15話 命の秤

森を探索中、やっと例の毒キノコを見つけました。一見、普通のキノコに見えるほどシンプルな色と形でしたがこれは立派な毒キノコなんだそうです。

「お店に並んでたらわからないわよ。」

「お店に毒キノコが並ぶ事なんてないよ・・・。」

それなら一安心ですね。多分。にしても、これが恐ろしい事件を引き起こして、無実の人が死刑にまでなったと思うと少しもやもやしするアリス。もちろん、キノコに罪はありませんけども。服のポケットから、マルコが出てきてきます。キノコの方を見ているのは丸わかりです。

「こーら、これは毒があるの!食べたらとんでも無いことになるんだから!」

言葉だけで注意してもわかってもらえるはずもなく、鼻をデコピンしてやるとびっくりしたのちカゴの中に引っ込みました。

「やれやれ、食べてもないのにこいつのせいでとんでもないことにあってるのはどいつなんだか。」

ぶつくさぼやいているティモシーのうしろから二人分の声が聞こえました。

「えーっやだー!」

「いいだろいいだろ〜。」

仲良さげな男女の声ですが、周りにはふたり以外誰もいません。声のする方を探ってみると、信じられないことにキノコの方から声が一番はっきりと聞こえます。

「キノコの方から聞こえるわ!そんなバカな!」

でも、確かにキノコの方から一番声が聞こえるのです。

「珍しい。キオクダケだ。周辺の物音、声を覚えてるんだ。そばを通りかかると特殊な器官で外に発するよ。」

アリスは特に興味津々に観察します。

「キノコを見て俺のキノコも恋しくなったんじゃないか?」

「マジで外でするの!?信じらんない!このド変態!!」

「待ってよ〜!」

まだ子供には意味不明な会話でしたがティモシーは目の前に汚物を見つけたかの如く気分悪そうな顔で大袈裟な舌打ちをしました。

「うかつにこのキノコの前で話せないわね!」

「こういう奴らが毒でも食らって死ぬべきなんだ。」

「そうなの?とにかく、面白いキノコね!」

ウキウキで根本に手を伸ばしたのを止められます。

「だめ、根っこを抜いたらただのキノコになる。」

ただのキノコに今は用事がありません。残したら残したで面白そうなので何も言わず手を離したアリスはさぞ物分かりの良い子に見えたでしょう。

「これだけあれば会場にいる奴らの分はあるだろう。」

少しだけ間が空いて、今度は別の声が聞こえます。

「あとはどのタイミングで入れ替えるか、だな。」

「は、はぁ・・・。」

さっきのふざけた会話と違って真面目な話っぽいのでふたりは真剣に耳を傾けました。中年の男と若い男の会話です。ティモシーの名前が出てきました。

「しかしベンジャミン様。下手すればティモシーだけの責任になるのでは?」

「ジェレミーは責任者だぞ?お咎め無しとはいくまい。それに、手は打ってある。」

「それは!」

「ああ、毒さ。ただの毒。キノコには詳しいがそれ以外については並みの知識しかないだろうからな。これで喋れないようにすりゃあいい。そしたらジェレミーだけの責任になる。半ば賭けに近いが、おそらくな。」


そこで一旦会話が途切れます。

「このキオクダケはまだ若い。地面に出てから一年弱。喋るための器官もようやく発達したところか。」

「小さいし、わからなかったのね。ティモシーさん!今の聞きました!?」

思わぬところに証拠になるものを見つけて大喜びのアリス。対して、自分をこんな目に合わせただけでは足りず大多数を巻き込んでまで才のある者を引きずり落とそうと目論む奴に、今まで感じたことのない殺意一歩手前の憎しみが湧いてきます。

