第10話 初めての精錬

 たしかに、布の服だけでダンジョンに入るなんて、馬鹿な真似をしている自覚はあった。

 だが、仕方が無いのだ。

 ソラには防具を購入する資金がない。


 ほとんどが生活資金に消えているし、そもそも武具は強い冒険者が装備するものだ。Fランが装備していたって、他の冒険者に奪われるだけだ。

 ――昼間のソラのように。


「……」


 もうヒールで治癒されたはずの殴られた痛みで、じんわり頬が痺れた。


「もし僕が今日、武器を持たずに家を出ていたら……」


 暗い所へ転がり落ちそうになったところで、ソラは首をブンブンと振った。

 起こってしまったことを悔やんでも仕方がない。

 それよりもこれからのことを考える方が賢明だ。


 ソラは服を回収し、ついでに『革の胸当て+』を取り出した。


「うーん。あんまり、変わらない?」


 お店に売っているものと見た目はあまり変わらない。

 胸当て部分を拳で叩いてみる。コンコンと、良い音が鳴った。

 店売り商品よりも、多少は硬いようだ。


『革の胸当て+』を装備する。

 ほんの少し大きいが、調整範囲内だ。

 肩紐を調節するだけで、胸当てが体にぴたりと密着した。


「使い勝手は……良さそうかな。何もないより、こっちの方が何倍も良い……うっ!」


 体を大きく動かすと、先ほどホブゴブリンに攻撃された胸部がズキンと痛んだ。

 ソラは呻いて蹲る。


 中ボスを倒して舞い上がり、すっかり忘れていたが、ソラはいま軽傷を負っている。

 怪我に気がつくと、体の至る所が痛んでいることに気がついた。


「そりゃそうだよね。これだけ強い魔物と戦ったんだから……」


 にも拘わらず、軽傷ですんでいるのだから(これまでのソラを思えば)驚きだ。


 続いてソラは、『ホブゴブリンの棍棒』を取り出した。

 しかしこちらは非常に重くて、持ち上げることすら困難だった。


「よくこんなものを振り回してたな……」


 ホブゴブリンの腕力がどれほどのものか思い知らされるようだ。

 あまり長く触れていると、ゴブリンの怨念が乗りうつりそうで怖い。

 ソラは手早く棍棒を収納し、次に『短剣+』を取り出した。


 こちらは店に売っているものとほぼ同じだ。

 鞘から抜いて、軽く振るう。


「おっ、いいかも?」


 短剣はソラの手によく馴染んだ。

 奪われた長剣よりも、ずっと良いようい感じられた。


「今の僕のレベルだと、あの長剣より、こっちの短剣の方が合ってるのかも」


 シュンシュンと軽く振って、鞘に収納する。

 ソラは少し考えて、短剣と革の胸当てをインベントリに収納した。


「さて、と」


 いよいよ、お待ちかねの強化タイムだ。

 ソラは手をさすりながら、インベントリをのぞき込む。


 手元には39個の精錬石がある。合計で39回、ダンジョン武具を精錬出来る。


 強化する武具は既に決めている。

 革の胸当てと、短剣だ。


 盾職やサポート職でない限りは、『迷ったら火力優先』というのが冒険者の常識だ。

 なのでまずは短剣に対して、精錬石を使う。


「おっ、インベントリ上で精錬出来るんだ」


 精錬石をタップすると、『精錬しますか?Y/N』のウインドウが出た。

 Yを押すと、次に精錬する対象を選ぶ。

 短剣を選択すると、再び『Y/N』の画面。


 Yを押すと、短剣の精錬が終了した。


名称:短剣+ ランク:UC

攻撃力:+14→16 精錬度:―→1

装備条件:なし→AGI+5


「おお、結構攻撃力が上がってる!」


 ソラは目を輝かせた。

 すぐさまインベントリから短剣を取り出し、装備する。

 先ほどと、握った感触は同じだ。だが刃の印象が先ほどよりも冷たい。

 少し指で触れただけでも切れそうだ。


「攻撃力は上がったけど、精錬すると装備条件が付くのか」


 一つ精錬しただけで、AGIが5要求されるようになった。


「一つ上がると5上昇するのなら、2までなら大丈夫か?」


 ソラはもう一度、短剣を精錬する。


名称:短剣+ ランク:UC

攻撃力:+16→18 精錬度:1→2

装備条件:AGI+5→AGI+10


「やっぱり、5ずつ上がるみたいだな。それも、結構要求されるなあ」


 1つ精錬するごとに、一般的なレベル5つ分上昇だ。

 はじめソラは、一気に最大値まで上げてしまおうかと思っていた。

 だが、これを見て気が変わった。


 最大値まで上げても、使えないなら意味がない。


「んー、でも最大値になったらどうなるのかは気になるなあ」


 強化出来るのは、短剣を含めあと二つ。

 胸当てと棍棒だ。


 胸当てはこれからも使用するが、棍棒を使う予定はない。

 精錬最大値を調べるなら、棍棒が良いだろう。


 ソラは画面をタップして、次々棍棒を精錬していく。


>>精錬成功しました

>>精錬成功しました

>>精錬成功しました


 無心に精錬し続けると、突然棍棒に対して精錬石が反応しなくなった。

 精錬度がこれ以上上がらなくなったのだ。


名称:ホブゴブリンの棍棒 ランク:R→S

攻撃力:+25→45 精錬値:―→10

装備条件:STR+30→80


「これは、すごい……」


 攻撃力が倍近く上昇した。

 精錬度10になったところで、棍棒のランクが上昇。

 かなり強い武器になった。

 だがその対価として、STR要求値が80にまで上がってしまった。


「これ、誰が装備出来るの?」


 装備出来る冒険者など、ゴリラくらいでは? と思ってしまう。

 高ランクで、パワータイプの冒険者ならば、もしかしたら装備出来るかもしれない。


「そうだ!」


 攻撃力が上がったので、もしかしたら見た目も変わったかもしれない。

 そう思い、ソラはインベントリから棍棒を取り出した。

 その時だった。


「――うわっ!?」

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