7話 賑やかな一日とパレード

ワンダーランド中央都市。ハートの城では仕事の間の一仕事。「アリスを探すための作戦会議」が始まりました。


「貼り紙を国中に貼りまくり、見つけだそう作戦に賛成したのは貴様ら二人であったな。」

ここは謁見室ではなく、大事な会議の時に使う「会議室」・・・そのまんまです。そこには女王、隣にウィリアム、二人の兵士。兵士の一人がビシッと挙手。

「このポスターなら見る人の目に止まって、協力してくださる事間違いなし!」

「見せてみよ。」

兵士Aが持参したポスターには「この子を探してます」という大きな見出し、いつ撮ったかわからないアリスの写真の横には彼女の特徴が箇条書きで書いてありました。

「いかがでしょう!」

自信満々の兵士Aに対し、女王は少し気難しい顔でした。

「悪くはないが・・・行方不明者の捜索ポスターみたいだな・・・。」

一切の無駄がなく、特徴もわかりやすく書いてあるから探すことを目的としたポスターでいうならこれほどぴったりなものはないのですが、デザインの問題でしょうか。少しだけ改善すれば女王も納得してくださるかもしれません。

「私めの方が良い出来に仕上がっております!関心だけでなく探す意味を持たせる事が大切なのです!」

さて、随分たいそうなことを言ってのけますが?

「・・・見せろ。」

兵士Bが見せたのは、大きなアリスの写真の上にWANTEDの文字。下には規格外の金額。なぜかアリスの目の当たりに黒い線が入っていました。

「どうですか!?」

女王は震えています。怒りと衝撃で。

「指名手配のポスターではないか!顔の一部隠すな!わかりにくいだろ!ええい!やり直し!」

あまり期待はしていなかったようですが、予想の斜めをいった発想についに限界でした。女王が喚いたり説教をしていると、ドアからノックの音。

「はい。」

「パレード用の衣装が届きました。」

ウィリアムが代わりに出て兵士Cから大きな段ボールを受け取ります。

「わかりました。お預かりいたします。」

両手いっぱいに抱え、テーブルの上にあげます。女王は何気に二人のやりとりを聞いていました。

「ふん、パレードか。正直申す。・・・あれ、いるか?」

「えぇ・・・。」

ウィリアムは受け取った側からそんなこと言われて困惑。

「何をおっしゃいますか!女王様が街を渡り歩く、一番の大盛り上がりどころでございますよ!」

「そりゃパレードしかないのだからそこで盛り上がらなかったら辛いわ。」

兵士たちのフォローもなんのその。彼女の言うこともごもっともですが。

「女王の仕事なんてつまらんことばかりだ。全く、私だって好きでなったわけではないというのに・・・。」

椅子に浅く腰をかけて、いつものように頬杖をついて深いため息。で、落ち着くかと思いきや、少し経つと貧乏ゆすりを始めます。そして?

