第11話 Fランクは稼げない
棍棒が、まばゆい光を放っていた。
全身の毛穴が一瞬で開いた。
慌てて棍棒を収納。
辺りに、ダンジョンらしいほの暗さが戻ってきた。
「…………」
ソラは周囲を見回した。
人の気配がないことを確かめてから、ソラはふぅ、と胸をなで下ろす。
「まさか、こんなことになってるとは」
新情報=MAXまで精錬した武器は光る。
さすがに予想外だ。
この武器をもし他の冒険者が見たらどう思うか?
「誰にも渡せないどころか、インベントリから取り出せなくなるとは……」
光る武器を見ても、精錬度MAXだとは思うまい。
だが、目立つ。とにかく目立つ。
強さと引き換えに、とんでもなく悪目立ちする武器になるとは……。
これでは、棍棒を取り出しただけで無駄に衆目を集めてしまう。
今後、棍棒は迂闊に取り出すまいと、心に誓った。
「今後精錬は、控えめにしよう」
一先ず精錬度2までならば、光らないことは分かった。
なのでソラは、革の胸当てを精錬度2まで上げることにした。
名称:革の胸当て+ ランク:UC
防御力:+10→14 精錬度:―→2
装備条件:なし→VIT+10
「これでよし、と。あとは、そうだな……。どこまで精錬すると光出すのか調べたいな」
精錬度10で光るのか、それともその前から光出すのか。
光る精錬度が分かれば、そこまでの精錬は気兼ねなく出来るようになる。
ダンジョン武具は、人工武具よりも強い。
そのダンジョン武具を強化した精錬武具は、さらに強い。
精錬石が手軽に入手出来る以上、精錬しない手はない。
だが、武具が光れば使えなくなる。
――というか、ソラは光る武具を使いたくない。
「今度武具を手に入れたら、どの段階から光るのか調べよう」
そう、今後の方針を決めてソラは、ダンジョンの出口へと向かうのだった。
名前:天水 ソラ
Lv:13 ランク:E
SP:15→0 職業:中級荷物持ち
STR:17→20 VIT:11→13
AGI:16→25 MAG:0 SEN:10→11
アビリティ:【成長加速】+
スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】
装備(効果):短剣+、革の胸当て+
○
外に出ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
「あれっ、こんなに時間が経ってたんだ」
ソラの体内時計では、まだ一時間ほどしか経っていないように感じていた。
どうやら戦闘や検証に集中したせいで、時間感覚が狂ったようだ。
この時間だと、辻ヒーラーのヒールは期待出来ない。
ソラは軽くため息を吐いた。
「胸の打撲とか、治して貰いたかったんだけど……仕方ないか」
諦めた、その時だった。
全身に柔らかい光が灯り、温もりが包み込んだ。
「――っ!」
ヒールだ。
辻ヒールを放った人物に気づき、ソラは驚き目を見開いた。
「春日さん!? もうこんな時間なのに、まだ辻ヒールやってたんですね」
「はい。ダンジョンに入った天水さんが心配で、ずっと待ってたんです」
「えっ……」
春日の甘い言葉に、ソラはうっかり騙されそうになる。
(冷静になれ!)
首を思い切り振る。
(僕だけに優しいわけじゃない。たぶん誰にだって優しいぞ!)
以前のように、ボロボロになっているかもしれないと心配してくれたから、春日は待っていてくれたのだ。決して自分が好きだからじゃない。ないない。
ソラは自分に言い聞かせる。
春日のおかげで、胸の打撲がすっかり癒えた。
どんなに動かしても、まるで痛みを感じない。
「ヒール、ありがとうございました」
「はいはい。いつか返してくださいね」
「えっ」
「出世払いで」
「あ、はい、喜んで」
辻ヒールは、ヒーラーが勝手にやっていることだ。報酬は発生しない。
しかし、この時間のヒールが有り難かったのは事実だ。
いつかなにかで恩返ししようと、ソラは心に誓った。
井の頭公園Fを離れた後、ソラはダンジョンアイテムの買取店に向かった。
買取店は、国から特別な許認可を受けている。これがなければ、ダンジョンアイテムの取り扱いは一切出来ない。
何故ならダンジョンアイテムは、国の戦略資源だからだ。
他国にここを押えられると、まともな生活すら出来なくなる可能性がある。
ガソリンやプラスチック、合成繊維を生む石油のように、魔石エネルギーは日常生活に溶け込み、切り離せなくなっているためだ。
故に政府は、他国に押えられる前に迅速にダンジョン素材の権利に関わる法律を策定したのだった。
さておき、売却だ。
ソラはダンジョンで得られたクズ魔石を換金する。
クズ魔石1つにつき、100円。
全部で40個手に入れていたので、今日の収入は4000円だ。
アルバイトの方がマシな収入だ。
少なすぎて涙が出る。
とはいえ底辺冒険者の稼ぎは、これが現実だ。
このお店では、ダンジョンでドロップした武具やアイテムも販売出来る。
その気になれば、ホブゴブリンの棍棒を売却することも出来る。
とはいえ、さすがに光る武器を売却するのは無理だ。
ピカピカ光る武器を見た店員の内心を想像すると、さすがに売却は憚られる。
そもそも【完全ドロップ】に繋がるような情報は、外に出さないと決めている。
なので現状、ホブゴブリンの棍棒を売却する気はさらさらない。
とはいえ、クズ魔石だけでは生きて行けない。
今回は他に売却出来るものはないが、ダンジョンで武具を入手したら不審に思われないよう、少しずつ売却していく予定だ。
現状では、稼いだお金のほとんどが食事代に消える。
だが、ソラはEランクに上がった。
これからもまだまだ、強くなる可能性が高い。
ソラの手には、未来がある。
それは現状を変えられるだけの力だ。
いまはまだ小さな力だけれど、これから膨らませていけば良い。
「当面の間は、レベリングかなあ」
ほんの少し膨らんだ財布を意識しながら、ソラはそう呟いた。
ランクが上がれば、ドロップする魔石の質も良くなる。
質が良ければ、買取金額もアップする。
収入が増えれば、生活に余裕が生まれる。
そのためには、なによりも上位ランクダンジョンで戦える力が必要だ。
「まずは出来ることを、こつこつと」
まずは低級ダンジョンで狩りをして、ランクアップを目指すことにしたのだった。
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