5話 ないものねだり

曇り空の海辺を歩く一人の男が、砂浜で輝くあるものを拾いました。

「これは・・・。」





アリスは誰もいない海辺を前屈みでうろうろしています。更に、じろじろと砂浜と睨めっこをしながら。

「どこいったのかしら。」

落とし物をしてしまったのです。しかし、こんな広い場所ではたしてみつかるのでしょうか?それはとても小さなものでしたから。やけにムキになっていたところ、向こうのほうから声と足音が近づいてきます。そこにいたのは、この前市場で会った牛の大柄の男性。

「こんな曇りの日に誰もいない海辺でなにをうろうろしている?」

確かに、側から見たら不審者のようです。

「落とし物を探しているの。銀色のカードよ。」

以前手に入れたお戻り券をなくしたのです。あれほど便利で都合の良いもの、手放してなるものかと一生懸命探していたのが、男性の後ろで組んでいた手の中に。

「もしかして、これか?」

「それよ!拾ってくれたのね!?」

良かったですね。これでもう探さなくて済みましたが、男性はすぐに返してくれません。

「この国では落とし物はだいたい拾った奴が自分の物にしてしまう。」

アリスはこの世界のルールなど知りません。せっかく喜んだのに、束の間でした。

「そ、そんな・・・。」

と、思いきや?

「ふん。」

彼女の足元にポイッと投げ捨てられます。

「私にはこんなもの必要ない。・・・家に戻れなくなるほど遠くへ行くことがないからな。」

良かったですね、と言いたいところですが、どうも彼の態度が気に入りません。確かに、物の返し方としてはあんまりにも失礼極まりありませんし、アリスが頑張った結果もらった物をこんなゴミみたいな扱いされたのです。

「だからって投げ捨てることないでしょ!」

きっと睨みました。男性は黙ったまま見下ろしています。何も見ていないような目で、何も感じていないような顔で、なのにじっと見つめられていて圧を感じます。

「な、なによ、その目・・・。」

アリス、いつもならきっと反抗的な態度で返していたでしょう。

「やめてよ、その目・・・。」

悟られないよう強がっていても、隠し切れないほどの得体の知れない恐怖が湧いてきます。

「なんで?なんで怖いの?」

一体何にこんなにも怯えているのでしょうか。彼に対して、そのはずなのにもっと違うものに怯えているような気がするのです。恐怖の原因がわからないから、気持ち悪くて、苦しくて。

「・・・!!」

アリスはとうとう逃げ出しました。前へ、前へ走り続けます。


しばらく走った後、足が動かなくなったところで立ち止まります。今の苦しさは単に、息を切らしたから。でも早い心臓の理由は拭い切れなかった恐怖のせい。暗い暗い森の中で少女がひとりきり。

「あの目。」

思い出します。自分をここまで突き動かした、あの目を。

「愛情も優しさもないような、見下ろすような・・・ええ、他人だから当然。でも、あんなふうに見られたことが前にもあるような気がする。その人は・・・その人・・・は・・・。」

これだけ苦しんでるのに、わかりません。思い出せません。はたまた、思い出すのを拒むぐらいに思い出したくないのかも?

「・・・。」

少し先に看板と、レンガの塀。看板には「いりぐち」と幼稚な文字。子供が覚えたての字で書いたよう。そして塀に歯わずかなくぼみ。触れてみるとわずかに前に動きます。よく見ないとわかりませんが、塀と全く同じような見た目の扉があったのでした。入ってみると、なんと白塗りの壁でできた迷路です。吸い込まれるみたいにアリスは迷路の中へ。


最初の分かれ道、がっしりした鉄の扉で通せんぼ。大きな吊り看板にこんなことが書かれてありました。

「どっちへ曲がればいいでしょう。」

・真ん中の看板には「それぞれ違う文字をいれて言葉を完成させなさい。」。

・I G H T という文字が横並びに二つ。

・横にスペースがあります。そばにチョークも置かれていました。

「なぞなぞかしら。今はそんな気分じゃないけど、うーんと・・・そうね。」

「待って、アリス!」

内なる声。悪魔に寸止めさせられます。

「Lを入れようとしているのなら左のほうに入れたほうがいいわ。」

言われるがまま、一文字を入れて「LIGHT」を完成させました。残りは右です。おや?右、といえば?