「あ゛ーっ!なぜこの国は世襲制なんだ!?隣の国みたいに、選挙で国のリーダーを決めるみたいにしたら良いのだ!!」

長きにわたり続いた伝統もろもろに不平不満をこぼしてまたも喚き散らかす女王様とそれを止める兵士たちや召使。会議はなんだったのか、あたりは混沌となりました。



「女王、いつになく荒れてましたね。」

渡り廊下。兵士Aとウィリアムが並んで歩きます。あのあと何とか落ち着いて女王は別の仕事に行ってしまいました。

「大変なんですよ女王様も。」

それから少し会話が途切れましたが、兵士Aが周りの目を伺ったあと耳打ちを始めます。

「ポスターなんか回りくどいことしなくても、女王の命令ひとつでどうにでもなるのでは?」

「一国の女王が一人の子供を直接呼ぶなんて、変だと思われるでしょう。なにかしらにこじつけたいのです。多分・・・。」

「はぁ。」

ウィリアムの検討に兵士は腑に落ちず、言った本人も自信ありません。そう言う意味ではポスターも逆効果なのでは?と思ったのはお互いだんまりしました。

「そもそもなぜ、この少女を探しているのですか?」

「それは私にも・・・。」

意外、みたいな顔をした兵士。

「女王のそばにいる事が多い先輩なら知ってると思ったのですが。」

「すみません。上の者に対して詮索もしたくないので・・・いずれ本人の口からお話ししてくれるでしょう。」

「それまで生きてりゃ良いんですが。」

どこか兵士の自嘲めいた独り言を逃しません。ただでさえ人手不足で余計な「くび」を出したくないのに。

「はい!なら今日も一日真面目に働く!」

手を叩いて耳元で大きな声。

「はい!!」

それに驚いて兵士は負けないぐらい大きな返事をしたあとウィリアムより先に走って次の持ち場に行ってしまいました。

「・・・・・・。」

ひとり、立ち止まって、アリスと出会ったときのことをいろいろ思い出します。一体彼女に、なぜ?アリスのことも、女王の意図もさっぱりわからないウィリアムは上の空。

「・・・いけない。私も急がねば!」

我に返り、飛び跳ねるように廊下を駆けました。



一方。ワンダーランド西部。

死体処理場B。


「げーっ!もう!やだーっ!」

薄暗い部屋で、いろいろな死体が台の上に並べられていました。どんな職業かの詳細は機密によって、外部に漏らしてはいけないそうなのでご想像にお任せします。まあ、死体処理、そのまんまなのですけどね。ほら、一人の職員がゲロをぶち撒けているではありませんか。その背中を上司が蹴っています。なんという地獄絵図なのでしょうか。

「吐くならゴミ箱で吐け!!汚物を増やすな!!」

その中、明らかにこの場に浮いているのがアリスです。子供が死体を目の前に冷静に書類を書いているのですから。

「君、平気そうだね・・・。こんな3Kな職場に君のような子が面接に来た時はビビったけど・・・。」

蹴られていた職員が心配そうに声をかけます。アリスの目の前にある死体は真っ黒焦げ。さっき色々あったばかりなので目を細めて見ています。

「3Kって確か、厳しい仕事においての・・・くさい、きたない、きつい、でしたっけ?」

それを聞いた上司が首を横に振りながら。

「ここでの3Kは苦痛、恐怖、過酷だよ。覚えときな。」

上司も一番上の立場ではありませんので、相当苦労しているみたいですね。

「わかりました。お言葉ですが、平気です。」

後ろにいた職員はドン引きして自分の持ち場へ戻ります。またもや違う職員が入ってきました。

「うるさいなぁ。隣まで聞こえてんだよ・・・ヒッ!?」

なんと。その人まで。ゲロにゲロを重ねる、地獄を通り越して奈落の底みたいな職場でアリスは真剣にお仕事中。正直、周りのことは全く気にしていませんでした。

「ベテランでさえこの有り様なのに・・・。」

アリスを心配した職員はもう、何を、誰を心配して良いかわからなくなりました。


今日はお昼でお仕事が終わり。仕事が少ないとこういうこともあるのと、新入りのうちにできることはまだ少ないから任せられる仕事も少ないそう。出口で待っていたのは元凶のシャムロックでした。

「やあ、誰か殺したのかい?」

「クロさん!違うわ!私、今日からここで働くことになったの!」

ムキになって返します。

「そうかい。初仕事の方はどうだ?」

「いろいろな死体が見れて、とても新鮮よ。」

うきうきと話します。

「オイラ、もしかして悪いことをしちまったのか?」

胸の内だけで呟きます。この仕事を教えたようなものですから、少しだけ罪悪感でもあるのでしょう。いつも通りのにやにや顔でしたが、どこかこわばっているように見えます。アリスは全然気付きませんでしたが。それどころか冗談まで言う始末。