「あぁ・・・許せないな。」

しかし、アリスの視線に気づくと首を振って気持ちを切り替えます。これは誰かを罰したい気持ちより、誰かを助けたい気持ちで動き出したことですから。

「やれるだけのことは・・・やってみよう・・・!」

「うん!」

ティモシーはスコップで生えた周りを丁寧にほっていきます。

「根っこを土から抜かなければ大丈夫だよ。」

両手に土の塊とそこから生えたキノコ。その手や頭の上に水滴がぶつかりました。

「雨が降ってきたわ!」

下ばかり見ていたふたりはうっかりしていました。空は重そうでより暗い色の雲が覆っていて、ぽつぽつと針のように細い雨を降らせます。大降りになる前に急いで家の中へ戻りました。


雨宿りしてすぐ、勢いは増しました。ザーッという音が窓を閉めていても聞こえます。

「いつ止むのかしら。」

ソファーに座って外を眺めています。アリスは早くも帰ることを考えていました。お戻り券があるのでいつでも戻れるのですが、雨自体は好きではないのです。

「雨が止むまで・・・休んでいきなよ・・・。」

ティモシーは先程のキノコを植木鉢にいれかえ、新しい土や肥料で隙間を埋めていきます。次に手を洗い、頭を拭く。自分のことよりもキノコが優先です。

「そうさせてもらおうかしら。」

何度も言いますが、お戻り券があれば一瞬で戻れるのです。さいあく暗くなるまでいても問題ないのです。ここは、止むまでの間、お言葉に甘えて・・・。おや?雨音のほかに、ゴロゴロと違う音が聞こえてきました。

「今の。」

「雷だね・・・ここら辺の雷は・・・長引くよ。」

固まるアリスと平気なティモシー。ピシャッと切り裂くような鋭く大きな音と一緒に窓の外がうっすら光りました。

「・・・!!」

雷に打たれたわけでもないのに、全身が飛び跳ねるほどびっくりしました。

「怖いの・・・?」

そう思われるのが悔しいのは山々ですが。

「こ、怖くなんかないもん!あ、明るいところで見るのは平気なんだからね!」

声はうわずって、息が震えています。

「なんとか言いなさいよ!」

と、言われましても。なにを言っても雷の怖さは紛れないような?

「・・・・・・うーん。」

困ったティモシーは考え事をしながら居間をうろつき始めました。数分して何か閃いた顔を浮かべると、まずは一際存在感を放っていたダンボール

を開けます。中から出てきのはあんまりかわいくないウサギの着ぐるみの頭でした。アリスの視線もさすがに釘付け。それと、例の寝袋らしいものを抱えてきます。寝袋を首元まで被って、頭には着ぐるみ。なんとも異様でシュールな格好のティモシーが隣に座ります。

「えっと・・・。」

アリスはなにから聞いていいかわからないぐらい頭が真っ白です。

「そばにいる・・・から・・・僕のことはこう・・・でかいぬいぐるみかなんかだと思って・・・。」

果たして、こんなに不気味でおおきなぬいぐるみが存在するのでしょうか。これが本当にぬいぐるみならそばにおきたくないですが。

「ひっ・・・!」

二度目の雷。さっきよりやや近くなりました。咄嗟に隣にいるそれにしがみつきます。ああ、なるほど。こういうことだったのです。

ただのぬいぐるみ、または枕だと心許ないし、それを渡してほったらかしにもしにくかったのでしょう。かといって自分が触れられるほど近い距離にいても抵抗があるかもしれません。温もりと安堵を与えつつ、邪魔な意識をさせない。彼なりの心遣いはアリスにも届いていました。


今はどうか何も考えないで。嫌なものから目を逸らして、好きなだけ甘えればいいのです。


それから数時間はたったでしょうか。雷はやみましたが、雨は以前として降り続きます。ティモシーはというと、寝息を立てていたのでそっと被り物を外してあげました。雷が止んだなら帰ってもよかったのですが、雨が降ってる以上はまた鳴るかもしれないし、そうなれば今度は一人きりです。それに、せっかく親切にしてくれたのに、止んだからといって帰るのはあまりにもそっけない気がしたからです。


