片想いの幼馴染がサバサバ系で、未だに足踏みしてるんだが、どうすればいい?
久野真一
うちの幼馴染はサバサバ系?
カタカタカタ。初夏の
窓の外を見ると、もうすっかり真っ暗で、キーボードの音はよく響く。
「とりあえず、これで一段落、か」
今、作業中の、学園祭Webページのリニューアル作業も一段落。
前のWeb 1.0ぽい古めかしいページもだいぶ今風になって来た。
「へー、さすがヨシ。やるじゃん」
ポンと肩に手を置いて来たのは、見目麗しい少女。
160cmを超す、女子にしては高い身長にアンバランスな程の童顔。
短く切り揃えた髪に、動きやすいパンツルックに、袖の短いシャツ。
昔から、こいつはそんな服装を好んだものだった。
「きーさーは過大評価。俺じゃなくても出来るって」
内心は少し嬉しかったりするのだけど、謙虚を装ってみる。
きーさーこと
「そんな事言って照れ隠しなのは丸わかりだって」
と今度は、うりうりと背中から抱きついてくる。
本当は男としてドキドキするべきなんだろうけど、慣れてしまった。
「まあ、さすがにな。少しは自負はあるさ」
「だと思ったよ。ていうか、ヨシが自分を下げると周りの立場がないって」
そう諭される。
昔から、今の自分に驕るまいとそういう振る舞いが板についていた。
ただ、きーさーからは「下手したら嫌味だからね」とよく言われている。
「わかったわかった。説教はもういいから」
我が
通称
なお、北関東大学は、東京からKita Kanto Express、通称KKEで
秋葉原から45分の距離にある。以前は、陸の孤島と呼ばれていたらしい。
ただ、KKEが当然のようにある俺達にとっては話は別だ。
東京に出るにも、快速で電車一本というのは、なかなかに悪くない。
その上、学生は皆大学周辺に住んでいるので、終電とか気にせず
いつまでも大学周辺で騒いだり遊んだり出来る。
「やっぱりきーさー先輩とヨシ先輩仲いいよねー」
「きーさー先輩、やっぱりヨシ先輩と出来てますよね!?」
なんて黄色い声で女子の後輩が盛り上がるのも、これまた定番の場面。
「ないないって。高校の頃からの同級生ってだけ」
「えー!?絶対それだけじゃないと思うんですけどー」
しかし、きーさーはブレない。
いや、高校の同級生ってのは誤魔化しだけど。
付き合いの長さを言えば、さらに後輩たちは盛り上がるに違いない。
「はいはい。いいから、仕事に戻った戻った」
特に気にした様子もなくて、後輩たちを追い払う。
「はーい。もう、きーさー先輩はからかい甲斐が無いなー」
「でも、絶対何かあるって」
などと言いながら、散り散りになる後輩女子たち。
正確には、委員会の中の広報宣伝局所属のメンバーだ。
「ところで、ちょっとお腹減ったんだけど、夕食行かない?」
ちらとこちらを見て、いつものお誘い。
「俺もちょっと腹減ってたしな。なんか、鶏肉食いたいな」
「じゃあ、
「いいな。よし、行くか」
Meowは俺達の住むアパートの近くにある、定食屋だ。
チキンステーキやオリジナルネギトロ丼などが売り。
早い、美味い、安いの三拍子が揃った学生の味方だ。
と、部室を出るや否や、何気なく手を握ってくる。
握った手のひらから温かさが伝わってくる。
「ああ、もう、このムワッとした熱気。夏だなー」
気恥ずかしさをごまかすように、季節の話題。
「もう嫌になっちゃうよねー」
ごまかしに気づいた様子もなく、同意のきーさー。
恋人でもないのに、こうして二人で手を繋ぐのはいつからだっけ。
(あ、そういえば、入学式だったか)
確か、入学式の時に、アパートに迎えに来たきーさー。
入学式に向かおうとすると、何気なく手を繋いで来たのだった。
あの時は、本当にビビった。だって、とっくに彼女の事は好きだったから。
ただ、あまりにも自然なものだったから、意図を問い詰める事もできず。
そのまま、一年以上が経ってもこのザマだ。
本当に、我ながらヘタレもいいところだ。
(でもなあ。こいつが本当に自然体なもんだから)
繋いだ手を握り返した時も、横目で様子をうかがってもいつも通りだった。
きーさーなりに、何かの考えはあったんだろうけど、未だにわからない。
「あ、そうそう。もうすぐ七夕だよねー」
今は七月上旬。星空の瞬く夜空を見上げながら、どこか嬉しそうだった。
そんな表情の彼女にいつも見惚れながらも、何も言えないで居た。
「確かに。でも、七夕って言っても特になにもないだろ」
そして、こんな何でもない言い方をするばかりなのだ。
「それはそうなんだけどねー」
でも、やっぱりどこか嬉しそうな彼女。
思えば、大学に入ってからのこいつは、いつも楽しそうだった。
もちろん、高校やそれ以前だって、暗かったわけじゃない。
しかし、長年彼女を見てきた俺からすれば、大違いだ。
なんていうか、悩みが吹っ切れたような、と言えばいいのか。
それからも、講義の話題、家族の話題、どうでもいい事を話しながら店に。
「やっぱ、ここのチキンステーキは美味いな」
香ばしく、程よく焼かれた肉をナイフで切り分けて、口に運ぶ。
これと、炊きたてご飯が大変合うのだ。
「だね。庶民と大学生の味方!」
向かいに座るきーさーも美味しそうに肉を頬張っている。
本当に幸せそうなことで。
「ところで、さ。今週の土曜日、ヨシは時間ある?」
ほんの少しだけ、彼女が目を逸らした気がした。
そして、心なしか俯いているような?
「その日だったら、空いてるぞ。行きたいとこでもあるのか?」
二人きりでの遊びのお誘い。
なのに、なんで俺たちはこうも平常運行なのか。
「うーんとさ。
「!?」
肉を頬張っていたおかげで、かろうじて声に出ずに済んだ。
しかし、プラネタリウムだあ!?
こいつにそんな趣味があったなんて初耳なんだが。
「あー、言っとくと、単に若ちゃんにお勧めされたから。それだけ!」
「あ、ああ。若ちゃんなら確かに言いそうだな。うん」
でもって、きーさーをやけに慕っている子でもある。
言われてみれば、彼女がこないだそんな話をしてたかもしれない。
「よし。じゃあ、行くか。俺も初めてだけど、プラネタリウム」
「私も初めてだっての。じゃ、JR有楽町駅に17時集合で」
「あ、ああ」
なんだかわからないままプラネタリウムに行く羽目になった俺。
まあ、今まで行ったことはないけど、気楽に楽しめそうだ。
天井に星空が投影されてて、席から眺めるイメージ。
広報宣伝局でも目を使う仕事をしているし、ちょうどいい。
しかし、俺はすっかり侮っていた。
カップル向けのプラネタリウム席というものがあるなどと。
そんな事は知る由もなかったのだ。
(
なんでまた、わざわざ東京の現地で待ち合わせなんて。
まさか、デートとか。
(いやいや、ないない)
きっと、入学式初日に手を握ってきた時のように。
割とどーでもいいことなんだろう、そうだ、きっと。
繰り返すが、やはり俺は侮っていた。
乙女心という奴は怖いのだとは知らなかったのだ。
◇◇◇◇
時は流れて土曜日の16時30分。
(ちょっと早く来すぎたか)
一応、いつもより少しだけ服に気合いを入れて。
それと、待ち合わせ30分前には来て。
いや、別に意識してるわけじゃなくて、念のためだ、念のため。
(きーさーに限って、ないない)
そりゃ、あいつは女子だし、俺が好きな相手でもある。
しかし、彼女と色っぽい雰囲気になったことなんて、一度も無い。
中高の頃だって、俺が勇気を出して遊びに誘った事は何度もあった。
でも、彼女はやっぱり何でも無いように応じてくれるだけだった。
わかってはいるのだ。俺がヘタレなのだと。
そもそも、何度二人きりで遊んでいるというのだろう。
いくら彼女がいつもどおりの様子だからといっても。
(まあいいや、また今度、考えよう)
こうして、いつもの先送り。
「ヨシ。随分早いね?」
ポンと肩を叩かれて、
「ああ。きーさーも早いな。って、え!?」
振り向いた俺は言葉を失っていた。
化粧をしている。それはいい。
だいぶ前からの事だし、今更だ。
しかし、やけに胸元を強調する服に。
ネイビーブルーで膝上までのスカート。
靴もスニーカーじゃなくて、ハイヒールだ。
いつもと違う香水に、ツバ付きのお洒落な帽子。
「……」
俺は予想外すぎる出で立ちに呆然としていた。
「すごい、似合ってるぞ」
にも関わらず、自然とその言葉は口から出ていた。
「あ、ううん。ありがとう」
ちょっと待て。そこで、「何照れてるの?」って。
いつものお前ならそうからかうところだろう?