「あなたも私の給料分の死体になってみない?」

・・・いえ。彼女の場合は嘘か真か。

「勘弁しとくれよ!」

おののいたシャムロックの全身の毛が逆立ちます。


なんてやりとりをしていると、向こうからも話し声が。

「パレード行こっかなあ。生で女王様見れるんだぜ?レアだし。」

同じく仕事を終えた職員が二人。一人はさっき最初に醜態を晒してアリスを心配してくれた人です。

「パレード?」

アリスが話しかけると足を止めます。

「明後日、ワンダーランド中央都市で盛大なパレードをやるんだって。女王様が街を歩くんだと。」

「それに行ったら、女王様に会えますか!?」

いつも輝いている瞳がさらに光を放ちます。こんな子供が死体をてきぱき扱うとはとても思いにくい、なんて職員の心のうちはさておき。

「行ってみたら?今度は西の街でやることが多いから、こっからも近いし。」

アリスは大喜び!一度は見てみたいと思っていましたし、しかも本物を生で見れるかもしれないのですから。

「クロさんは行かないの?」

振り向くと、シャムロックの姿はありませんでした。アリスの頭の上には疑問符が。

「あれ?」

何もいないところに話しかけているアリスをまたも心配してくれます。

「お化けでも見えてたのかい?こんなとこで働いてりゃそんなこともあっておかしくないかもね。」

「私、お化けなんて信じませんから!」

少し話したあと、職員達と別れたアリスは思ったより早くヒマになったもので、どうしようか考えました。

「あっ!お茶会のみんなに会いたいわ!そして報告したいの。私、お仕事してるのって!・・・でも、ここからどうやって行けばいいの?」

「アリス。」

しばらくおとなしかった悪魔が出てきます。

「悪魔さん、どうしたの?」

「今すぐ体を貸して。」

あまりに突然だから、理解するのに時間がかかります。それでもその声は真剣です。

「すぐに返すから。」

「・・・ん?わかったわ。」

悪魔はいつもアリスのことを考えてからあれこれしてくれたので、信じて、従いました。


次に返してもらったときには知らない街の小さなお店の前。

「この中に帽子屋がいるわ。」

「すごい!なんでわかったの!?」

「・・・悪魔の勘よ。」

素っ気なく言って引っ込んでしまいました。ちょっとだけ疑いながら、ドアを開けます。

「ほんとにテディーさんがいた!?」

そこにはいくつかの宝石を品定めしていたテディーの姿が。

「私がいたらいけないのかい?」

当の本人からしたら、ただのお客でしかないのに、関係ないお客になぜそんなこと言われなくてはいけないのかという気持ちです。店主は笑いを堪えています。アリスもに今のは語弊があると自覚はありました。