「LはLEFTの頭文字。左を意味するわね。じゃあ右は?」

悪魔のヒントでアリスはピンときました。そして、もうひとつのスペースに書き込んだのは「R」。完成した言葉は「RIGHT」です。つまり?

「こっちは光、こっちは右。右ね!」

自信満々に答えると、ガシャンと扉が開きます。進むべきは右の道。

「やったー!!」

出だしは順調!元気を取り戻したアリスはそれからもなぞなぞにぶつかってはどんどん進んでいきます。以降は正解したら、鉄の扉が開く仕組みでした。

問題「アップルは何語?」

「りんご!」

ガシャン!

問題「水、金、地、火、木、土。これらを別の法則に並び替えよ。その際、いらない物をひとつがあるからそれを答えよ。」

「火、水、木、金、土。地曜日なんかないから、地がいらないのよ!」

ガシャン!

悪魔は本当に困った時のみ手助けするのみで、間違った答えを言えば壁からガスが噴射したり突然現れた落とし穴にはまったり、その度に癇癪を起こしましたがなんとかかんとか、「最後の問題」。


問題「父親を嫌いな果物は?」

「・・・・・・。」

アリスは悩みます。なんと難しく、意地悪な問題なのでしょう。

「父親・・・嫌い?」

さらに、これにはヒントが書いてありません。数分ほど考えているうちに答えがわかりました。でも、その前に余計なことを口走りそうになったり。そのせいで穴に落ちたらもっと落ち込むからやめました。

「パパイヤ。」

ガシャン!最後の扉が開きます。おかしいな、嬉しいはずなのに。

「・・・・・・。」

アリスの心はちっともすぐれません。立ち止まっても仕方ないので、開かれた道を進みます。


「私は・・・思い出した。」

「パパが嫌いだった。パパのあの目が、あの顔が嫌いだった。なんでそんなふうに見てくるかまでは思い出せなかった。」

「そう。似ていたんだわ。だから思い出したのよ。」


レンガの迷路を抜けると、またまた落とし穴に。今度は随分と深い穴でして・・・。


「わぶっ!」

とても弾力のある柔らかいものの上に落ちた後、はじき返され宙を一回転。それを何回も繰り返して、おさまるとようやく状況を理解しました。落ちたのはトランポリン。そしてここは、家の中。

「ゴールした者がいたとは。」

海辺で出会った男の人が今度はリビングで飲み物をすすっていました。アリスは不思議で不思議で仕方がありません。だって、見上げたら穴も何もない天井だったのですもの。

「あれを考えたの、まさかあなたなの?」

「そうだ。・・・私の名前はカートル。ただのしょぼくれたおじさんさ。」

トランポリンから飛び降ります。まだ警戒心をあらわにしているアリスはこれ以上近づけません。

「・・・私は、アリス。あの、拾ってくれてありがとう・・・。お邪魔しました。」

忘れていたお礼をしっかり言った後、お戻り券で一旦住処に戻ろうとすると。

「お前、どこに住んでいる?」

と聞かれたので止めました。

「なんでそんなことを言わなくちゃいけないの?」

「いや、なにも住所を言えと言うわけではない。ただ、一つ気になったことがあっただけだ。」

メガネを持ち上げて、鋭い眼光でこっちを睨みます。

「お戻り券は町の市役所にして申請してもらうものだ。住所は記載されないが自分と家族の名前が載ってある。こいつはどういうことだ?」

「そうなの?」

「これを持つ以上、子供でも知っているぞ?」

知るわけがありません。だって、アリスは別の世界から突然やってきたはぐれ者です。だけど今のアリスはいちいち怒る気力がわいてきません。知らないことだらけなのも、当然ですから。

