小噺 テディーの記憶

夢で何度見ただろう。あの時の光景を。


夢は記憶を整理しているんだと聞いたことがあるが、もう、うんざりだ。そんなに見せなくても忘れるわけないだろ、あんな事。



俺はテディー。今やしがない帽子屋だ。この国で生まれ、ゴミ溜めみたいな街でクソみたいな人生過ごして終わるかと思ったが、なにがあるかわからないよな。食べるものに困ってパンを盗み、よくわからん組織で働かされ、暴力、金、女三昧かと思いきや今やイカした帽子屋。これを波乱万丈とか言うのかもしれんが、終わったことはどうでもいい。


例外だってあるけどよ。


帽子屋になる前、荒くれ時代の俺に起こった、ある出来事。一生忘れやしないだろうな。


仕事帰り、俺は瓜二つの男と出会った。世の中には自分とそっくりな奴が三人はいるらしい。にしたってそいつは、まるで鏡写しの如くそっくりそのままだった。ただ、似ているだけならそんなに驚かねえ。顔は真っ青、目は血走ってるのに虚ろ。苦しそうな息して、足も覚束ない。ただ事じゃないってことは一目瞭然だ。

「どうしたんだよ。」

「れる・・・れ・・・る・・・。」

小声で聞き取れない。今にも倒れそうだ。体を支えようとすると。

「逃げて。」

それだけははっきりと聞こえた。どう言うことだ?普通、助けを求めないか?なぜ、見捨てて欲しいみたいなことを言う?

「早く、逃げて・・・次は・・・君・・・。」

「わけわかんねえこと言って・・・。」


その時だった。奴の顔が、手が、まるで粉のように崩れ落ちていった。これこそまさに、何が起こってるのかすぐには理解できない。できるものか。理解できない状況なんだから。俺はただただ、何にもできずに眺めることしかできなかった。俺に、できることがあるのか?


やがて、全てがなくなった。


服や、首に巻いてたファーだけが落ちて、そこには砂状のものの塊。これが、さっきのアイツだったってのか?ファーを手に取ると、温もりすらない。一体アイツはなんだったんだろうか。


「新しい主だ・・・。」


今度は違う誰かの声がした。鞄の中の銃に手を伸ばす。元職業柄というか、念の為だ。あたりを見渡しても、声の主らしき奴は見当たらなかった。

「君こそ僕を宿すにふさわしい・・・。」

苛立ちが募る。理不尽が理不尽を呼んで、俺はそいつらに囲まれたままでひどく気分が悪い。

「さっきからコイツといい、なんなんだ!?テメェ、話せるんだろ?誰かと話すんなら面と向かって話せクソ野郎!!」

八つ当たりに喚くと、消えた男のいた場所に突然黒い靄が現れた。もちろん、それが声の主だなんて知る由もなく。


その靄は中央で一つの塊になって、勢いよく俺の方へ飛んできた。



「・・・。」

気を失っていた俺はそれからしばらくの記憶がない。気づいたら昼から夜になっていた。懐中電灯を持っててよかった。


あれからは特になんの変化もない。あるにはあるが・・・たいしたことではない。しかし、気味の悪い記憶としてはしっかりと焼き付いたもんだ。

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