第15話 スキア討伐
「どうじゃ?」
スペシャルDNA活性剤を飲んでから数分、半間さんの様子はあまり変わりない。
「今測定するから待っておれ」
そう言ってヘルメットのようなものを取り出す保。
「それが測定器ですか?」
「そうじゃ。少々大きいが、感度は抜群じゃ」
そう言って半間さんの頭にヘルメットをかぶせる。そしてヘルメット側面のボタンを押す保。
側面についたランプがすべて点灯すると、保が目を輝かせる。
「成功じゃ! これでスキアを撃退しておくれ」
「分かりました。私がいってきますね」
齢80の半間がゆっくりとあるきだす。
それを見て、どっちが行動するべきなのかを考える。
あの三人を守ることが半間さんにできるのか? いやきっとできる。
そんな確信を抱き、俺は提案する。
「俺がスキアを撃退します。半間さんは理彩たちを頼みます」
「いいのかい? 君はあまりコロニーが好きではないと聴いたが」
俺はこのコロニーが好きではない。でも人が死ぬのはちょっと違う。
死んでほしいわけじゃない。関わりたくないだけ。
でも、こんなご老人にスキアを倒すことなんてできない。移動速度が違いすぎる。
となれば、俺が行くしかない。
例え望まれていなくとも、望んでいなくとも。
それでも前に進むためにはこうするしかない。
しかたないことなのだ。
理屈では俺が行くというのは納得できる。あとは心の問題。
だが、心を優先して人が守れるのかといえば違う。
時には心を殺さねばならないときもある。
それが今だっただけだ。
これからますます心を殺す機会は増えるだろう。その予行演習と思えばいい
「まあ、半間くんがそう言うなら、わしは止めない。半間さんはここで三人を見守っておれ」
「参ったな。こんな年寄りにラブコメをせいとは」
ポリポリと頬を掻き、困った表情を浮かべる半間さん。
「お願いしますね。で、保博士。俺はどこに向かえばいい」
「大丈夫じゃ。すぐに応援をよんでおる。きたまえ」
保が呼ぶと柱の陰で震えていた女性研究員がこちらに向かってくる。
「は、初めまして。
「よろしく。俺は半間博人だ」
深々と頭を下げる仄日に、俺もつられて深々と下げる。
「挨拶も早々に、さっそく行ってはくれまいか?」
「は、はい!」
仄日は焦った様子で俺を連れ出す。
コロニーの内部は空を見渡せば人が生きている土地、家屋や草木が見える。円形になったそれはどこか万華鏡を彷彿とさせる。
車に乗り込み、俺は仄日に話しかける。
「しかし、どこにいるのか分かるのですか?」
「はい。スキアは特殊な電磁波を発しているのです。それを追えばすぐにつきます」
そんな簡単ならあのご老人――半間さんに任せてもよかったのかもしれない。
「逃げ出したのは何匹だ?」
「
おおよそ? どういう意味だ? 一匹は一匹だろう。
「おおよそ、というと?」
「奴らは分裂して増えます。こうしている間にも増えるかもしれません」
「なるほど。じゃあ、増える前に倒さなくては」
倒す。そう言ったがどうすれば倒せるのか、皆目見当も付かない。
俺のサイコ粒子とやらで倒せるらしいが、どうすればサイコ粒子を飛ばせるのかが分からないのだ。
「つきます!」
「意外と早かったな。どこにいる?」
ついたのはビルの裏手。そこには数人の人影も見える。
「奴らの主食は人間だったな。なぜ待避していない」
「それがトップが必要なしと判断して……」
額に汗をにじませる仄日。
責任者が責任をとらないで生き延びている――そんなのはいつの時代も同じか。
「で。詳しい位置は分からないのか?」
陰と同化している可能性が高く、このビルの陰全体にいる可能性がある。
「もう少し陰に近づいてください」
「こうか?」
俺は疑問に思いながら陰の中に足を踏み入れる。
するとシューッと音を立てて水蒸気を発する陰がある。
