24話 アリスのお引っ越しと魔獣

アリスは早速、ベネアシティにやってきました。外側は木の板で貼り付けられた家や店が立ち並び、坂道が至るところにあります。きっと一番上はさぞかし見晴らしがいいことでしょう。なんせ、この街もまた海と面しているので、てっぺんから覗けば一望できるのでは?

「〜♪」

鼻歌を唄いながら、夢中になって登り坂を歩きます。突然ここにきた最大の目的を思い出しました。

「そうだ!私、空き家を探しにきたのよ!」

くるりと振り返り、自分があがってきた急な勾配を見下ろします。

「悪魔さん、こう言う時は誰に聞けばいいのかしら。」

人が多いところで口に出しての独り言は言えません。いつものように、彼女の中に居候している存在に心の中で話しかけますが無視されます。

「・・・ふん!いいわよ!自力でなんとかするから!」

苛立ちのあまり、こちらは思わず言葉に出てしまいました。調子に乗って、てっぺんまで登り詰めようとしていたアリス、ここから先は民家しか見えず。情報を集めるならもっと一通りのある場所へ行かないと。今度は坂を下り始めます。


「すみません。」

道ゆく人に、手当たり次第に声をかけていきました。

「ん?」

「この辺に、空き家はありませんか?」

質問の内容に、困惑するひとも多数いました。何も難しい質問はしていません。子供がこんなこと、まず聞いてくるでしょうか?しかし、子供に困り顔で尋ねられらると、いやな顔はなかなかできないもので。

「うーん。ちらほらあるけどねぇ、頂上付近とか、端の集落とか。物件屋さんに聞くのが一番いいよ。」

親切なひとは、丁寧にわかりやすく、物件屋がどこにあるかを教えてくれたので、すぐに到着する事ができました。

「すみません。空き家を探しているのですが。」

物件屋の中、カウンターの中にいたのはものすごく無愛想なおじいさんでした。眼鏡の奥の飛び出た瞳がぎょろりとアリスを睨みます。

「んん?嬢ちゃん・・・パパとママは。」

そうです。これです。

普通なら、子供が一人こんなことを聞きにくるなんて、どの世界でも大概はありえないのです。わかってはいたけれど、どうしようもなく、出るのは言い訳でも上手い嘘でもなく、ため息だけ。

「・・・住民票、お金その他もろもろ持っているちゃあんとした客でないと売れないんだ。家ってのは、そんな楽な買い物じゃなくてね。」

「わかってるわよ・・・。」

店主の言い分はごもっともです。家を売買するのと美味しそうなパンを買うのとは訳が違います。でも、改めて現実を突きつけられるといかに自分が惨めなのかを知らされて、勝手に切なくなってきます。

「・・・ベネアシティからは外れるがな、だぁれも住もうとしない、訳あり物件があるんだよ。もし、そこでいいってなら、金以外の条件で売ってもいいぞ?」

アリスはカウンターに手をついて身を乗り出し、嬉々をいっぱいあらわにした顔をグイッと近づけます。

「ほんと!?」

「何も聞きやしないんだな・・・あぁ、ほんとだよ。ま、百聞は一見にしかずだ。見た方が早い、ついてきな。」

杖をついた猫背のおじいさんについていきます。店を出て、いろんな坂道をのぼって、くだって。やがて人気のない寂れた村にたどり着きました。こんな街にもこんな場所があっただなんて驚きです。さらに奥に進むと山に囲まれた一軒家に到着。建物自体は古くはなく、手入れはされていないので埃や汚れが目立ちますが、掃除してあげれば綺麗になる程度。

