小噺 僕と妹

「ー・・・!!」

勢いよく起き上がった。僕は、逃げているはずだったのに・・・。でも、この状況は、僕が今いるのは現実。すぐにわかった。つまるところ、夢を見ていたんだ。それも、とてつもなく怖い夢を。いやな汗で顔が濡れてすごく気持ち悪い。気分を切り替えるためにも、顔を洗って、歯を磨いて、それから・・・。あっ、先に着替えないと。いつもなら脱いだパジャマは畳んで置いておくんだけど、今日はそんな気すら起こらなかった。

「うわっ!」

「きゃ・・・!」

部屋のドアを開けると、すぐ目の前にいたのは妹のミルクだった。まさか僕の部屋の前にいるとは思わなかった。

「大丈夫!?」

「う、うん・・・。」

危ない危ない、もし僕が元気いっぱいならつい癖で力いっぱいドアを開けていたところだった。とりあえず、お互いびっくりしただけで済んでよかった。

「兄さん、今日はなかなか起きてこられないから、様子を見にきたんです。」

そういや、ミルクはパジャマから着替えて、身なりも整えている。部屋の時計すら見てなかった。今は何時だろう。

「顔色も優れないみたいですが・・・。」

「ああ、うん。ちょっといやな夢を見ただけさ。」

だってほんとのことだし。まあいいや、朝一から妹の可愛い顔を見れて忘れ・・・。


忘れられない。

忘れられるわけがない。

燃え盛る家、村を君の手を掴んで逃げる。

昔の記憶をそのまんま夢に見て。

そして、いつのまにか手を離した君が。

襲ってきた奴らに引きずり戻されるifの夢。


最悪だ。

だけど、君は関係ないもんね。

忘れなきゃ・・・。


一通りの支度を済ませて、キッチンに。今日の朝食は昨日の夕飯の残りのサラダとパンと目玉焼き。

「今日はお仕事でしたっけ。」

・・・と、水。質素だけど、これでも、草ばっか食べていたあの時よりは随分マシなものを食べていると思う。

「うん。休みだったのに急に入っちゃってね。予定ないから別にいいんだけどさ。」

「美味しいご飯作って待ってますから。」

たわいのない会話が弾んで、笑顔が溢れるこの時間。まさにこれが確かな現実なんだ。そうだ。あれは過ぎ去った過去、あり得なかった結末なんだ。気にすることなんてない。今あることこそが全てなんだから。


食器を片付けるのを手伝って、カバンをさげる。仕事服は向こうについてから着替えるから、それまではなんだっていい。おっと、忘れてた。

「じゃあ行ってくるね。」

家を出て長い時間離れる時は、額にキスを。特に意味はないけど、いつのまにか習慣になっていた。次に・・・。


妹を檻に閉じ込める。


といったら、語弊がある?


新しく引っ越した家には、誰も使っていない部屋があった。そこに、僕は檻を用意した。稼いだお金で奮発して、外側からはどんな力が加わってもまず開かないし壊れないけど、中側からは開けられる特殊なものを買った。


全部、弱くて襲われやすい妹のため。


この檻は中からは開けられるようになっているから、完全に閉じ込めているわけじゃない。この中にいる限りは安全、というだけ。ただ、僕はいつも耳に穴が開くほど言っている。「外に出たらダメだよ。」と。「外は怖いから。」と。妹もそう思っているから、今では自分から入っていくようになった。


お互いが望んでいることなんだし、誰にどうこう言われる筋合いはないよね。


こうしている限り、僕が夢にまで見た最悪なことにはならないよね?

「いってらっしゃい。」

笑顔で見送る妹に手を振って、僕は家を出た。

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