第2話 プロローグ2
地面に十センチ大の黒い玉が落ちていた。
固定ダンジョンを攻略する、他の冒険者が落としたものか、はたまた新種の魔物か。ソラは恐る恐る近づいていく。
一メートル程近づいても、玉はピクリとも動かない。新種の魔物ではなさそうだ。
ならば他の冒険者が落としていったのか。
玉は、見れば見るほどそこに存在しているのが疑わしくなるほど黒い色をしていた。
僅かも光を反射していない。新開発した世界で最も黒い塗料が塗られているかのようである。
まるで穴だ。
空間にあいた穴のように感じられる。
少し薄気味悪く感じるが、ソラは手を伸ばした。
これが落とし物なら、探している人がいるはずだ。
ソラが黒い玉を手に取った、その時だった。
「な……うわっ!!」
玉が一瞬にして煙のように舞い上がり、全身を覆い尽くした。
ソラは反射的に呼吸を止め、防御姿勢でバックステップ。
しかし煙はソラから離れない。
(痛くない。苦しくもない?)
少しだけ黒い煙を吸い込んでしまったが、匂いも息苦しさもなかった。
また、攻撃魔法のように痛みを感じることもない。
背中に冷たい汗が流れる。
(どうすればいいんだ!?)
このままではまずい。そうは思うが、どういう対策を取って良いのかがわからない。
息を止めて十秒、二十秒……。
少し苦しくなってきた。だが、黒い煙が毒かと思うと安易に呼吸が出来なかった。
四十秒、五十秒……。
(――ッ!?)
限界が近づいてきた頃、すぅ……と黒い煙が音も無く消えた。
回りに煙がないのを確認して、ソラは慌てて呼吸を再開する。
「はぁ……はぁ……、なんだったんだ、あれは?」
思い起こしても、あんなものは見覚えがなかった。
冒険者向けのアイテムに、逃走用の煙幕や、煙が出るタイプの魔物避けが売っているが、それらには臭いがある。
まったくの無臭で、突然消えることもない。
「そういえばあのとき、僕の胸に吸い込まれていったような……?」
煙の中で、ソラは薄ら目を開けていた。
視界が晴れる直前、黒い煙がソラの胸の中に吸い込まれていったかのように見えた。
試しにソラは胸に手を当てる。
怪我らしき感覚はない。
シャツの中をのぞき込むが、外傷は見当たらない。
目の錯覚だったか。
ソラがそう帰結した時だった。
(憎い)(悔しい)(八つ裂きにしたい)(ぶっ飛ばしたい)(腹立たしい)(情けない)(見返したい)(見下されたくない)(舐められたくない)(仕返ししたい)(踏みにじりたい)(口惜しい)(恨めしい)(妬ましい)
…………
……
…
力があったら
――殺してやりたい。
ドロドロとしたものが、突如として胸で暴れ始めた。
「ぐっ……」
ソラは奥歯を噛みしめ、憎悪に立ち向かう。
感情に振り回されても、ろくな事にならない。
あの冒険者への仕返しを考えたところで、返り討ちに遭うのが関の山だ。
(だって、あいてはEランクなんだし。所詮僕はFランだから……)
この時、ソラはふと思ってしまった。
『自分が強かったら、蹂躙されなかったのに』と。
『でも自分は弱いから、何をされても仕方ないんだ』とも……。
諦観で気分が底まで落ちた時、ソラはぽつりと呟いた。
「強くなりたい」
もう誰にも蹂躙されないくらい、
もう誰にも見下されないくらい、
――強くなりたい。
ソラが願った、その時だった。
名前:天水 ソラ
Lv:5(MAX) ランク:F
SP:0(自動分配中) 職業:初級荷物持ち
STR:5 VIT:6
AGI:11 MAG:0 SEN:7
アビリティ:【 】+
スキル:【完全ドロップ】【限界突破】
装備(効果):――
「……えっ?」
目の前に、半透明のウインドウが浮かび上がったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます