番外編「異世界チート魔法使い(仮)」
「た、助けてええ!」
ハニーはだだっ広い高原の中でそれはもうとても大きなカエルに追いかけられていました。カエル・・・?ハニーも、自分の身を守れるぐらいの最低限の装備と、ナイフを携えているにもかかわらず、本人はこの通り臆病な性格なのでいざモンスターと遭遇するとすぐに逃げ出す有様です。
「僕は食べても美味しくないよおおおお!!あだっ!」
芝生から突き出た岩に躓いて派手にすっ転びました。芝生のおかげでたいして痛くありませんが、今痛くなかったところで、これからもっと散々な目に遭うというのに。
「ギギギ・・・。」
長い舌がだらりとはみ出し、縦長のハニーをしっかりと捉えます。
「い・・・嫌だ・・・。」
近づく大きな影と迫りくる恐怖に飲み込まれ、もはや腰を抜かしてしまい、再び立ち上がる気さえ起こりません。絶望の傍ら、助けを求める声を心の中で叫んだ、その時。
「ファイアーストーム!!!」
甲高い叫び声の直後、カエルは真っ赤な炎に包まれ、すりつぶされたような断末魔をあげながら悶え、火達磨になって炎の中で踊っています。
「あ・・・え・・・?」
突然発火したカエル、なにが起こったか見当もつかないハニーは熱気から後退りしました。やがて動かなくなったモンスターが真っ黒焦げの芝生の上に乾いた音と共に倒れます。その後ろから現れたのは、犬の耳の獣人・・・しかも少女。彼女もまた武装していますが、スカートにフリルなど可愛らしい意匠が施されています。
「大丈夫!?」
随分元気いっぱいの声で話しかけてきます。
「う、うん・・・。」
たいしてハニーのなんと弱々しいことか。
「あなた、見た感じ初心者かしら!ここらへんの敵は少しなれた人向けよ!初心者は・・・そうね!地道にスライムから始めたらいいわ!」
「・・・はぁ。」
間の抜けた返事しかできません。実を言うと、ハニーは今いる世界のこともあんまりわかっていないからです。気づいたらこの世界にいた、といいますか。目の前にいる少女の方がよほど詳しそうです。世界のことをいろいろ聞く前に、まずは名乗り合わないと。
「あなたは、何者ですか?」
自分は名前ぐらいしか自然に話せる情報がありません、まずは相手から聞きたいところ。
「私はアリス=リデル!ギルドに所属する魔法使いよ!あなた人畜無害そうだから特別に話してあげる!」
自信満々に、誇らしげに胸を張ったアリスは続けました。
「私、実はこの世界に転生したの!生まれ変わった私はすごいチートな力を持つ魔法使いなんですって!この世界のことさっぱりわからないから私も慣れるとこからだけどね!」
ハニーはさっぱりです。ただでさえ世界のこともわからないのに。
「すごい喧嘩売ってる気がするけど大丈夫なの?」
気づいたら自分も意味不明なことを呟いていましたがそれに関しては。
「私、悪いこと言ってないじゃない!それになに言おうと作者が被害被るだけだから関係ないわ!」
メタで返してきました。どうか今のは聞かなかったことにしてください。
「僕はハニー。えっと・・・うん、初心者?です。スライム?なんだそれ・・・わかったよ。助けてくれてありがとう。」
世界の知識もないので、いちいち自信がなさそうなのも無理がありません。
「無理しないでね!じゃあね!」
アリスは振り返り、颯爽と去っていきます。
「僕も頑張ったらああなれるのかなぁ。・・・転生?」
アリスが途中で言った言葉が、今更ながら引っかかります。
「転生って、確か・・・死んで生まれ変わったってことだったような。へぇ、そんなことあるんだ。生まれ変わったってわかるものなのかな?」
もう誰も襲ってこなくなったのに安堵して立ち上がります。
「・・・死んだ?アリスが?」
違う考え事を始めようとしたら、世界が一瞬で闇に閉ざされ、そしていつのまにか自分の部屋にいました。毎度恒例夢オチです。
「・・・。」
ぼーっと自分の手のひらをみつめます。嫌な夢でも、特別いい夢でもない、ただ不思議な世界に自分とアリスがいて・・・目が覚めたらそれでおしまい、そのはずなのに。
「こんな夢を見ている場合じゃない・・・気がする・・・。」
そう呟いて、顔を洗ってすっかり目が覚めた頃には夢の内容なんて忘れていました。
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