「これのどこが訳ありなの?」

「家自体にはなにもないんだ。おそらく、な・・・。問題はこの家の周りにある。」

ごほん、とわざとらしい咳払いをすると、まるでそれが合図みたいに鬱蒼と茂った山が揺れてたくさんの黒い鳥が一斉に空に羽ばたいていきます。

「凶暴な動物が多いのかしら。」

おじいさんが家を睨みながら、杖を振ります。なんと、杖が斧に姿を変えました。アリスの目は手品みたいなそれに早くも釘付けです。

「動物というのが可愛らしいぐらいだな。あいつがここら辺をうろついているから誰も怖がって住まんのだ。駆除しようにも、できたら苦労せんわい・・・来るぞ!」

より一層警戒します。斧を持つ手は音が鳴るほど力を入れて、足を踏ん張り、目力のある大きな双眸があっちこっち動きまわります。アリスもただごとではないと神経を尖らせます。


「グオオオオオオォォォォオオオオオッッッ!!」

耳を劈くような重厚な獣の咆哮が一体の空気が震えます。前方から、ズシン、ズシンと、地響きと共に近づいてくる足音。森の中から現れたのは、灰色に斑尾模様のとてつもなく巨大な獣。強靭な肉体、剣の切っ先みたいなするどい牙と爪、金色に縦に裂けた細い瞳孔。圧倒的な敵意。見るからに太刀打ちできないというのがわかります。

「ね、ねぇ・・・逃げた方がいいのでは?」

「当然だ。こいつは街にまで降りてこん、ここら辺をうろついているだけだからな。」

そんな二人などお構い無しに、獣はこちらに突っ込んできました。二手に避けて、次に狙うはアリスです。

「させるか!!」

おじいさんは獣を目掛けて斧を振り下ろしますが、前足で軽く蹴られただけで痩せこけた体は枯葉のように飛んで、地面に何度か体を打ち付けました。アリスは戦慄します。自分だって当然ああなるし、さらに手持ち無沙汰なのです。どうあがいても勝ち目なんかありません。

「あぁ、私はあの子がいないとなにもできないんだわ。」

いきなり出てこなくなった、自分の中に確かにいた頼れる存在。彼女の力があってからこそアリスにできないことだってなんとかやってこれたのに。今が一番なんとかしてほしいのに。助けてほしいのに。獣は土をならして狙いを定めます。こんなところで呆気なく死んでしまうなんて。


そして、勢いよく突進してきました。アリスは恐怖のあまり、腕を前に伸ばします。たとえこれが無駄な抵抗だとしても体が勝手に動いたのだから仕方ありません。

「うっ・・・え?」

おかしい、もうそろそろ吹っ飛んで昼間の空でも輝くお星様になっている頃だというのに、地に足をついて立っているではありませんか。しかも、小さな手、足、体で獣を真正面から止めていたのです。何より驚きなのはアリス自身が驚いていることでした。

「うそ・・・これ、私がやってるの?」

たいして力を入れているわけではなく、試しにゆっくりと前進すると、地面に痕を残しながら獣が押し返されていきます。

「信じられん・・・。」

やっと体を起こしたおじいさんは目を疑う光景に動きもできず茫然とへたりこむのみ。心配しなくても、信じられないのはアリスもですが、今ので少し自信がついた模様。一旦腕を曲げてもう一度、さらに力を入れて突き放してバランスを崩した獣の腕にしがみつき、足を大きく開いて・・・。

「でやああああああ!!」

体を捻り、数倍もある巨躯を華麗にぶん投げました。なにが起こったかわからないまま遥か遠くの山の中に埋れて、落下したのでしょう。しばらくしてから地震かと勘違いするほどの衝撃に家までも揺れました。


「・・・・・・。」


獣は再びこちらにくることはありませんでした。

「・・・奴は消える。だから駆除ができんのだ・・・いてて。」

アリスは慌てて駆け寄ります。

「大丈夫?」

「あぁ、これぐらい平気だ。しかし、嬢ちゃん、何者・・・?」

その問いにどう答えていいかもさっぱりです。自分でやった事という実感がいまいちしなかったもので。

「火事場の馬鹿力ってやつね。」

ええ、それでごまかせないことは知っていますが、理解の範疇を遥かに超えるとそれ以上聞く気になれませんでした。




物件屋が出す条件、それはあの謎の獣。彼はあれを駆除できない限りこの空き家の新たな主人は一生見つからないだろうと思っていました・・・が、ひとりの、しかも少女によってあっさり覆されてしまったのです。本気にしていなかったおじいさんも言った手前はちゃんと応じないといけません。どのみちあんな獣が存在しているという時点で落ち着かない街の人もいたぐらいでしたから、願ったり叶ったり、いい事だらけ。さすがに家をタダで譲るのは難しいらしいので、ローンで支払うことに。そのかわり、生活費は大負けしてくれました。彼女の事情を考慮して、目を瞑ってくれたようです。手続きを終え、アリスは今日より新しい家にお引っ越しです!