ふと思い出すのは、ジェレミーとかわしたいろんなお話です。お金の話、仕事の話、生きる上で知っておいた方が良い世渡り術。彼が話してくれるのは大人が「子供にはまだ早い」から教えてくれなかった大人の話。聞いた後は少し背伸びできた感じがしたし、普通に面白いから、会うのが毎回楽しみでした。難しくて理解できなければ、「子供にはわからない」と返され、「今覚えなくても良い、お前が賢い奴なら自然と覚えていく。」と、いつも言っていました。


そんな、ためになる話もあればいままでのやらかし談や本当にしょうもない話もありました。




「俺さ・・・S●Xした事あんのにキスはした事ないんだ。」

唐突に始まった上に聞いたことのない単語が混じります。

「せ・・・なに?それ。」

「なんって言えばわかるかな。交尾?子作り?」

アリスったら自分で聞いたことすら恥ずかしくなって。

「いきなりなによ!サイテー!」

彼に反省の色は見えませんでした。時間をかけてやっと落ち着きを取り戻します。

「逆じゃないの?」

「だよなぁ。なんでだろうなぁ、俺にもよくわからん。・・・死ぬまでに一度は口付けを交わしたかったもんだ。」

本当に望んでいるかどうか微妙な無表情でどこか遠くを眺めながら呟きます。アリスはしてやられてばかりもちょっぴり悔しいので、本気でもない冗談でからかってやりました。

「もしここから出れたらしてあげる。」

「ん?ほんとかい?」

あれ?食いついてきました。まさか、本気にしたのでは?

「どーせ誰でもいいんでしょ。」

「誰でもいいんならとっくにしてるっての。」

そんなものなのかどうか、アリスはわかりません。ただ一つ、やはり本気にしているはずがないということ。

「ま、楽しみにしとくわ。ハハ・・・。」

なんて軽く笑い飛ばすものですから、結局冗談だと思われて、逆にからかわれている気分にもなってその日はモヤモヤをしばらく引きずったのを思い出しました。


・・・・・・。


閉じていた瞳を開けます。ぐっすり寝ていたようです。気づいたらなんと、朝でした。

「まあ!すごいよく寝てたわ!」

アリスはソファーの上に寝そべっていました。ティモシーはというと。

「きゃあ!!」

「うーん・・・。」

ソファーからおっこちて爆睡していました。アリスは彼の体を踏んで、その感触でようやく気づいえ、寝ぼけまなこのアリスも目が覚めました。

「うぇ・・・あれ?・・・晴れたのか?」

「朝よ!」

目を擦ってもぞもぞと起き上がると、時計の針は七時半をさしているのにびっくり。

「飯も食わずに寝てたのか・・・。」

その時、外でガコンッと謎の音がしました。

「・・・んー・・・。」

寝袋を頭までかぶって、猫背で俯きながらゆっくり歩いて、ドアを開けます。眩しい朝日が容赦なく差し込みます。しばらくして、ティモシーはおおきな封筒を持って入りました。ポストに投函された時の音だったんですね。上を器用に指で破いて、中身を取り出すと・・・。

