第9話 アイテム確認

「はぁ……はぁ……」


 相手が絶命したのをしっかり確認してから、ソラはホブゴブリンから手を離した。


 今回の戦いは、ギリギリだった。

 武器もない、防具もない状態で、ソラが中ボス相手に対等に渡り合えたのは奇跡と呼ぶ他あるまい。


 地面に腰を下ろし、ステータスボードを出現させる。


名前:天水 ソラ

Lv:10→13 ランク:E

SP:0→15 職業:中級荷物持ち

STR:17 VIT:11

AGI:16 MAG:0 SEN:10

アビリティ:【成長加速】+

スキル:【完全ドロップ】【限界突破】【インベントリ】

装備(効果):――


「中ボス一体倒しただけで、レベルが三つも上がってる……」


 それだけホブゴブリンが強かったのだろう。

 素手で倒せたのは奇跡だったなと、改めてソラは実感した。



 ホブゴブリンがダンジョンに吞まれた後、ソラは辺りの地面を入念に確認していた。


「おかしいな……。ドロップが一つも落ちてない」


 まさか、戦っている間に消えてしまったのだろうか?

 ソラは首を捻る。


「――あっ! そういえば自動取得に切り替えてたんだ……」


 仕様を思い出し、すぐさまボードを出現させる。

 インベントリを確認すると、ゴブリンのクズ魔石がしっかり収納されていた。


「良かった。拾い損ねてたらどうしようかと思った」


 クズ魔石でも魔石である。低級冒険者にとっては貴重な収入源だ。

 ソラはほっと胸をなで下ろす。


「ん、これはなんだろう?」


 そのインベントリの中に、見覚えのないアイテムを発見した。


『ホブゴブリンの棍棒』

『短剣+』

『革の胸当て+』


「もしかしてこれって、ボスドロップ?」


 ボス級モンスターを倒した時、希に武具やアイテムをドロップする。 

 中ボスも、ボスドロップが出る相手だが、確率は非常に低いと言われている。

 にも拘わらず、ソラは今回のホブゴブリンを討伐して、三種類も武具を手に入れていた。


「……もしかして、これが完全ドロップスキルの効果?」


 初めて見たときは、【完全ドロップ】がなんなのか想像もつかなかったが、なるほどこうして結果を目の当たりにすると納得出来る。


【完全ドロップ】は、ボス級モンスターを倒した時に出るアイテムを、ドロップさせるスキルだったのだ。


 この『完全』が百パーセントなのか、それとも『ボスが持っているアイテムが全部ドロップする』という意味での完全なのか……。


「ボスドロップって、何週間も粘って手に入れられるものだよね……」


 ソラの憶測が正しければ、とんでもないスキルだ。

 このスキルがあるだけで、大手ギルドはソラを手に入れようと躍起になるだろう。

 なんせ、ダンジョン武具・レアアイテムが狙って出せるのだから。


 ソラがいるだけで、ギルドはとんでもない収益を上げられるようになる。

 また、ボスドロップが確定入手出来るということは、ギルドの武力増強が期待出来る。

 大量の札束が飛び交うだけなら良いが、血みどろの戦いにまで発展しそうである。


 ギルドで争う分にはまだ良いが、争いの原因たるソラを殺して事態の沈静化を図ろうとする輩も現われかねない。


「……これは、しばらく黙ってよう」


【完全ドロップ】を公表してもろくな事にならないだろうことが、簡単に予想できる。

 当面の間は、決してこのスキル持ちであることを悟られぬよう注意するべきだ。


 それともう一つ、【完全ドロップ】について口が裂けても言えない理由が、インベントリの中にあった。


『精錬石×39』


「……これはやばい」


 この精錬石は、通常モンスターからもドロップする、ダンジョン産の武具を強化するアイテムだ。

 しかし、ドロップ率は恐ろしく低く一万分の一とも、十万分の一とも言われている。


 ネットで有志がドロップ率の調査を行っていたのだが、魔物を六千体倒してもドロップゼロだった。

 ちなみにそのホームページは、以降の更新が停止したままだ。

 ドロップ調査に飽きたのか、それともダンジョンで死亡したのか。ソラとしては、前者であって欲しいと願っている。


 さておき、この短時間のうちに精錬石が39個だ。

 もし【完全ドロップ】を公表しようものなら、血で血を洗う抗争が勃発し兼ねない。


 絶対に、他人にバレてはいけない。

 ソラは震えながら、隠し通すことを決意する。


 精錬石は非常に高値で取引されているが、売却すればバレてしまう。

 決して売ってはいけない。

 とはいえこのままでは宝の持ち腐れだ。


「折角だし、自分で使うかな」


 そうと決まれば、使用するアイテムを選定だ。

 ソラは入手したアイテムの確認を行う。

 インベントリ内のアイコンをタップすると、アイテムの説明がポップアップした。


名称:革の胸当て+ ランク:UC

防御力:+10 精錬度:―

装備条件:なし

説明:革で出来た胸当て。防御力は低い。魔物と戦うには少々心許ない防具だが、装備者の動きを妨げない。


名称:短剣+ ランク:UC

攻撃力:+14 精錬度:―

装備条件:なし

説明:鉄で出来た長さ40センチのナイフ。攻撃力は低い。攻撃用としては少々力不足。


名称:ホブゴブリンの棍棒 ランク:R

攻撃力:+25 精錬度:―

装備条件:STR+30

説明:ホブゴブリンが装備していた棍棒。暴君により虐殺されたゴブリンの血が染み込んでいる。ただ重いだけの武器だが、力ある者が使えば金棒となる。


「ん、んん……? 攻撃力とか防御力ってあるけど、これってどれくらいの性能なんだろう?」


 試しにソラは、いま着ているシャツをインベントリに入れ、その説明文を表示させる。


名称:布の服 ランク:N

防御力:+0

装備条件:なし

説明:布で出来たただの服。防御力は紙切れに等しい。これだけでダンジョンに向かう者は、魔物を舐めきっている。


 全然参考にならなかった。

 おまけに一切武具を装備していないソラが説明文に揶揄される始末。


「ぐっ……」


 たしかに、布の服だけでダンジョンに入るなんて、馬鹿な真似をしている自覚が一応はあるソラだった。

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