8月1日
茹だる様な暑さ、とはよく言ったものだ。今年の夏は異常に暑い。冷房器具などという軟派な物を置いていない1DKの我が家で、ナツと2人で寝そべっていた。起き上がる気力が無いとも言う。
なんとか這いずって冷蔵庫にたどり着き、そこからこげ茶色をした液体の入ったペットボトルを取り出した。
「ナツ、生きてんか。とりあえず、冷えた麦茶でも飲もうぜ。」
「流石、気が利く。有り難くいただくよ。」
ナツはペットボトルを受け取り、それを一気に飲んで吹き出した。
「アハヒャハハ!!!」
してやったり。それはアドンコだぜ、お前さん。引っかかってやんの。
「ふざけろよ。てめぇも飲め、バカ野郎!!」
ナツは飛び上がって俺に組み付いてきた。アドンコを浴びせてくる。
「勿体ねえよ!飲ませるじゃなかったのか。」
「知るか、ボケ!!」
アドンコと汗でベトつくシャツが鬱陶しかった。だから、俺はシャツを脱いだ。
「お、なんだ。やるっていうのか、お前さん。」
「昨晩の決着、付けようじゃねえか!」
「上等じゃ!私の方が格上だってこと、その空っぽの頭に叩き込んでやるわ!」
ナツもシャツを脱いだ。
「いくぞ!コラァ!」
と、威勢よく掴みにかかったが、ナツの汗だくの肌は滑って握ろうとした手は明後日の方向へと進む。
「甘いわ、バカ野郎。」
ナツは俺の首を締めようと腕を回す。しかし、俺の肌も汗が滝のように流れていて、床のフローリングはアドンコと俺達の汗で水浸しであった。当然、足を滑らしてもおかしくない。案の定、ナツはすってんころりんと尻もちをついた。
「良いざまだ、ナツさんよ。」
俺はナツを見下して踏みつけた。そして、俺も足を滑らして転ぶ。
互いに汗でヌルヌルになった取っ組み合いは、まさにローション相撲。汗は流れ続ける。
「アドンコや。アドンコが足りん!」
俺はペットボトルに残っていたアドンコを飲みほした。
「ぷは~。勝った…」
空になったペットボトルを床に落とす。酔が廻る。
「酔拳か?しゃらくせえ!」
「ホアチャッ」
俺は見様見真似の縦拳をナツに放つ。
「酔拳は、ジャッキー・チェンだろうが!!!!」
ナツの豪快な張り手をカウンターでもらう。ドゴン!と、冷蔵庫に当たった音が響く。
「お前ら、煩いんじゃ!!って、酒くさ!」
突如、玄関のドアが開き、大家の中窪さんが入ってきた。
「……」
「……」
俺とナツは冷静さを取り戻した。
「…こいつが悪いんです。私はただ、襲われただけで。」
こいつ!俺を売りやがった。
「鼻血流して倒れてんのは、あんちゃんの方やないかい。まあ、好きにせえよ。ただし、近所に迷惑をかけんな!」
「「すんません。」」
俺とナツは声を揃えて謝った。
「とりあえず、掃除しようか…」
ナツは新しいシャツとパンツを履いてそう言った。
「まずは水を飲もうぜ。ほら、麦茶。」
「お前なあ。」
「今度は本物だって。」
俺は一口飲んでからナツに渡した。
「あぁ、生き返る。」
全開にした窓からドアへと吹き抜ける風は気持ちよく、アドンコの薫りを運んでいく。この日は、部屋の掃除に明け暮れた。
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