「うーん!」

引っ越し屋さんに頼んで、荷物を全部持ってきました。改めて新しいお家にウキウキのアリス。なにより、雨風が凌げるというだけで十分すぎるほどの贅沢です。キッチン、トイレ、お風呂・・・どこの家にも大体あるものがあることにこれほどまでに感動するとは。水は近くに井戸があり、少し降りたら川も流れています。ちなみに、ウィリアムからもらったドラム缶も庭に置くことに。自分が頼んだものだし、あの時はお引っ越しするなんて想像だにしていなかったのですもの。

「まずは掃除ね!大変だけど・・・いいえ、逆にやりがいがあるってもんよ!ピカピカにするんだから!」

ほうき、ちりとり、雑巾、バケツと掃除道具一式を用意して、これから住むことになるんですから綺麗にしないと。色々ありましたが、今日もいい天気、アリスは大張り切り!


庭にビニールシートを敷いて仰向けのアリス。休憩中です。マルコは肩と首の間にお尻をひっつけて熟睡。雲ひとつない青空に心は踊り、気分は弾みます。やっぱ晴れはいいもので、さっき休もうとしたばかりなのに早くも体が動こうとうずいています。すると、視界の隅からひょっこり現れた暗い影が自分を見下ろします。逆光でなんにもわかりません。驚いて飛び起きると、そこにはこの前アリスがぶん投げた獣に似た何かでした。毛の色と模様、牙と爪、見た目は確かにあの獣なのですが大きさはアリスと同程度。

「あなた、昨日の・・・子供?」

後ろに飛び退いて、牙を剥き出し毛を逆立たせ、うなっています。どうしたものかとほとほと困っていると、アリスの頭の中に誰かが話しかけてきました。悪魔の声ではなく、男の声です。

「ここは我のアジトだ。長年の眠りから目を覚ましたと思えば勝手に建物を建てて、侵入するなど許さん・・・!」

まさかとは思いつつ、だって他には考えられません。おそらくこの獣がどうにかして話しかけているのでしょう。まあ、全然起きようとしないマルコだってひとの言葉を話せるわけですから、きっとそんなことをできる動物もいるんだと言い聞かせます。

「ごめんなさいね、知らなかったの。ねえ、ひとつ提案があるわ。一緒に暮らしましょう。私はあなたの住むここを奪うつもりはないの、でも家がない私がやっと見つけたのがここなの。お互い助け合って過ごすの、悪くないと思わない?」

アリスは実際に口に出して話しかけます。はたして、うまくいくでしょうか。

「助け合う・・・?」

そう、すぐにしんじられるわけもなく、獣はまだ疑っています。そこで、決定的に心を傾かせるメリットを考えます。

「あなた、街には降りないのよね?私が街でお買い物して、美味しいものを食べさせてあげる!お金がないから、毎日とはいかないけどね。あなたは・・・わからないけど、何かあったら助けて頂戴。」

困っていない状況でいきなり助けてほしいことなんて浮かびません。獣は俯いて、しばらくじっと固まります。彼なりに考えているのかも。

「・・・共生か。お互いの領域をこれより侵さないと言うのであれば、いいだろう。」

おすわりして見上げる仕草に敵意はもうなく、むしろとても愛らしい顔で、店先にぬいぐるみと一緒に並んでもおかしくないぐらい。

「・・・。」

攻撃する気配が感じられないので、そっと頭を撫でてみました。細く肌触りの良い毛が手を包み、てのひらの感触に反応するかのように猫じゃらしみたいなふさふさの毛を忙しなく振りました。

