素早く踏み込んだ。

 その右手には強力な魔法。

 逃げ道は、反対左手側。

 しかしその左手には僅かに魔力の気配を感じる。


(罠かっ!)


 瞬間的に察知。

 逃げてもきっと、潰される。


 これまで、どれほど攻撃を加えても、リッチーの動きは鈍らなかった。

 おそらくこの魔物は、物理攻撃を無効化できる。


(だったら、選択肢は一つ!)


 素早くインベントリを操作して、仄かに輝く剣を取り出した。


 外套の中央に開いた穴から、覗くリッチーの胸部に、紫色の石が埋まっている。

 魔石によく似た石だ。

 そこに向けて、ソラは剣を突き出した。


(狙うなら、あそこだ)


 絶対に外さないように、間合いギリギリまで引きつける。

 ミスは絶対に許されない。

 集中力を高めていく。

 世界から色が抜け落ちて、スローモーションになる。


 相手よりも速く、なによりも迅速に。


 ソラは姿勢を低くして、力いっぱい地面を蹴った。

 リッチーの胸の石へと、ソラは剣を突き出した。


「――出ろ」


 瞬間。

 ――ゴオッッッ!!


 見たこともないような、巨大な炎の魔法がリッチーへと襲いかかった。

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