第34話 リッチーとの死闘1

 ボスが前衛を吹き飛ばしたあと。

 ソラは春日の無事を確認して、ほっと胸をなで下ろした。


 ここに来るまでに、ダンジョン内でいくつかの死体を目撃した。

 春日のパーティメンバーの死体だ。


 だからもしかしたら、春日も死んでしまったんじゃ……?

 そう思っていただけに、ソラの安堵は深かった。


「ど、どうして天水さんが、ここに」

「その話は後です」


 ボスが立ち上がる気配を感じて、ソラは臨戦態勢になる。


『嘆きの死者 リッチー』


 目の端に浮かんだボスの名を見た瞬間に、ソラはステータスボードを開いていた。


 リッチーはCランク上位。

 Fランのソラでも知っているほど、最凶と名高いボスである。


 様子見などしていては、あっという間に殺されてしまう。


(どのステータスを上げればいい?)


 間違えると、取り返しが付かなくなる。

 プレッシャーで、指が震える。


 だがソラは意を決してSPを割り振った。



名前:天水 ソラ

Lv:25(MAX) ランク:E

SP:25→0 職業:初級アサシン

STR:25→50 VIT:40

AGI:56 MAG:0 SEN:15

アビリティ:【初級二刀流術】【一撃必殺】【回避】【自然回復】+

スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】【隠密】【気配察知】

装備(効果):短剣+、ゴブリンキングの剣、革の胸当て+、ゴブリンキングの小手、漆黒のブーツ(隠密性+)、吸血の腕輪(AGI+16)、緩衝のネックレス(VIT+16)



 ステータスを上げたあと、アビリティも変更した。

 いまは成長加速よりも、少しでも戦闘を補助するアビリティが良い。


 自分の攻撃がボスに通るように、SPはすべてSTRに振った。

 VITが心許ないが、そこは【回避】と【自然回復】でカバーする。


 これで通じるかどうかは、ぶつかってみなければわからない。

 それで駄目ならもう、諦めるしかない。


 ソラは深呼吸をして、集中力を高めていく。

 集中力が極限に達した時、ソラは一気にボスの死角に入り込む。


 ――隠密。


 部屋の空気に紛れ込む。

 隠密が解けぬよう、迅速に移動。


 ソラは、ボスだけを見る。

 一挙手一投足を、見逃さない。

 初期の挙動、動き出す前の癖、動いた後の気配の流れ。

 僅かな間に、すべてを頭に叩き込む。


 そして、ソラは全力でボスのこめかみを殴りつけた。


「――ッ!!」


 拳に感じる確かな手応え。

 リッチーが、大きく吹き飛んだ。


 回避行動を一切とらなかった。

 隠密は完璧。奇襲が成功した。


 攻撃が成功しても、喜ぶ暇はない。

 即座に移動。

 相手の眼球が自分を捉える前に、再び隠密を発動する。


 間一髪、リッチーが起き上がり辺りを見回した。

 ソラの隠密が僅かに遅れていれば、きっと今頃リッチーに補足されていたに違いない。


 リッチーを殴りつけた拳が痺れる。

 自分のSTRに対して、VITが足りていないのだ。

 それでも骨は無事だ。

 じわじわと、【自然回復】が拳を癒やしていく。


 あっという間に握力が回復した。


(すごい効果だ……)


【自然回復】の効果に驚きつつ、ソラは急ぎ武器を取り出した。


 先ほど全力で殴りつけたが、ダメージが通ったようにはまるで感じられない。


(こっちは拳を痛めたっていうのに……)


 今回のボスはリッチーだ。

 攻撃を加えても、血を流さないし声も発しない。そのためどれくらいダメージを与えられているかが分かりにくい。


 下手に『ダメージが蓄積されている』と思い込むと、手痛い反撃を受けるだろう。

 相手が動かなくなるまで、万全の態勢だと思って戦った方が良い。


 ソラはリッチーの背後から忍び寄る。

 音を立てないよう慎重に近づき、背後から剣を突き刺した。


「~~~~~ッ!!」


 リッチが僅かに仰け反る。

 即座に剣を抜き離脱。

 瞬間、頬を風が撫でた。


 ――ズンッ!!


 一瞬前までソラが立っていた地面を、リッチーの魔法が押しつぶしていた。

 その衝撃に、心臓が冷たくなる。


 幸い、リッチーには隠密が完璧に通用している。

 ミスさえしなければ、完封出来る。


(魔法使いは暗殺者に弱いっていう図式は、現実でも当てはまるんだな)


 ソラは相手を注意深く観察する。

 リッチーが動きを止め、体で魔力を練り始めた。


(カウンター狙いか)


 意図が読めたソラは、間合いを開ける。

 インベントリから、武器を取り出し、全力で投擲する。


「――ッ!」


 武器を食らったリッチーが、大きくバランスを崩した。

 それを見て、ソラは目を丸くする。


「おっ」


 素手で殴りつけた時よりも、棍棒をぶつけられた時のほうが、大きく体が傾いだ気がした。

 どうやら武器の攻撃力が、ダメージに上乗せされるようだ。


(武器によって威力が上がりそうだな)


 今回投擲したのは、インベントリの肥やしになっていたあの、光輝く棍棒である。

 装備は出来ないが、こうして投擲することは可能だ。


 リッチーが振り返るが、ソラは既に背後に回り込んでいる。

 再び剣でひと突き。

 今度はなにかを切断する手応えを感じた。


 再び即座に離脱。

 頬を風魔法が撫でる。


(なるほど、リッチーの魔法は射程が狭いな)


 通常の魔法使いならば、距離を開けて魔法を放つ。

 しかしリッチーは、魔法を放つ前に一度、攻撃対象に近づく素振りを見せた。

 射程が短くなければ、こういう動きはまずしない。


(一定以上離れていれば、攻撃は食らわない)


 ソラは出来るだけリッチーから距離を置く。

 棍棒を回収して、再びリッチーに投げる。


 地面に落ちた武器を、移動しながら回収する。

 そうしてまた、武器を投げるを繰返す。


 ソラは、一方的に攻撃を繰返していく。

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