「い、今のは気にしないで。そ、そう!テディーさんに言いたいことがあるの!」

腕を振って、尻尾も振って、言いたくて言いたくてうずうずしています。そこは紳士のテディー、彼女が言うまで何も言いません。アリスは口を開きました。


「貴方、悪魔ね?」


「は?」

店主はとうとう腹を抱えて笑いました。きょとんとするテディーと、同じような表情のアリス。今の問いはアリスがしたのではありません。

「あ、あれ?私・・・。ちょっと!」

心の中で悪魔を呼び出しても返事はなし。何が起こったのかさっぱり。アリスの頭は大混乱。

「悪魔だって!君・・・子供相手に何したんですか?む、無理・・・笑いが・・・。」

「何もしてねぇ!!えっ?マジでなにもしてないよな!?」

ついには取り乱してしまいます。なぜ自信がないのか。

「今のは忘れて!!」

「忘れてってどゆこと!?」

いづらくなったテディーはアリスの背中を押して店から出て行きました。


「本当に言いたかったのはあんなことじゃないの!」

正直に言えば言うほど怪しまれるのに、アリスも必死です。面倒になったテディーはついに考えるのをやめにしました。

「私がどのような淑女をも虜にする魅力的な男だからって悪魔呼ばわりはよしてくれ。」

「それはないわ!!」

純粋で素直なアリス。大人の冗談はまだお子様には通じません。

「実際のところ、何の用だ?」

「私、お仕事が見つかって早速働いてるの!それを言いたくって。」

「俺に悪魔って言ったのか?」

アリスに胸を弱い力で叩かれます。だって気にしてましたから。

「もう!忘れてってば!」

「はいはい。よかったな。どこで働いてるんだい?」

アリスの頭を撫でると彼女は嬉しそうにありのままを言いました。

「死体処理場!!」

そばを通りかかった人が振り向き、少しだけあたりがざわつきます。

「・・・こっちこい。」

またも居心地が悪くなったテディーはアリスの腕を掴んでさっさとその場を離れました。

「いやぁ、めでたいことだ。君さえ良ければ今日はお祝いでも開こうかと考えている。」

「大賛成!!」

テディーは鞄からゴツめの鉄の立方体を取り出して、ボタンを押すとそれに向かって話しかけます。

「今日は緊急の茶会だ。」

すると機械からハニーの驚く声が聞こえます。この世界での携帯電話みたいなものでしょうか。

「それと、赤系のものは出すな。理由は後々わかる。いいか、絶対だぞ。テメェから噴き出す汚ねぇ赤で辺り一面染めたくなけりゃあな。」

すごく低い声で脅してからハニーの絶叫が聞こえ始めたところで切りました。

「久々に酒の瓶でも開けるかね。」


今日はいつもより豪華で賑やかなお茶会、いいえ、もはやパーティー。なんと、お祝いということで他にもお客さんが!アリスにとっては最高のひと時となりました。イチゴの乗ったケーキをうっかり持ってきたハニーがそのケーキを顔面にくらって大騒ぎになったのはおいといて。




パレードの日。アリスは開催される場所を詳しく聞いて、なんとか自力でたどり着きました。大通りを挟んでたくさんの人が殺到しています。家の窓からものぞくほど。

「すごいわ!はやくも大盛況ね!」

けれど、アリスの華奢な体は人の群れの中では簡単に押し戻されてしまいます。これでは来た意味がありません。彼女みたいな小さな子供は最前列でないと見れないのです。

「うーん・・・どうすればいいのかしら・・・。」

悩んでいるアリスに、誰かが声をかけます。

「おや、お嬢ちゃんも見に来たのかい!」

隣には一際大きな体が。ドローレスでした。アリスは気まずそうな顔を隠せませんでしたが、彼女はじっと睨んでくるアリスが不思議でなりません。

「どうしたんだい、私の顔に何かついてる?」

・・・どうやら、覚えていないようです。

「・・・。」

それもすぐに察しがつきました。彼女は腕に布に包まれた塊を抱えています。中身がなんであれ、今は違うものを子供だと思い込んでいるのでしょう。なら、触れないほうがいいと賢いアリスは話を切り出しました。

「パレードがあるから見に来たのだけど、見れなくて困ってるの。」

「あぁー・・・。」

みんなは自分のことばかり。誰も、お困りの少女に優しくしようという人はいません。

「私が前に連れてってあげるよ。ほら。」

差し出された大きな手と手を繋ぐと、半ば強引に群れのに割り込んでいきます。さすが、その巨体と力強さでどんどん前進。もちろん、嫌な顔をする人もいましたが。

「どきな!子供が見れなくてかわいそうじゃないか!」

とか。

「ちびっ子一人前に並んだって見えるだろ!?」

と言って無理やり黙らせます。さすがは、肝っ玉母ちゃんと言うべきか。アリスはもまれにもまれて少し痛かったり苦しかったりしましたが、最前列に並ぶことができました。自分だけでは到底見れなかった、素晴らしい眺めです。

「ありがとう!!」

「いいってことよ。ちょうどよかった。そろそろ始まるよ。」

向こうから高らかなラッパの音が鳴りました。遠くからでも良く見えます。だって、大きな乗り物のようなものの上に女王様は立っているのですから。大きな王冠、襟の大きい派手なマントに身の丈以上の金ぴかの杖という、まさに女王様にふさわしい出で立ち。乗り物の周りにはたくさんの甲冑や軍服を身にまとった兵士と軍楽隊が囲んでいます。

