9話 女王様友達奮闘記
アリスと仲良くなって(?)からしばらく経った日の出来事です。
「失礼します。」
用事で部屋を訪れたウィリアムが見たものは、いつもの仕事着のままベッドで仰向けになった虚ろな顔のグローリア。今日はそこまでハードなスケジュールではなかったので、体調がすぐれないのかと心配です。
「女王陛下?お体の具合でも悪いのですか?」
「そうではない。悩み事があるのだ。」
「悩み事・・・ですか。」
これは大変です。女王様の悩みは一刻も早く解決しなくては。きっと仕事のこととか、国のこととか、とにかく大事なことに決まってます。
「話だけでもお聞かせいただけますでしょうか。私めの力で解決できることであれば、尽力いたします。」
例えベッドの上で大の字だろうと構いません。彼女の前で恭しく跪きました。
「アリスに嫌われた。」
「早くないですか?」
ついこの間、長々とアリスとどうのこうのを聞かされたばかりでした。アリスは彼女にとって初めて立場を気にせず親しくなった友人ということなので、これは真剣に話を聞かなくては、と言い聞かせます。
「何があったのですか?」
「それがな・・・。」
グローリアは語り始めます。あれから数回ほど、こっそり城に招いたりもしていましたが、それ以外でも変装してアリスのいく先いく先に姿を現していたら。
「あなた、少し鬱陶しいわ。」
こう言われたそうです。グローリアにはそう言われる理由がわからず、ショックで今に至ります。
「あぁ・・・。」
それを聞いたウィリアムはこの一言。彼は王族に関係する者でもなければ、現在でも仕事であちこち行ったり来たりしているので、少なくとも箱入り娘の女王様に比べたらまともな人付き合いの方法を知っていまして・・・。そんな彼からしたら、アリスの気持ちとてもがわかってしまうものです。
「えーゴホン。個人的な考えなのですが、アリス様は見た感じ・・・ある一定の距離を置いた関係を望んでいるのでしょう。」
体を起こしたグローリアは王冠が落ちようと構いません。ウィリアムはジェスチャーしながら続けます。
「彼女には絶対に踏み込んで欲しくない自分だけのスペースというものがあるのです。そこには誰であろうとズカズカと入って欲しくないのです。それさえ守れば、彼女はあなたに安心感を持って仲良くしてくれますよ。」
「なるほど。女友達ってもっとこういつも群れているイメージしかないものだから。」
人付き合いが偏っているグローリアの中の女友達はほとんどが偏見で形作られていました。
「色々な方がいますからね。その人なりの付き合い方に合わせて、仲良くなればおそらく自然に馴れますから。」
ここでウィリアムは、納得させるための勢いのある言葉を探します。
「彼女は、そう・・・サバサバ系女子なのです!」
「サバサバ系女子!!」
正直、それっぽい言葉を選んだだけで詳しくはありませんでしたが、その響きだけでグローリアは納得させられてしまいました。
「そうか。ありがとう。気をつける。」
よかったですね。やれやれ、グローリアも誰かのためにここまで考えたのは初めてです。でも、そうしたいほど手放したくないのですね。それからまた数日後、アリスの方はというと。
「最近見ないわね。女王様。」
特に気にしていませんでした。ひっつき纏っていた頃はウザがってましたが、そうでなければ別に引きずることでもなく。いや、少しは気にしたほうがいいのでは?だって・・・。
「随分身もふたもないこと言ったからね。」
あんなことを言ったのですもの。
「あなたこそ、相手はいい大人なんだから、悪口じゃない限りはっきり言ってあげたら〜とか言ったじゃない。」
悪魔の提案でもあったので、強くは言い返しません。
「あれからまとわりついてこなくなったってことは、反省してるんでしょ。今度あったら話しかけてあげなよ。」
「そうね。」
ちょうどいい時に、グローリアの再登場。誰に見られてもいいように、帽子とコートで変装しています。女王様も大変ですね。
「女王様ー!」
アリスは構わず、そう呼んで手を振るのですが。
「・・・?」
あれ?おかしいですね。いつもなら、声をかけるまでもなく向こうからこっちへくるのに。
「女王様?」
アリスの方から近寄ると、彼女は後退り。不思議に思ったアリスはまた近寄って、向こうは後退りの繰り返し。
「そ、それ以上はいけない・・・。」
グローリアは強張った変な笑顔で、さらには手を伸ばして「近寄るな」と意思表示をしています。
「なんで?」
「ほら・・・距離を置いているのだ・・・。」
いっている意味がよくわかりません。事情も何もわからないアリスは担当直入にたずねました。
「私のこと嫌いなの?」
「!!!??」
石みたいに固まってしまいます。ピシッという音まで聞こえてきそうです。
「うーん。アリスはもう少し、オブラートに包んだ言い方ってものを。」
「オブラートって、なあに?あっ。」
アリスは全く悪気がありません。しかし女王様、急いで退散。足が勝手に動いていたようです。
「失礼します。」
おかえりになったグローリアが気になって、部屋を訪れたウィリアムが見たものは、コート姿のままベッドで力なくうつ伏せになっていたグローリア。今日はアリスに会いにいく!と意気込んでいたのですが。
「女王陛下、一体な。」
「私に嫌われてるって思われてる。」
彼が聞いてる途中でかえってきました。
「今度は何があったのですか?」
「それがな・・・。」
グローリアは語り始めます。ついさっきの出来事を・・・。
「女王陛下。」
「なんだ。」