「これはコーカスレースで優勝したからもらったのよ。」

「ああ、なんだ。違法物か。」

複雑な気持ちです。もらったものは、あまりよろしくないものでしたから。

「拾う奴によったら面倒なことになるぞ。パパとママに頼んで、ちゃんとした物を作ってもらえ。」

でも知らないのはカートルもまた同じ。アリスはこの際はっきりと言いました。

「私にはパパもママもいないの。」

カートルの動きがぴたりと止まりました。

「私に関する記憶もほとんどないの。この世界のこともさっぱりわからないの。」

彼女の口は止まりません。

「帰る場所だってわからない。だから適当な場所を住処にしている。あなたは私にもあたりまえに家族がいてお家があってなんて思ってるんでしょうけど、私はなにもない。」

言いたいことだけ言ったのに、スッキリしないどころかこんなに嫌な気持ちが募るだなんて。

だからこそ、最後はそんな自分を納得させるために言いました。


「でも私はそれでいいの。」

黙って聞いていたカートルが顔をあげます。

「それでいい、とは?」

「そのままの意味よ。」

のちに聞こえたのはため息。

「・・・どこに住んでるか知らんが、今日は午後から広い範囲で雨が降る。」


この時、アリスは今まで全く考えていなかった現実を突きつけられ、大変驚き慌てます。

「雨が降った時のこと、全く考えてなかった!」

今の住処は野晒しです。雨風が吹けばもろに浴び、暑さや寒さからも身を守れず。住む場所としては最悪です。

「・・・まさかとは思うが、雨漏りでもするのか?」

「まさか!屋根がないから雨漏りしないわ!」

雨漏りはしませんがずぶ濡れです。想像以上の劣悪な環境に思わず絶句。窓の外にふと目をやると、小雨が早くも降り始めていました。

「ひとまず雨宿りだけしていきなさい。」

「・・・。」

傘の一つもないアリス。帰っても濡れるだけなので、ここはお言葉に甘えることにしました。



「はわっ!」

アリスはテーブルに突っ伏して寝ていました。丁寧に毛布までかけられてます。疲れていたのでしょうか?・・・いいえ、違います。カートルが身の上話をしてくれたのですが、子供には難しくつまらない話を延々と聞かされ、かえって子守唄のように心地よく耳に入ってきて気づいたら居眠りしていたのです。

「グッモーニン。」

動かず声をかけてきました。仏頂面の淡々としたトーンですごく気さくな感じで。

「牛だから、鳴き声とかけたわけ?」

「バレた!」

・・・?彼の様子が変ですね。でもアリスは気づいてました。と、いうのもこれは寝落ちるまでのこと、真面目な話の中にたまにダジャレを挟んだりしてたのです。笑いのツボが違うのか、アリスは無表情でしたがいってる本人は笑ってたりしてました。怖い印象を与えた時もありましたが、おそらくこれが彼の素なんでしょう。

「雨止まないわね。」

「まだ帰れいん(Rain)といったところか。・・・うーん、今のはいまいち。」

「・・・。」

たまに納得していなかったり。これも先ほどの話。今はすっかり止んでいます。

「お世話になったわ。そろそろお邪魔するわね。」

「お前、本当に雨風しのげないところに住んでるのか?」

「洞窟みたいな場所を探して、お引っ越しも考えているのよ。」

そんな前向き、ちっとも頼もしくありません。

「一応教えといてやる。お戻り券とやらは戻る場所を変えることはできない。」

「なんとかするわ!」

この顔は、全くなにも考えていない顔だとすぐに察しました。

「私にしてあげられることは無いのだろう。・・・元気でな。」

気の利いた別れの言葉が浮かんでこず、それでもアリスは笑顔で家を出ていきました。だって、彼はとても優しい顔でしたから。

「・・・・・・。」

少し広くなった家の中。カートルは彼女が気付く前に下に倒した小さな額縁を直します。額縁には自分と、女性と、小さな子供と笑顔で映った写真が飾ってあって・・・。



「まあ!」

気まぐれにもほどがあるアリス。住処に戻ろうと最初は考えていたのですが、何と無くで違う街へ足を運んでみました。ちょうど、食べ物も残り少なくなっていましたし。たどり着いた街では、コーカスレースよりも大規模な、それこそ町全体での催し物をしていました。街路樹にはカラフルな飾り。街を歩く子供たちも頭に花冠をつけて淡い色の服を着ています。