なんで、ニヤニヤしてるんだよ。
「じゃあ、行くよ?」
と、やっぱりさっと手を繋がれて引っ張られる。
しかし、俺はといえば大変落ち着かない。
「……で、そのプラネタリウムは?」
考えてみれば、有楽町付近ということしか聞いていない。
そんな適当なところも昔からで気にしたことはなかったけど。
「歩いて10分くらい」
「そっか……じゃあ、任せる」
「ほいな」
いつもなら、何でもないことを喋れるのに。
何故か、全く言葉が出てこない。
落ち着け、落ち着け。
ただ単にいつもより気合い入れた服着てきただけだろ?
それだけでこうも意識しまくるとか。
いや、でも、ひょっとして、今日のお誘いは特別な意味が?
プラネタリウムに着くまでそわそわしっ放しだった。
「えーと、それではチケットを拝見しますね」
入り口の係員さんに危なげなく彼女はチケットを渡して、
俺たちは入場。なのだが、
「な、なあ。まさかとは思うけどさ……」
俺はといえば、場内に設置された、二人用の席に目が釘付け。
他にも、カップルらしき男女がちらほらと。
どうも、カップル用シートという奴らしい。
「とにかく。黙ってついてきて?」
「は、はい」
さすがに、こいつが超緊張しているのが伝わってきた。
薄暗い中でも表情が堅いのがわかる。
「なんか、俺は驚いて何も言えないんだけど……」
驚き過ぎると逆に冷静になると言うのだろうか。
気がついたら、隣のきーさーとカップル席に座っていた。
「少しは意図、伝わった?」
小さな声で、囁かれる。
「ああ、たぶん」
ここまでされて気づかない程、俺も鈍感じゃない。
つまりは、今日は一気に距離を詰めに来たんだろう。
ヴー、ヴー。通知のバイブレーションが鳴る。
まだ始まる前だからと素早くメッセージを確認。
すると。
【きーさー先輩の想いに応えてあげてくださいね?】
若ちゃんこと若菜ちゃんからだった。
こりゃ、完璧に嵌められたな。
考えてみれば、きーさーも彼女からお勧めされたと言っていた。
裏で女子同士、何やら悪巧みしていたに違いない。
しかし、だ。こんな状態だとプラネタリウムを楽しむどころじゃないんだが。
きーさーはそれでいて、俺の膝の上に手を置いてくるし、ああ、もう。
ここで応えなきゃ男が廃る。というわけで、手を彼女の手のひらの上に置く。
「っ」
何やらくすぐったそうに顔を背ける仕草すらとても可愛らしい。
片想いだと思っていたけど、これってどう考えても、きーさーもオレのことを。
そんな事ばっかり考えて、一時間程の上映をぼーっと見過ごしていた。
若ちゃんには感謝したものか、怒ったものか。
そして、プラネタリウムが終わっても、彼女の攻勢は続いた。
「なあ、お前とこんなお洒落喫茶店来たの初めてなんだが」
「私も初めてだって……」
向かい合って、有楽町駅近くの高級ぽい喫茶店で向かい合う俺たち。
このデート、完璧に若ちゃんのコーディネートだな。
「なあ、えーとさ。オレとしては嬉しいんだけどさ」
雰囲気ぶち壊しかもしれない。しかし、聞いておきたかったのだ。
「うん?」
「これって、若ちゃんがコーディネートしただろ」
「まあ、そういうこと……」
もうすっかり、乙女乙女していて、ノックアウト寸前だ。
やはり彼女には感謝すべきか。帰る前に東京土産でも買って帰ろう。
「ハーブティー?俺、こんなの初めてなんだけどな。でも、美味いな」
「うん。若ちゃんに感謝だね」
そして、二人で紅茶をしばし楽しんだ後は、有楽町駅まで歩くだけ。
「それで、話があるんだけど。聞いてくれる?」
暗い街の中で、こういう雰囲気。
ああ、もう。ここまで来れば、俺だって次の意図はわかる。
しかし、こいつに一方的に頑張らせるのは我慢ならない。
「ちょっと待ってくれ。俺からも話がある!」
「え?ちょ、ちょっと待って。その、予定が……」
「予定なんか知るか。ちょっとついて来い」
一応、ハイヒールなのを考慮して、ゆっくり、ゆっくりと。
そして、俺達は、人気のない高架橋下に来ていた。
これ、いい雰囲気というより、犯罪臭がするような?