「・・・ん!?」

書かれてある文章に一気に青ざめるティモシー。アリスは横から割りこみます。すると、同じように彼女も血の気がひいていきました。

「なんですって!?」


そこに書いてあったのは。

「ワンダーランド中央都市の中央広場にて

ジェレミー=アリソンの公開処刑を行う。

閲覧は自由。」

さらに、実行日時は・・・。

「「明後日!?」」

驚く声が見事ハモりました。

「そんな!祭りの日にやるって言ったじゃない!」

「えっ!?祭りの日にそんな物騒なことするわけないじゃんか!!」

アリスはグローリアと会って話した内容は誰にも言っていませんでした。ティモシーの発言でもわかるように、その日に行うことは誰にも知らされていないのでしょう。

「そ、そうよね!それにしたって大変よ!あまりにも急すぎるわ!!」

「あわわわ・・・。」

二人して大パニック。しかし。

「待って!私たちには証拠があるわ!それを言いに行くの!今度こそ大丈夫よ!!」

息を切らしながらティモシーの手をつかみます。気圧されるほど力強い目に一瞬だけ気圧されますが、やがて自信に変わります。

「そ・・・そうだね・・・!」

「まだ私たちにやれることはあるわ!諦めるには早いわよ!」


さあ、処刑は二日後。果たしてふたりは罪のない囚人を助けることはできるのでしょうか。




そして、当日。

ワンダーランドの中央都市。そして数々のイベントが催されることで有名な中央広場にはたった数日なのに用意した処刑には欠かさない、「ギロチン」が設置してあります。急な呼びかけにもかかわらず大勢の人が集まりました。あたりは兵士がぐるっと囲んで最大の警備。観客の中は、誰も笑っていません。みんな心配そうです。特に、泣き喚いている女の人がいるので兵士が宥めますが、逆効果でした。

「あの子が・・・あの子が・・・!」

彼の母親です。周りはかける言葉すらなく、見て見ぬ振りしかできませんでした。



観客が一斉にざわつき始めます。女王様がお見えになったからです。女王と、側近のウィリアムと、たくさんの兵士・・・その中にベンジャミンもいました。

「女王陛下!これは一体どういうことですか!?」

「なんで死刑に!?」

周りが好き勝手に言いたいことを叫びますが、ウィリアムの鳴らしたラッパの音でみんなおとなしくなりました。代わりに説明しようという彼を止めて、グローリアが自らみんなの前で話してくれます。

「・・・公開処刑についてはいずれ実行すると考えていた。本当はあの日・・・ジェレミー殿が重大な過ちを犯した「あの日」に、実行を予定していたが、そうはいかぬ急な変更があった。」

まだ聞きたいことはやまほどあったでしょうが、誰も何も言いません。グローリアはおそらくことが終わった後に詳しい説明をするはずだろうと。だって、顔から見るに早く終わらせたそうでしたし。

「誠に残念だ。私とて贔屓したくはないが、それでも失うのは辛い。・・・が、これも一つのけじめである。あの日に一つの終止符を打つために。」

俯いていた顔を上げた女王様はとても険しい表情でした。

「ここに、皆の前で罪を贖ってもらう。」

それを合図のように、兵士に連れられて今回の主役が登場です。ジェレミーは、手を後ろでしっかりと縄で繋がれて、いつもの服ではなく、本当に何もない無地の白い服だけを着ていました。静かだった環境がまたざわざわとします。いつもの変わらない、うすら笑みを浮かべていましたが、ひときわ名前を泣き叫ぶ声に罰の悪そうな顔をしました。

「げっ、母さんもいんのかよ・・・。」

ついでに人の群れを見渡します。ベンジャミンの姿はとらえましたがすぐに他所を向いて、アリスがどこにいるか探しましたが見つかりませんでした。それもそうですよね。彼女にこんな最期を見て欲しくないという気持ちぐらいはありましたから。処刑台の階段をゆっくり上がっていきます。


一番上はとても見晴らしがいいものでした。

「最期に何かいうことは?」

おそらくグローリアと会話を交わすのもこれが最後でしょう。しかし、彼は自嘲したあと。

「いいえ、何も。」

の一言で終えました。一つ一つの作業を丁寧に、慎重に。体をうつ伏せにされて身動きが取れないようしっかりと固定されます。自分に最後に触れるものすらこの目で見ることはできません。その代わり、哀れみを込めた沢山の目と合いながら死んでいくのです。体は楽に死ねても、心は楽ではありません。兵士の一人が長々と口上を垂れていますが、きっと誰の耳にも入っちゃいないでしょう。