「どんなお祭りなの?」

子供のうちの一人に聞いてみると。

「メアデーだよ!はんじょーを祝う祭り!ママがおばあちゃんからもらった宝物を、こんどは子供に贈るんだ!」

「七歳になるともらえるんだよ!」

「あたしたちが大人になって、子供ができたらメアデーに送るの!」

集まってきた子供たちが次々と教えてくれます。この世界の、この街ならではのイベントに興味津々のアリス。

「イースターとクリスマスを合わせたみたいなイベントね!」

というと。

「なにそれー!!」

と口を揃えてかえってきて、無邪気に走っていきました。アリスのいた世界では有名なイベントも、世界が違えばそうなるのも当然。逆もまた然り。

「・・・。」

楽しそうな声であふれた街。キラキラ輝いています。みているだけで心おどる光景なのに。本来ならそうなるはずなのに。微笑ましい親子が笑い合って手を繋いで歩いているのを見ると。改めて、目と心に焼き付く現実という名のフィルタのせいで、声も景色もだんだんとぼやけてきます。アリスにはママとパパがいません。正しくは、いるにはいたのです。


ママとパパがいたらよかったのに、と思う反面。

ママとパパはいらないと思う矛盾。一体自分はなにを求めているのか、それすらもわからなくって。

「あっ。」

何か柔らかいものを踏んだので足を上げると、可愛らしい人形。拾って汚れたところを手で払います。

「この国では落とし物はだいたい拾った奴が自分の物にしてしまう。」

カートルの言葉が脳裏によぎりました。

でも、盗るつもりは更々ありません。

価値のなさそうだからということを言っているのではありません。

この中にいる誰かの宝物かもしれないと思うと価値は関係ありません。

残念ながら、名前は書いてなければ持ち主を探しようがありません。

どうしようもない人形を手にぶら下げて、街をさまよいます。


「あれ・・・?」

足が少しだけふらふらします。体に力がうまく入りません。大きな木の下にベンチがあるので、そこで休憩をとります。

「・・・・・・。」

雨上がりの綺麗な空には七色の綺麗なアーチ。確か、あれを見たらいいことがあるだなんて嘘かほんとかわからないでたらめをアリスはずっと信じていました。いいことがあるって信じた方が楽しいからです。

「頭がボーってする・・・。」

風邪でしょうか?雨に濡れた覚えはないのに。いいや、熱はありません。じゃあ寝不足?いえいえ、アリスはぐっすりと眠れている方です。原因がさっぱりです。大丈夫、大丈夫と言い聞かせていましたが体は言うことを聞いてくれません。


やがて意識が途切れ、力なくベンチの上に倒れてしまいました。


街の人たちは彼女を「こんなところで寝ている無防備な子供」と思いながら誰も彼もが通り過ぎました。アリスの様子がおかしいと周りが気づいたのは、ころっとかわった天気、土砂降りの雨に打たれても全く起きなかったからです。