「あの方が、女王様・・・。」

あたりはしんと静まりかえります。女王様の隣に一人の男性が現れました。真っ白なスーツでビシッと決めています。

「ワンダーランド国第五十九位女王、グローリア=エスメラルダ女王陛下が我が都市の独立に至っためでたきこの日を祝す為わざわざお越しになってくださった!心からの敬意を払い、喜び讃えよ!」

メガホンからおもいっきり大声が放たれ、しずかだった群衆から大歓声の嵐!

「まだ若いのにしっかりとお務めを果たしてらっしゃる。尊敬するよ、全く。」

ドローレスも感心する最中。一方、グローリアはというと。

「帰りてぇ・・・。」

心の中でそう愚痴っているなんて、誰がお考えになるでしょうか。パレードが動き出します。みんなにもなるべくよく見えるよう、ゆっくりと。楽しい音楽を奏でながら。本当にお祭りみたいな大騒ぎ。誰かが屋根から派手に紙吹雪まで飛ばしています。グローリアはたまにみんなの方を見下ろして笑顔で手を振っていました。

「女王様ー!!」

なぜか意味もなく、みんなが名前を呼んでいます。意味はなくても、ついついやりたくなってしまうものなのですね。それは当然、アリスもでした。

「女王さまっ!」

ぴょんぴょん飛び跳ねるアリス。ドローレスも最初は微笑ましくみているだけでしたが、こっちを振り向いて欲しいアリスを察したのか自分も名前を呼びました。

「女王陛下ー!!」

「女王さま!こっち見てっ!」

もうすぐアリスのそばを通ろうとしています。果たして、こっちをみてくれるでしょうか。

「女王さま!!!」

ちょうど前を通り過ぎろうとしたところで今出せる限りの一番の大きな声で名前を呼びました。ひときわ高い声に、グローリアは反応してアリスの方を見てくれました。すぐ目の前で、ふたりの目と目が合った瞬間、しかしなぜか向こうは驚いていました。理由はわかりませんが、アリスは大喜び!

「目があったわ!目があったわ!」

「よかったねえ!よかったねえ!」

今度は嬉しさのあまり飛び跳ねます。ドローレスも一緒になって喜んでくれました。その頃、グローリアは。

「ついに幻にまで見るようになったか・・・?」

にわかに信じられず、目を擦りたい衝動でいっぱいでしたが、そうもいきませんでした。



パレードは無事終わって、準備室。その中にある女王の部屋を訪れるのは彼女のそばに仕えるウィリアムです。赤いチョッキとは違って、別の仕事着をきていました。

「女王陛下。お茶をご用意しました。」

「・・・入れ。」

ノックした後に入ったウィリアムはテーブルの上に、紅茶と差し入れのお菓子を置いた後、ソファーの上に上半身だけ埋めるグローリアの様子に心底心配。声をかけようとすると、先に口を開いたのは彼女の方でした。

「ウィリアムよ。私の疲れは思ったより深刻なのかもしれん。」

「どうかなさったのですか?」

顔を上げず、ため息だけが聞こえてきます。

「アリスの幻を見たのだ。」

「!!」

しばらく思考を巡らせた後、「失礼しました。」と言って、すぐさま飛び出して行きました。


「きっと、まだどこかにいるはず・・・!」

街の中、そのままの服の白兎がきょろきょろしたり時々走っていったりと大忙し。

「あのっ、このような女の子を見ませんでしたか?」

「ああ、その子ならさっき・・・。」

ポスターにも使われた写真を見せては情報を集めて翻弄します。


アリスは、一通りの少ないところで屋台で買ったわたあめをたべています。そこに、息を切らしたウィリアムがやってきます。

「アリス様ー!!」

「アリス様!?」

様付け、なによりずいぶんかしこまった身なりでやってくるからびっくり。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