「・・・正直いうと怖い・・・違う、嫌な気分だ。」

どこを見ても同情する顔、ざわめく声に心の中でぼやくばかり。

「どうせ死ぬなら、誰にも見られず一人で死にたかった。」

こんな思いをするぐらいならいっそ軽い命のように切り捨てられたほうがよかった、と悔やんでも仕方がないのです。

「目を閉じてしまえばなんともない。」

耳は塞げなくても、目を瞑ることはできます。これで、孤独になった気になりながら彼は死を待ちます。

「・・・じゃあな。」

「待ちなさい!!」


お別れの挨拶の直後、しわがれたくせに威勢のある大声が広場に響き渡ります。

「静かにお願いします!!」

兵士が注意するも聞く耳持ちません。声の主は強引に割り込み、最前列に並びます。体を布で覆って、顔には画面をかぶっています。

「女王様!!お願いがあります・・・のじゃ!彼を処刑する前に私のお話を聞いてください!少しの間だけですじゃ!」

となりにはもっと奇抜な格好をした不審者が現れます。こっちは完全にうさぎのきぐるみでした。キノコの生えた植木鉢を抱えています。

「隣にいるのはなんだ!?」

「僕だよ!ティモシーだよ!!好きでこんな格好してるわけじゃない!」

突然の乱入者に兵士を含めたみんなが騒然としています。

「え・・・えぇ・・・。」

ウィリアムは異様な光景にドン引き。それはジェレミーも同じでしたが、ティモシーの名前を聞いてさらに混乱します。言葉も出ません。

「鳴らせ。」

一方でグローリアただひとりが平常心でウィリアムに指示を出します。あっけにとられていた彼は慌ててラッパを吹きました。動揺が拭えないのかやたら力任せの大きな音が響きます。

「そういうなら聞いてやろうではないか。」

「女王陛下!?」

納得いかなさそうな声をあげたのはベンジャミンでしたが。

「私に反対するのか?」

彼女がひと睨みすると黙りました。

「話とはなんだ。」

「ジェレミーさんはやっていません・・・のじゃ!あの日、毒キノコが入っていたのはそこにいるベンジャミンさんの仕業ですじゃ!」

ビシッと指を刺されたベンジャミンは一瞬だけひきつりましたがすぐに胡散臭い態度を繕います。

「おやおや、何を言っているのやら。」

「証拠ならあるのじゃ!!」

気味の悪いうさぎ・・・もといティモシーの出番です。

「キオクダケ。キノコ学者なら誰もが知っている、大変貴重なものです。地表に生えてから周辺の物音を記憶して、特殊な器官が発達するとそれを外部に発します。「当時」は生えたばかりでまだ器官が未発達でした。話すこともできず、生えていても小さくて気づきにくい。」

ここにいるみんなは彼が何を言っているかはわかりませんが、だからこそ真剣に耳を向けています。

「それが、私がやったことと何が関係があると!」

しらばっくれるベンジャミンも想定内の反応でした。

「例の毒キノコの付近に生えておりました。」

「聞いたらわかるのじゃ!」

ティモシーはキノコの中央付近に入れてあった栓を抜きます。余計な物音が入らないようにしていました、が・・・どうやらアリスたちの会話も少し入っていたようです。まあ、ここにいるのをアリスとは誰も思っていないようなのでいいですが。しばらく待つと、例の会話が聞こえます。あたりは今までで一二を争うほどのざわめきです。