「交渉成立ね!改めてよろしく!私はアリシア、アリスって呼ばれてるわ!あっ、こっちのネズミはマルコって言って私の家族だから絶対に食べちゃダメよ。」

獣は難しい顔で首を横に振りました。動物だけど、なんともわかりやすい表情。

「あなた、名前は?って言うか、なんて動物なの?」

「野生の獣に名前なんてあるわけないだろう。動物・・・ひとは我らをバンダースナッチと呼んでいたが。」

アリスは頭をうんと捻ります。

「あなたの名前は今日からスナッチよ!」

獣は気に入らないのかまたも首を横に振ります。

「えーっ!?じゃーあー・・・。・・・。」

頭の隅に、全く知らないはずの名前がぽんと浮かびます。妙に懐かしい、知らないのに知っているような名前。アリスはそれをこの獣につけることにしました。

「あなたの名前は「ダイナ」よ。」

「・・・好きに呼べ。」

ダイナと名を勝手に付けられた獣はそっけない返事を残して森の中に消えました。好きに呼んでいいなら、さっきの名前でもよかったのに、と今はもう見えない背中に訴えます。


アリスの奮闘のおかげで、一日でピカピカ!少し広めのなんでもない部屋の、ベッドの上でくつろいでいます。

「マルコ!素晴らしいわ!屋根がある!壁がある!ベッドがあるし・・・えっと、時計があるわ!」

ついでに言われた時計は世の基準に合わせた正しい時刻を秒針で刻んでいきます。

「よかったね。」

ごく当たり前のことなのはネズミのマルコだって知っていますが、それすらアリスにはかなわなかったものですから、水を差す発言はぐっと堪えました。しかし、お引っ越ししたアリスがやらなければいけないことはまだまだいっぱいありました。急かしさえしなければ言っても大丈夫だろう、とマルコはテーブルの上に二本足で立って、胸を張ります。

「アリス!引っ越ししたからには戻れなくなるような遠出はダメ!お戻り券はもう使えないんだからね!あと職場が遠いなら転職も考えなきゃダメだよ!」

「うーん、わかってるわよ。」

難しいことを説教されてる気がして、アリスは深いため息。

「あと、ご近所さんとうまくやってくことも大事かもね!」

「めんどくさ・・・違うとこに引っ越そうかな・・・。」

誰かと関わるのが嫌いなわけではありませんが、「付き合わなくてはいけない」という決められた交流がアリスは嫌いでなりません。

「村八分なんかになったら大変だよ!」

なんでマルコがそんな言葉を知っていて、アリスまで知っているかはわかりませんが。

「そうなったらほんとに引っ越すからいいわよ。っていうか、ここらへんに住んでるひといるの?」

今日は疲れたにもかかわらず食欲のないアリス。そういう日だって、ありますよね?歯磨きも終えて、初めてのお風呂も堪能して、後はもう寝るだけです。時刻は八時。寝るには少し早いかもしれませんが、細かいことは置いといて。だって、疲れているんですもの。しかし、そんなことはここにいるマルコ以外だーれも知りません。だから、寂れた村にやってきた客人は遠慮なく家のドアをたたくのです。

「ご近所さんかな?」

さすがのアリスも、初めて来るご近所さんを冷たく迎えるような真似はしません。ドアを開けると、そこにいたのは・・・。

「ウィリアムさん!?」

「アリス様!!?」

なんと、ウィリアムでした。いつもの赤いチョッキと、紙束が入った鞄を持って。アリス以上の大きな声とともに驚いてその場に尻餅をついてしまいます。

「確か女王陛下の側近だっけ。」

「ネズミが喋ったああああ!!」

マルコがアリスの肩からひょっこりのぞいて話しかけます。ええ、わざとです。

「叫んだら近所迷惑よ。・・・誰もいないけど。何の用?」

ウィリアムは立ち上がり、特に乱れてもない襟を正し、腰についた土埃を払います。

「ええ、忘れ物をとりに来ました。ここは元々、私めの家ですので。」

「ええぇー!!?」

今度はアリスの叫びが静かな村の一部に響きました。


「あぁ、こんなところに・・・。」

ウィリアムは棚の中から何かを取り出してカバンに入れました。自分の家なのに、自分以上に家に詳しいひとが物色しているところを見るとアリスはなんだか複雑な気持ちです。それでも初めて家に来てくれた人で、顔見知りですから、お茶の一つでも出そうかと思いました・・・が、引っ越した当日に人に出すものまであるわけもなく。

