第20話

 放課後デートとなれば、学生にとって一部が憧れるシチュエーションだろう。しかし、それは同じクラス然り、先輩後輩の間柄で求められるシチュエーションであって……俺の場合は、他と大差があるシチュエーションとなっているだろう。

 何故なら、隣を歩く相手が異性ではないからだ。見た目は異性で、女子らしい格好をしているのだが、中身がそうではないのを俺は知っている。繰り返し説明して、しつこいかもしれないが――俺の隣に居る蕪木空は、正真正銘である。


 「さっくんさっくん、次は何処に行こっか!」

 「もう夕方だぞ?まだ遊ぶのかよ、お前」

 「だって勿体無いじゃんっ!せっかくさっくんとデートなんだよ!?海軍の人が勿体無いって思うぐらい勿体無いよ!」

 「誰が分かるんだよそのネタ。海軍って何処の作品だよ、某少年誌からクレームが来るぞ!」

 「それ以上はやめるんだ、さっくん。その指摘はあたしに効く」


 聞き覚えのあるフレーズを空は、真似たような口振りでそう言った。俺よりもアニメや漫画を見てる空だ。王道のアニメや漫画から脚光を浴びていないサブカルチャーを把握しているのだろう。

 しかし、なんとなくだが……ここで空に便乗して使ったら、誰かに怒られる気がする。そんな考えが頭を過ったが、俺はすぐに空の行動を遮るように問い掛けた。


 「もう十分遊んだと思うけどな。遊ぶっつったって、この近くで遊べる場所なんてないだろ」

 「良いからさっくんは着いて来るのよさ」

 「何処のアッチョンプリケだ、お前」

 「まぁまぁ細かい事は気にしない気にしない。ほら、行こ♪」

 「ったく……つか、何処に行くつもりなんだよ」

 「良いから良いから♪」


 さっくんはあたしに着いて来れば良いのだよ、とドヤ顔を浮かべて言葉を付け足した空。眼鏡を上げる動作をしていたが、それも何かのサブカル的な行動なのだろう。そんな事を思いながら、俺は空に手を引かれたまま歩を進めた。

 もう少しで陽が沈む空を眺めながら、引かれるがままに足を運ぶ事数分。俺は数十段ある階段を登らされていた。


 「お、おい……ここを登る必要があんのかよ」

 「必要なの。良いから登るの、頑張れさっくん♪ファイト、オー!」

 「何でそんな元気なんだよ」

 「体力落ちたんじゃない?あたしは全然平気だよー?」

 「普段ならお前の方が早くバテるくせに……こういう時だけの体力はあるよな、お前」

 「欲望に忠実なんだなぁ、あたしは」


 そんな言葉を交わしながら、汗だくになって階段を登り切った。息も絶え絶えで、汗が地面に滴り落ちている。その足元を見ていたら、空が俺に顔を上げるように言って来た。


 「ほら、さっくん、見なきゃ勿体無いよ」

 「あ?一体何の為に登らせたん……だ?」


 俺は目の前に広がっている景色を見て、思わず口を、声を、思考を止めてしまった。何故ならそこには、夕焼けに染まった街の景色が広がっていたからだ。


 「あたしのお気に入りなんだ。どうどう?凄いでしょー♪」


 空に感想を求められた俺は、いつもなら誤魔化す所を正直に答えたのである。


 「――あぁ、凄く綺麗だ」

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男の娘は今日も健全です! 三城 谷 @mikiya6418

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