(場所の選定間違えた!)
とは言え、もう後の祭りだ。
「悪い。緊張し過ぎて場所選び間違えた」
申し訳ない気持ちでいっぱいで謝るも。
「っぷ。っっっっっ」
きーさーの奴は腹を抱えて笑ってやがる。
もう色々な意味で雰囲気ぶち壊しだ。
「もういい。一息でいうからな。お前のことがずっと好きだった。付き合おう」
もうちょっといい雰囲気のところ調べておくんだったとか。
そんな事を思いながら、決定的な言葉を告げたのだった。
「もうちょっと場所考えてよ。ほんとに、もう」
返ってきたのは、しょうがないなあ、という顔の彼女。
少し涙ぐみながらも、はにかんだ笑顔には見惚れてしまいそう。
「それはほんと悪かった」
きっと、告白の場所も、きっと考えてあったのだろう。
それが雰囲気のかけらも無い高架橋の下でとは。
「ま、いいよ。私も好きだったし。付き合おっか」
あっさりとした告白の返事。
「で、答え合わせと行きたいんだけど」
「うん?若ちゃんからってのはもう言ったと思うけど」
「いや、そうじゃなくて、入学式の時」
思えば、あの時に意図を問い質せば良かったのかもしれない。
「あー、あれね。ようやく気づいてくれた?」
「つーことは、あれ、なんかの言葉、期待してたのか?」
あまりにも平然と手をつないできたから、意図を掴みかねていた。
「当然でしょーに。ヨシが完璧にスルーしてくれたのが悪い」
「いやいや、ならさ。「どう?」とかなんとか言えよ」
今更ながらに、あの時の事を思い出す。
「だって、こう。サバサバした感じじゃなくなっちゃうじゃん」
「いやいや。そんな事どうでもいいだろ。俺はドキドキものだったんだが?」
あれから、もう一年以上。
「もうちょっと表情に出してよ。昔から、表情があまり変わらないんだから」
「いや、それこそ、お前はよく知ってるだろ」
俺自身は、人並み以上に喜怒哀楽はある方だと思う。
ただ、それがあまり表情に出ないらしい。
「わかってるけど。私は、あの時、かなり勇気出したつもりなんだけど」
「それくらいは今になればわかるよ。でもさあ……」
と、延々とお互いへの責任のなすりつけ合いになった後。
「ま、いっか。改めて、よろしくな、きーさー」
「そだね。よろしく、ヨシ」
ということで、丸く収まったかと思ったのだけど。
◇◇◇◇
翌週の月曜日。広報宣伝局での一角。
『祝!きーさー先輩❤ヨシ先輩』
などという垂れ幕が。
「若ちゃん。これ、お前の差し金だよな」
「めでたくくっついたんだから、いいじゃないですかー」
そう言われるとつらいところだが。
「といっても、委員会公認カップルみたいで、ちょっとな……」
「う、うん。そう……」
隣のきーさーも居心地が悪そうだ。
「はー、もう。知らぬは本人たちばかりといいますか」
「「え?」」
見事にハモった。
「
「賭けだあ?何の?」
「二人がいつ、くっつくか」
とんでもない事実だった。
「なあ、俺たち、そんなにわかりやすかったか?」
「それはもう。逆に、皆、なんであれで付き合ってないんだ?でしたし」
そう言われると、仲良く手をつないで歩いてて、友達ですとか。
確かに、何かおかしいのはわかる。わかるが……
「まあ、そうだな。諦めるか」
「ちょ、ちょっと。ヨシ。私はさすがに恥ずいんだけど……」
出来たばかりの彼女は照れ照れ。
服装はいつも通りに戻っていたのはちょっぴり残念。
彼女曰く、「やっぱり、動きやすい服装がいい」だそうで。
「まあ、確かに。でもさ、たまには、こういうのもいいんじゃないか?」
「そうだねえ。ま、いっか」
結局、くっついたはいいものの、距離感は相変わらずの俺たちだった。
(しかし、これだと……)
今度、色っぽい雰囲気になるのは、一体いつになるやら。
また、後輩に何か吹き込んでもらった方がいいだろうか?
なんて、邪な事を考えてしまう俺だった。
片想いの幼馴染がサバサバ系で、未だに足踏みしてるんだが、どうすればいい? 久野真一 @kuno1234
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