話を最初から最後まで聞いたウィリアムはため息と悟られぬよう、細く長く、ゆっくりと息を吐きます。
「ここは、女王陛下のためを思って心を鬼にして、あえて厳しく言わせてもらいます・・・。」
グローリアは体を起こしてベッドの上で正座になります。二人とも、顔と声は真剣そのものです。
「う、うむ。」
ウィリアムは伏せ気味だった目を見開いて、なにやら覚悟を決めた顔で言いました。
「友達付き合いが下手くそ過ぎます!!」
「友達付き合いが下手くそ過ぎる!!?」
衝撃も衝撃でした。あまりの衝撃に卒倒しそうでした。
「仕方がありません。今まで立場上の付き合いしかなさらなかったため・・・それを除いても壊滅的に下手くそです。」
フォローしようとしましたが、度を超えていたみたいです。
「下手くそすぎる・・・。」
精神的な衝撃が強すぎて、同じことを呟く有様。
「前にもいいましたが、付き合い方をあわせるのです。性格やタイプが違うのであれば、ある程度の我慢は必要、それは相手のためでもあります。」
時には厳しく言ってあげるのも、女王のため。しかし、それがわかるなら苦労しません。
「どう接すれば仲良くなれるのだ・・・。」
するとウィリアムはメモとペンをポケットから取り出しました。
「女王陛下。はいこれ。今から話すことをしっかりメモにとってくださいね。」
咳払いをした後・・・。
「遊びに来れば遊ぶ。自分もたまに遊びに誘う。イベントがあれば余裕を持った頃に誘ってみるのもよろしいかと。ご近所や幼馴染みのような関係であれば頻繁に遊んでも構いませんが、そうでなく、友人程度の関係では余計な負担のかかる関係は長続きしません。それと・・・。」
彼なりの真摯な友達付き合いと、一生懸命メモをとる女王様。あれ?ぱっと見、これではどっちが上の立場なのでしょう。
翌日。グローリアと、今回はお付きのウィリアムは偶然にもアリスを見つけます。
「アリスだ。」
「今はあなたに嫌われていると思っているのでしょう。それはよくありません。きちんと謝って、誤解を解いて、仲直りです!」
「わ、わかった。」
茂みに隠れて小声でこそこそ、傍目から見ればただの不審者です。グローリアはたまたま通りかかったフリをしてアリスの前に姿を現しました。
「あら、女王様。」
アリスはとうに忘れています。しかし、それはそれ。
「アリス・・・その・・・。」
ガッツポーズで陰ながら鼓舞します。
「ファイトです!」
さあ、うまくいくのでしょうか。
「すいませんでした!!」
「えーっ!!!?」
なんと。・・・なんと、グローリアは、その場で、土下座をしてしまいました。これにはアリスもですが、予想の斜め上以上の奇行にウィリアムは頭を抱えて体を飛び跳ねさせました。
「あぁ、大変大変。自分の目の前で国の偉い人が土下座してるんですよ!アリス様はきっと、ざまあみろって・・・。」
アリスの顔は引きつって、わずかに血の気がひいているように見えました。
「あの顔は思ってない!!!ドン引きです!!女王陛下、さすがにドン引きされていますよ!!」
いてもたってもいられないウィリアムが慌てて駆けつけては、彼女の隣で忙しない身振り手振り。誤解を解こうと必死です。
「アリス様!これには山より低く海より浅いわけが・・・!」
「お前、さては心の中で私の事馬鹿にしてるだろ!!」
アリスはただ、突然の茶番にぼうぜんとしていました。
「私は何を見せられているの?」
しばらくして、ウィリアムの説明のおかげで今までのことも全て理解しました。
「あらまあ、別に気にしてなかったのに。」
「そ、そうなのか?」
アリスは余程のことがない限り、引きずらない性格です。
「だって女王様、今までお友達いなさそうな感じでしたもの。」
「ふぐぅッ!!」
しかし、アリスの余計な一言によって図星のグローリアはもろにダメージを喰らいました。
「ご友人とはいえ失礼ですよ!事実、その通りですけど!」
その通りなのですから仕方ありません。別に言わなくていいことのような気がしますが。
「ぐぬぬ・・・。」
ぐうの音も出ない、といったところですね。
「でも、これで仲直りね!」
「う・・・うん・・・!」
まだダメージから回復していませんが、終わり良ければ全てよし。これで仲良しに元どおりです。
「私、これから用事があるの。また今度お会いしましょう、女王様。」
用事というのはつまり仕事です。面倒なので用事とごまかしたのですが。
「アリス、お願いがある。」
「なあに?」
ずり落ちかけていた鞄の紐をかけ直して進もうとしたアリスを引き止めます。
「私達はその、と、友達なんだろ?だったらその・・・女王様というのはやめて、名前で呼んでほしい。」
同じ偉い人で名前を呼ばれることはありますが、それ以外で呼ばれたことはそうそうないのでどうも落ち着かない様子でした。ウィリアムは少し気難しい顔をしていましたが、彼女がそう願うなら、いいのでしょう。
「えっと、グローリア様?」
「エリカ。」
小声で聞きとりにくかったので、聞き返しました。
「えっ?」
「・・・私の本当の名前は、エリカ=エステル。訳ありで偽の名を名乗っているが、お前だけは特別にこの名で呼んでもいい。その代わり、わ、悪いけど私と二人きりの時だけだからな!」
「わかったわ!エリカ・・・様。」
「呼び捨てがいい。」
「それはちょっと・・・。」
拗ねるエリカと困惑するウィリアム。さすがのアリスも女王様を呼び捨てする勇気はありませんでした。
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