「もっと近づいてください! それで倒せます」
「マジか。俺、なんにもしていないけど」
まさか何もしなくても倒せるとは思いもしなかった。
さらに一歩前進する。
と、断末魔を上げスキアは灰になる。
「これで良かったのか?」
「はい。ありがとうございます」
「なんだ。簡単だったな」
俺はホッと胸を撫で下ろす。
「――っ!?」
驚いた声を上げる仄日。
その目線の先にはスキアを感知する計器がある。
「まだいます! 車での移動になるので乗ってください」
鈴木製のシルバーの車。ところどころに汚れや傷が目立つ。あまり大切にされていないことがうかがえる。
そんな車に乗り込むと、少し荒っぽい運転で、次の目的地に向かう。
スキア固有の電磁波の波長を追って、コロニー内部。円形の内側を走る。
「まさか。もう増えているなんて……!」
怒りと焦りがにじんだ声で唾棄する仄日。
ポケットからたばこを取り出し、火をつける。
「身体に良くないですよ」
「分かっていてもやめられない。まさに人間の欲ね」
仄日は自嘲ぎみに呟く。
それでストレスが紛れるなら、それもありか。そう思うようになっていた自分がいる。
北三番街の橋の上。その陰にスキアがいるらしい。
俺は慎重に坂を降りると、陰に飛び込む。
またもやシューッと音を立てて灰になるスキア。
どうやら成功したらしい。
こんなことは老体にはできなかっただろう。
そのあとも二カ所に現れたスキアを倒していく。
逃げ遅れた者が食べられる――そんな瞬間にも立ち会ってしまった。目の前で人が食われるのは恐怖意外の何物でもない。
脳裏に焼き付いた断末魔を、悲鳴を、
俺は倒し終えるとくたくたになった身体でカプセルルームにたどり着く。
「ただいま帰りました」
「おお! まっとたぞ。半間くん」
大手を振り迎え入れる保。
「そっちはどうですか?」
「それが半間さんの大人っぽさの前に三人が困惑しておってな。こちらも世界を変えるのに必死じゃ」
暗に一つの世界では長続きしないと判断したらしい。
「やはり、俺が行くしかないのですね」
「そうじゃ。半間さんには起床剤を投与する。これでこちらの世界に戻ってこれるじゃろうて」
そんな便利なものがあるのか。じゃあ、俺が帰りたい時にも投与されるわけか。
「ちなみに、お主の起床データから作り出した代物じゃ。お陰で助かっておる」
「ところで、三人を起こすことはできないのでしょうか?」
そうすれば、こんなカプセルで寝る必要はなくなる。
「それは無理な話じゃ。君がここにいる時点で奇跡的なのじゃ。三人は病気を改善するまでは絶対安静じゃしな」
「そう、ですか。分かりました」
ここで頷いてしまうあたり、俺はイエスマンらしい。
しかし、病気と聞かれると、確かにそのままがいいのかもしれない。
否定するだけの知識も、知恵もないのが悔やまれる。
俺は何のために生きてきたんだ? そう思うが俺がいなければ彼女たちは生きていけない。
そんな相互依存みたいのはやめたい。
理彩、玲奈、葵にはもっと自由に生きてほしい。
「ところで、俺がいないと彼女たちはどのくらい生きていけるのですか?」
「推測じゃが、恐らく2時間ほどじゃ」
「2時間……」
意外と短い時間しか生きられずに困惑する。
彼女たちは必死で生きているのだ。俺もそれに報いなくてはいけない。
そう思った。
彼女たちの分も、背負って生きていく。
そう心に誓い、再びカプセルの中へ身を投じていた。
俺はまだ生きなくてはならない。
「最後に言うが、お主の脳を借り、未来予測をしようと思うのじゃが、かまわんじゃろ?」
保が神妙な眼差しをこちらに向ける。
「それは寝ている間、か?」
「もちのろんじゃ」
ならいいか。
俺は夢の世界へ、身を
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