第3話 自動分配調整

「なんだ、これ……?」


 ソラはしばし固まった。

 まるでゲームのステータス画面だ。


「これ、僕の性能か?」


 ステータスを吟味した結果、自分の現在の数値が反映されているので間違いないと結論付けた。


 とはいえ、未知の数値もある。

 たとえばレベルがそうだ。現時点で、冒険者のレベルを計る機器は開発されていない。


 ステータスに関してもそうだが、こちらは体感覚的に間違いなさそうだった。


「他のEランクの人より、少しだけ回避には自信があったけど……なるほど、AGIが高かったからか」


 STRは筋力、VITは体力、AGIは敏捷性、MAGは魔力、SENは感覚だ。

 その中で、ソラはAGIが特に高い。

 実際、ダンジョンでは素早さを活かすよう立ち回っていた。


 また、ソラは魔法が使えない。MAGがゼロなら無理もないことだ。


 このことから、ソラはこのパラメーターが本物だと確信した。


「もしかして、魔力があれば魔法が使えるようになるのかな?」


 ダンジョンが出現したと同時に、一部の人間は魔法を操れるようになった。

 魔物を灰にしたり、魔物の能力を低下させたり、冒険者は様々な魔法を利用してダンジョンを攻略している。


 魔法を扱ってみたいと、ソラは何度願ったことか……。


「ゲームなら、ステータスにポイントを割り振れるんだろうけど、ポイントはゼロ……自動分配中か」


 ステータスに振れるポイントだろうSPはゼロだった。

 SPはたいていの場合、レベルアップと共に増えるものだ。

 それがゼロになっているのは、『自動分配中』のせいだろう。


「自動分配って、ランダムなのかな? んー、なんとかならないかな……おっ?」


 自動分配中をタップすると、小窓が浮かび上がった。


『自動分配を変更しますか? Y/N』


 ソラは迷わずYを押す。するとステータスの表示から『自動分配中』の文字が消えた。


「よし、これで好きなようにステータスが振れるかも? けど、これじゃ試しようがないな……」


 ステータス分配の仕様を変更したのは良いが、SPは相変わらずゼロだ。

 これはレベルが上がらないと増えないと思われる。

 しかし――Lv:5(MAX)――ソラは既に限界レベルに達していた。


 レベルが上がらなければ、SPが増える可能性はない。


「……結局、無駄か」


 初めて見る画面に少々興奮したが、自分が底辺(Fラン)だと思い出したソラは、がくんと肩を落とした。


 もしかしたらこれで強くなれるかも?

 そんな感情は錯覚だ。

 ステータスを少し弄れるようになったからって、強い冒険者になれるわけではない。


「せめて、このMAX表示がなければ希望があったんだけど……」


 とぼとぼとダンジョンを歩き、外に出た。

 その瞬間、ソラの全身が優しい温もりに包まれた。


 ――回復魔術だ。


 固定ダンジョンの外では、暇なヒーラーやバッファーが待機している。

 彼らは誰彼構わずに、ダンジョンに出入りする冒険者に向けてヒールやバフを飛ばしている。

 この冒険者達を、辻ヒーラー・辻バッファーと呼ぶ。


 彼らは基本的に、他人のために無償で奉仕している。

 しかし決して彼らに利益がないわけではない。

 ヒールやバフを使い続けると、スキルがパワーアップするのだ。


 たとえばヒールなら、はじめは小さな傷しか治せなくても、使い続けることで大けがも一瞬で治せるようになる。


 スキルがパワーアップするという噂が流れてからしばらくすると、狩りの予定がないヒーラーやバッファーが固定ダンジョンの前に待機するようになっていた。


 ヒールやバフを使われる側にとっても、辻魔法はありがたい。

 ダンジョンを攻略する時には、身体能力が上がるバフをかけてもらえるし、ダンジョンで負った怪我も、ほとんど治癒してもらえるからだ。


 Eランクの冒険者に殴られた怪我が、ヒールによって完治した。

 体中を苛んでいた痛みが、一瞬で消え去った。


 辻ヒールの嵐が途切れると、ヒーラーの中から女性が近づいてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る