「なっ・・・。」

これにはベンジャミンも落ち着いてはいられません。

「じゃあ、あの時のティモシーは・・・。」

グローリアが彼に話を聞いた時、口が聞けない状態だったというのは病気なんかではなく、ベンジャミンが仕込んだ毒によるものだったのです。

「そうだよ。口封じさ。大きな病院にいけば、はっきりわかったんだろうけど・・・。」

しかし犯人扱いされたベンジャミンは当然黙っちゃいません。

「しかし!私が直接やった証拠など!」

「ああそうだね!でも僕もあいつもやってない証拠ならある。ジェレミーは僕から直接受け取ってそのあと持ち場を離れていたし、ずっと僕はそばにいた!!」

「そうだったの!?」

おや?布と仮面を付けた人の口調が崩れ・・・壊れます。

「なんならその時何をして何を見てたか話してやろうか!!」

「あなたたち二人で何してたの!?」

多分お仕事に関する話でしょうけど・・・。

「ぐぬぅ、デタラメだ!!」

苦虫を噛み潰したようなシワをいっぱい寄せた顔のベンジャミンが後退りします。

「黙れゴミクズ野郎!!テメェにはご立派な動機があるだろうが!!」

声を荒げたのは、まさかのティモシーでした。となりにいる謎の人物もびっくりして少し距離を取りました。

「ジェレミーがいる限り、自分の昇級はいつになるかわからない。だから直接殺すのではなく「ジェレミーを立場的に引き摺り下ろす」ことで自然に昇給しやすいように企てた。その方が手っ取り早かったんだろ?」

ティモシーは植木鉢を持ち上げました。

「この子たちは嘘をつかない。僕らが息をしたり歩いたりするのと同じだ。自然は嘘をつかない、お前みたいに。」



「もう良い。」

次に口を開いたのはグローリアでした。みんなは次の言葉をいまかいまかと待っています。深いため息のあと、言葉にしたのは。

「諦めろ。」

その一言でした。しかし、彼女の視線の先にいたのはジェレミーではなくベンジャミンでした。

「・・・女王陛下!?考え直してくだされ!私よりあやつらのいうことを信じるというのですか!?」

犯人つまり、死刑。へたすればいますぐここで、自分があのギロチンにかけられてしまうかもしれないのだから必死にもなります。だけど哀れにも彼は兵士に拘束されてしまいました。

「信じるよ。あいつをな。」

手に持った杖を前に指します。

「ジェレミーを解放せよ。そして、お前は・・・ついでに処刑しよう。」

ギロチン台を外され、腕こそまだ縛られたままではありますが、晴れて自由の身になったジェレミーは、自分で起こったことではないような気がして、まんまるい目のまま促されるままに辿々しく歩きます。嵌めた張本人と目があって、睨まれてもなんの感情も湧かないぐらい。

「は、離せぇっ!そうだろう!才あるくせにいつまでも下っ端にしがみついて!貴様は・・・!!」

抵抗してももう手遅れです。手を縛られ、先程のジェレミーと同じ状態になるまでには総時間がかかりませんでした。

「この嘘つきー!!」

「ざまぁみろー!!」

「やっちまえー!!」

周りからは怒号、面白がる意地の悪い声などが湧き上がり、兵士が沈めるために奔走します。

「私、ほとんど喋ってないのじゃ!」

揉まれにもまれたアリスが不満を零します。

「でも助けようと、行動を起こしたのは君だ・・・君がいるから、今がある・・・。」

「・・・そういうことにしといてあげる!」

そう言って、変わった語尾の小柄な救世主は一瞬にして姿を消してしまいました。

「あれ?アリス!?」


「おっほっほ、我は偉大なる救世主なり。」

布と仮面を外したアリス。

「本当にこの国には色々なキノコがあるのね!ガラガラダケですって!焼いて食べたらなんでもないんだって聞いたわ!」

声はまだ、微妙にかれたままでした。ティモシーが念のため、アリスに変装をさせたのです。声にまで一工夫を加える徹底ぶりです。

「あっそう・・・。」

悪魔はただただ呆れてました。なにもかもに。

「恩を売りつけてやりたかったけど・・・ま、やりたいことができたから、それでよし!」

布を敷いた上で大の字になるアリス。彼女は、一人の命を救い、もう一人・・・いいえ、結果的に多くの人を救ったとてもすごいことをしたのを、まるで、宿題が終わったみたいな達成感でいました。


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