「いつ頃まで住んでいたの?」

「結構前ですね。城に勤めはじめて通うのが難しくなったので、引っ越すことにしたんです。別の方にお譲りしたのですが、その方も引っ越したんですね。」

アリスの視線にウィリアムはどうしていいかわからず、苦笑い。

「あぁ、いえ。今は私の家ではありませんので。」

ですが、まだ彼女の睨むような視線は外しません。

「ウィリアムさん、どうか私がここに住んでいることは誰にも言わないで。特に女王様。」

少女らしからぬ異様な圧にウィリアムの背筋が凍ります。

「だってフツーありえないでしょ!国の女王様に家がバレるなんて!」

「あ、あぁ。そうですね。わかりました。」

そこらへん、ウィリアムは常に女王様のそばに仕えていたので庶民としての感覚が薄れていた模様。それ以上に女王様こと、グローリアは面倒な性格なのは薄々わかってきていましたので。

「では、用事も済んだので私はこの辺で・・・あっ、そうだ。」

突然なにかを思い出したかのように、かばんから紙を一枚アリスに渡します。

「なあに、これ。」

紙にはこう書かれてありました。


×月××日××時

ワンダーランド西部ミドワ街行通B区

国内に潜伏中の身体密売人が変死体となって発見。警察はこれを殺人と断定。目撃者による情報によると、殺害したのは淡いクリーム色の毛の垂れ耳の犬の獣人の少女で、水色のチェックのワンピースを着ていたとのこと。


身体密売人を見つけ、捕らえた者には国から褒美がもらえるとされている。当然、厳密な取調などもあるが、この事実には変わりない。


心当たりのある方は以下記載の電話番号に連絡したあと、警察署に・・・。

(以下の長ったらしい文はアリスが読み飛ばしてしまった。)



「ふぅん。」

紙から視線をあげると、ひどくおどおどしたウィリアムが。

「・・・まさかとは思いませんが、その・・・。」

アリスは素っ気なく。

「私が殺したって言ったら?」

「ええっ!」

声がとんでもなく上ずります。でもアリスの態度は変わりません。

「冗談よ。褒美がもらえるのね・・・でも、私は全く身に覚えがないから残念ね。」

「ほ、ほんとですか?」

震えるか細い声に怯える体。両手を前にぎゅっとして一歩だけあとずさり。まるで少女を前にして大きな獣に襲われているみたい。

「ええ。私は殺してないわ。褒美は欲しいけれど、やってもいないことをやりましたって言ったら、いつかボロが出てしまいそう!ご褒美が欲しいから嘘をついた悪い子!っておしおきされるんだわ!」

アリスったら、本当に野生の熊みたいに体を伸ばし指を折り曲げた両手を上げてウィリアムを追いかけ回しはじめました。

「な、なんですか!なんなんですか!」

悪ふざけしているわけではないのですが、追いかけてくるもんですから体が勝手にうごいてしまい、突然の追いかけっこが始まりました。


「はぁ、はぁ・・・それでは今度こそ、失礼します・・・。」

アリスはとてもご機嫌で手を振り、ウィリアムはへとへとで去っていきます。独り言を呟きながら、街灯が照らす坂道を下って。

「アリスでなくてよかった・・・それに、意外にもしっかりした考えをお持ちでらっしゃる。」

そして、彼はちょっとだけ嬉しくもありました。あんなに振り回されたのに?アリスの考えが大人よりも大人だったから?


アリスの新しい家の庭に、自分が持ってきたドラム缶があったこと。


彼は知りませんが、アリスはもらったものは大切にしたい女の子なのです。

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