「そこまでいたぶって欲しいの?生憎、今はそんな気分じゃないの。」

「違います!たまたまみかけたので、その・・・。」

アリスからしてみれば、みかけただけで走ってくる理由が謎でしたが、興味ないことにはとことん興味がわかないのでたずねることはしませんでした。そんなことよりも、アリスは先ほどの出来事を他の誰かに自慢したくて仕方がありませんでした。

「さっきのパレード見た?私ったら、女王様と目があったの!」

「見たも何も、私はそばにいましたからね。」

アリスは女王様しか見ていなかったようです。しばらく固まった後。

「あなた、何者!?」

驚きのあまり立ち上がりました。少しだけにやけた顔を両手で叩き、深く息を吸い、胸に当てて恭しくお辞儀。

「名前をウィリアム=エイマーズ。女王陛下の側近でございます。」

「すごいすごいすごーい!ねえ、女王様ってどんな方?」

満更ではなかったようですが、すぐにおかしなところに気づきます。ほんのささいなことでしたが。

「ご存知ではないと?」

思わず「しまった」と顔と口に出てしまいそうなのをなんとか笑顔で取り繕ってみせました。

「よそ者で、と、遠くから来たの!だから、あんまり知らなくって・・・。」

これ以上問い詰められることはなかったので、無事にやり過ごせました。

「さようでございますか。語りだすと長くなりますので、簡潔に言いますと・・・。傲慢。気に入らないことがあればすぐに部下や国民を殺す、大変恐れられながらも、法や規則を守る者は尊重し、自身も多忙。」

「興味あるわ!」

全く簡潔ではなかったので、勝手に終わらせてしまいました。アリスにとって途中までで十分です。ウィリアムはまだ話したそうですがお構いなし。

「会ってみたいなあ。うふふ、無理でしょうけどね。」


「会いたい?」

長くて大きい耳が反応します。アリスにとってはただの独り言。本当に会えるだなんて思ってもいません。ですが彼女は知らないだけ。女王の方も、彼女に会いたがっていると。

「ええ、出来るなら。」

まるで夢物語のように呟きます。彼もその夢を現実にしたい一心でした。でも、今まさに、叶えられる最高のチャンスです。興奮をおさえるあまり妙に遜って、ウィリアムはアリスの前に跪きました。いいえ。彼がそうしたのはアリスに対してだけではありません。

「・・・私めにお任せください、アリス様。」


アリスに会いたがっているけど、中々難しい女王様。

それを叶えたい召使。

女王に会いたいアリス。


なんと、これほどまでにみんなにとって都合のいいことはあるでしょうか。そうときまれば、あとは次へ動き出すのみです。


再び待合室。今度はいつもの服に着替えた女王様が窓の外を眺めていて、そばには兵士が一人。廊下を慌ただしく駆ける足音、声ですぐにウィリアムだとわかりました。

「たい!へん!でーーーッ!!!」

扉を勢いよく開けて、更にはごろごろと前転していきます。兵士は彼の勢いに若干圧倒されていましが、グローリアは冷静です。

「驚かないのですね?」

「慣れたわ。くる前からうるさかったし。」

「女王様!ああ、女王様!」

興奮や焦りが収まらず、ついには部屋を一周駆けまわってしまいました。

「女王様!!」

不審そうなグローリアに耳打ち。至って真面目な顔で耳を傾けます。

「・・・。」

おやおや、無反応?

「・・・・・・。」

しかし、話を最後まで聞いたあと、白目をむいて魂が抜けたように倒れてしまいました。

「女王陛下ァーーーーーッッ!!!!!」

部屋の中を悲鳴がこだまします。



一方。あと半分のわたあめを自分の住処で堪能しながら、大きな岩に腰をかけ、足をぷらぷらさせて雲ひとつない青空を眺めているアリスはとても上機嫌。

「まさか、女王様に会えるなんて!楽しみだわ!でも、ドキドキする!めいっぱいお行儀良くしなきゃ!」

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