ーーー・・・。



「・・・・・・!」

アリスの意識が戻りました。見知らぬお家の中、ふかふかのベッドで寝かされています。そして、ベッドの周りには。

「ママ!目を覚ました!」

「まあ、具合はどう?」

ハリネズミの子供と母親。子供はそうぴょんぴょんと飛び跳ね、母親は心底ほっとした様子です。

「ここは・・・?」

「ぼくのいえ!お姉ちゃん、ベンチで気絶してたんだよ!家が近いから運んで、おいしゃさんにみてもらったの!」

母親は子供の頭を軽く撫でます。見た目ほど、身体を覆うトゲトゲは痛くなさそうです。

「体に異常はないんだって。疲れが溜まっているんだそうだよ。わけは聞かないけど、もう少しゆっくりしていきな。」

「無茶は禁物だよ!」

すると今度はドアからハリネズミの男の人。スーツを着ています。

「おや、気がついたんだね。」

「パパー!おかえりなさい!」

「おかえり。」

やっぱり、パパでしたか。

「パパ・・・。」

今のアリスにとって一番聞きたくない言葉でしたが。

「事情は電話で聞いてるよ。そっちの親に連絡しないと。まあ、もう少し休んで行きなさい。」

「・・・お言葉に甘えるわ。でも、連絡はいいわ。心配かけたくないもの。」

パパとママはいません、なんて言ったらこっちのパパとママに余計な心配かけてしまいますし。なので事情を知らない母親は。

「まーよくできた子!お前も少しは見習いなさい。遊びに行ったらなかなかかえってこないんだから。」

とぼやくと子供は頬を膨らませて反抗します。

「夕飯が冷めないうちにはかえってるでしょー!?」

家中に響き渡る楽しい光景。きっとどこにでもある、ありふれた家族の会話。

「・・・・・・。」


アリスは一つの答えに辿り着きました。アリスが欲しかったのは「これ」だったんだと。記憶はまだ曖昧ですが。

いい子を縛りつけるママでもない。

子供を冷たく見下ろすパパでもない。

・・・まだ思い出せない記憶の中で、このように自分も愛されていたのだと信じました。そのあと、乾かしてもらった服に着替えてホットココアと小さなケーキをいただきました。

「1日ぐらい泊まっていったらいいのに。」

「向こうのご両親が心配するだろう。本当にもう大丈夫なのかい?」

アリスはすっかり回復。

「ありがとうございます。あっ・・・でも、お医者さん呼んでくださったのでしょう?医療費払えるお金持っていないのだけど。」

その言葉を聞いた瞬間、ハリネズミの両親は驚いたのか、全身の毛が上に逆立ってとても面白い状態になっています。

「こ、子供がそんなこと気にしないでおくれよ、な、なあ!?」

「そそそうよ。さすがにびっくりしたわ。」

ハリネズミの方の子供は首を傾げています。多分これが年相応、です。

「私たちの他に運ぶのを手伝ってくれたうちの一人が払ってくれたのよ。」

「まさか、テディーだったよ。祭り事は稼ぎ時って毎年くるからね。しかも、医者に対してツケって!!」

・・・思わぬ借りができてしまいました。ツケなら、間に合うかも?

「テディーさんは?」

「店じまいしてとっくに帰っちゃったよ。」

残念。まだいたのならせめてお礼だけは言えたのに。でも、どうせならその分のお金を用意してからの方がいいですね。アリスは借りは返さないと気が済まない性分なのです。この家族に返せるものはなにひとつありませんでしたが。

「そういえば、街でお人形を拾ったの。あれはどうなったのかしら。」

子供は自信たっぷりに答えます。

「友達のなんだ、あれ。返しといたよ!」

一安心。心配事は一つなくなりました。


「本当にありがとうございました。」

ぺこり頭を下げて、優しいハリネズミの家族とお別れ。街で少し食べ物を買って、カバンに詰めて。さて、今度はどこへ向かうのやら。




「おう、ただいま!」

お茶会にすごくご満悦のテディー。どれぐらいご機嫌かというと、歩きながら尻尾が大きく揺れているほど。

「テディーおかえり!」

「途中から雨が降ってね。それを除いても結構稼いだぞ。」

「街を梯子して稼ぎに出たもんね。貪欲にもほどがあるよ。」

まさか、テディー。一日のうちに二つの街で商売をしていたというのでしょうか。ハニーが呆れるのも当然です。

「そういうなよ。今日は私の大盤振る舞いだ!」

材料やお菓子を詰め込んだ袋をテーブルの上にドンっと置きました。これには大喜び!

「やったー!!」

「特別に私が振る舞おう。」

「あっ、それはいいです。」

ハニーは、既に完成されたお菓子だけテーブルに並べて、これからお菓子になる材料達を抱えて家に入りました。


「・・・。」

さっき、とある街で倒れていたアリスを近くの家に運ぶのを手伝ったことを思い出します。あの時、テディーの体にもわずかに異変がありました。ほんのささいなことでしたが、まるで、体の内側が振動するみたいな感覚に襲われたのです。更にもうひとつ、大事なことを思い出しました。


「やべぇ。ツケにしてたの忘れてた。」


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