「番外編」 お料理
「先生、今日は何を作るんですか?」
TAMAGOとプリントされたエプロンのハニーと、フリルのついた可愛らしいエプロンのアリスが並んでいます。ちなみに、先生とはアリスのことです。
「ハンバーグを作るわ!」
そう言って、台の上に並べられた材料を目で追って確認します。
「まずは材料よ。何かのひき肉、玉ねぎ、油、塩、胡椒、砂糖、ケチャップ、ウスターソース、醤油!」
それぞれ透明の器に適量が入れてあります。ひき肉は一見、スーパーでよく見る形のただのひき肉ですが・・・?
「待って先生。何かって何?言う必要あります?」
「まずは玉ねぎを微塵切りにしなくちゃ。涙が出ないよう、対策をしなくてはいけないわね。」
ハニーのツッコミを無視して、アリスが下の引き出しからガスマスクを取り出しました。いくらなんでも大袈裟ですし、エプロンと少女とガスマスクのなんとミスマッチなことか。
「怖いよ!」
ハニーは本気で怯えています。慣れた手つきで玉ねぎをみじん切りしたあと、フライパンに入れます。次の作業は、口ばかり動かして肝心の手が全く動いていないハニーに交代。
「次は飴色になるまで炒めます。炒めてる間暇なので、最近覚えたばかりの手品をします。」
またも引き出しを漁るアリス。あれでもない、これでもない、納得のいくものが中々見つかりません。探している間に時間がかかりました。やっと見つけたのは一つのコインと竹串。
「ここにコインがあります。なんとー、じゃん!」
「先生、できました。」
コインを棒が貫通したところでハニーの作業もひと段落。もともと穴の空いていたコインと棒をしまって、次にいきます。
「次にタネを作るわね。ひき肉とさっき炒めた玉ねぎをぶちこんで、混ぜますが、早く混ぜたいひとはこれを使うといいでしょう!」
片手にミキサー。それが中途半端にツッコミ辛いでハニーは心配しつつ、様子見。
「大丈夫かなぁ。」
機械が作動。ボールをしっかり押さえ、ミキサーでかき混ぜていきます。さすが、機械の力を借りたおかげであっという間にタネの完成。適当な形を手にとり、形を作ります。
「楕円形にして形を整え、今から投げるから受け止めて!」
「えっ!?わあっ!」
至近距離で、なんとアリスは固めた肉な塊をハニー目掛けて勢いよく投げつけたのです。機敏に反応したハニーは両手でキャッチ。柔らかいはずの塊が、パァンと弾けるような音を立てます。
「キャッチボールしながら料理もできる、最高ね!」
料理中に、食べ物で遊んではいけません。そんな常識にとらわれ動けないハニーに対して容赦なくまた投げつけます。キャッチボールといえど、これではまるで一方的。
「皆さんは自分の片手から片手になげぶっ!!」
見事顔面に喰らいました。
「よそ見してたら肉の塊を食べる羽目になるわよ。」
それは勘弁。食べ物を粗末にするわけにもいかないので、相当焦りながらアリスの理不尽に付き合いました。数分後。
「さあ!焼くわ!油を敷きましょう。」
一番の山場です。しかし・・・。
「先生!!!それ油は油でもガソリンですよ!?」
アリスが用意したのはガソリンです。
「だってさっき炒めるのに全部使ったもん。早く焼けていいじゃない!」
さすがのハニーも羽交い締めで制止しますがつま先を思いっきり踏まれて響き渡る悲鳴。
「いたーっ!ちょっ、僕らまで丸焦げになりますよ!?そもそもなんで料理番組にガソリンなんかあるんですか!」
これから起こるだろう大惨事にハニーのツッコミは止まりません。
「だれも料理番組とは言ってないわよ?」
「は?」
ハニーは料理番組のアシスタントのつもりでいましたし、セットといい何から何まで他の趣旨は考えられません。
「これはただのバラエティー。今時は刺激的な笑いが求められているのよ。あなたも邪魔をすれば次の材料になるからおとなしくしててね。」
血の気がひいていきました。アリスが言った、何かのひき肉って、もしかして・・・。もう止める気力もありません。諦めた絶望の淵に立たされ、もはや手遅れ。フライパンにガソリン缶の油をぶちまけて、コンロの火をつけます。
「イッツアショータイム!!」
次の瞬間、フライパンから炎が巻き起こりました。
「ゆ、夢・・・よかったぁ。」
丸焦げの肉の塊になったかと思えば、一瞬にして自分の部屋に。ここでようやく、夢だと気づきました。しかし、今回はここで終わりません。自分の部屋に、買い物した袋をそのまま持って上がっていました。袋からチラ見するのは、ひき肉。
「ぎゃああああああ!!」
夢で終わったものの、今しばらくはトラウマ。夢と現がごっちゃになってまたも絶叫が部屋に響きました。
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