第19話

 『お、男って、はぁ!?嘘だろ?』


 ナンパ男の暴力を阻止したが、納得のいかない様子のナンパ男達は皐に詰め寄ろうとする。しかし、そんなナンパ男達の勘違いを正そうする為、皐は親指で隣に並ぶ空を差しながら面倒そうに言葉を続ける。


 「嘘言って何の得があるんすか。正真正銘、こいつは男ですよ」

 「さっくん、か弱いあたしに向かってそれはヒドいんじゃないかな?」

 「事実を言ってるだけだろうが。そもそもそんな格好しなきゃ、こんな面倒な勘違いは生まれねぇんだよ」

 「えー、あたしの存在意義を否定するつもり?ナンパしたこの人達が、本物か偽物か見分けられない時点で、事実上あたしが女子って事で良いじゃん!」

 「いや、それとこれとは話が別だろ」


 溜息混じりにそう告げる皐は、不満気な表情で見上げる空の頭を鷲掴む。ブンブンと空を切る両腕は当たらず、呆れた様子で頭を掻きながら皐はナンパ男達に視線を戻した。


 「そういう事なんで、こいつをナンパしたいなら続きをどうぞ。俺は黙って見てるんで」

 「はぁっ!?何でそうなるのさっ」

 『『『(それは俺達のセリフだろ)』』』

 「せっかくナンパされたんだ。お前の言う女子扱いをされたんだから、思う存分相手してもらえよ」

 「女子扱いをして欲しい相手はさっくんだけで良いよ。何でわざわざこんな見た目だけのクズ男達に媚売ってご機嫌取らなきゃいけないのさ!」

 『ちょ、ちょっと俺達はこれで……』

 「はぁっ!?さっくんがチャンス上げたんだから、素直にナンパしてきなさいよ!それでも金玉付いてるんですかっ!?」

 『(何だこいつら)』

 『(め、めんどくせー)』

 『(しかも何で俺達が説教される形に……)』


 逃げるようにその場を離れようとしたナンパ男の動きを遮り、空は苛立ちに包まれた表情を浮かべて声を荒げた。ナンパされていた様子を見ていた周囲の客はともかく、新しく通り掛かった客が何事かと視線を向ける。

 周囲の冷たい視線が刺さるのが居辛さと気恥ずかしさを感じさせていたのだろう。ナンパ男達は擦れ違う客の視線が刺さる中、空の目の前で並んで正座をさせられていた。


 『ねぇねぇママー、あのお兄ちゃん達はどうしてあのお姉ちゃんに怒られてるの?』

 『見ちゃいけません。あれはダメなお兄ちゃん達だから』

 『どうしてダメなお兄ちゃんなのー?』

 『ダメだからダメなのよー』


 親子の会話が聞こえた事で、周囲の客が笑いを堪え始める。純粋無垢な子供の言葉というのは、純粋だからこそ心を抉る程の精神攻撃となる。それを受けているのか、ナンパ男達はみるみる内に顔が真っ赤に染まっていく。


 「ぷっ、くくく……」

 「駄目だよさっくん、ダメなお兄さん達なんだから気を遣わないと……ぷっくくく」

 『くっ、おいお前等帰るぞ!!』

 『おいちょっと待てって……』

 

 生き恥を晒してしまった事に気が付いたナンパ男の一人が、笑われる事に耐えられなくなって立ち上がった。そのまま他のナンパ男を連れ、その場から逃げるように退散して行った。

 やや走り気味で去っていくナンパ男達を見届けた空は、堪えていた笑みを抑えてながら隣で笑いを堪え続ける皐に視線を向けた。


 「(助けてくれてありがとね、さっくん。――はぁ、やっぱり好き)」


 ナンパ男の暴力を阻止した皐を思い出す空は、ご満悦な笑みを浮かべながら頬を赤く染めてピタリと皐にくっ付き始めたのである。


 「くくく、はぁ……可笑しな奴等だったな。??……んだよ、いきなり」

 「こうしたい気分なのですよ。気にしなくていいよー」

 「またキャラがブレてるぞ」

 「気にしない気にしない」

 「はぁ……はいはい」


 無理矢理に引き剥がした皐だったが、歩き始めると同時に空の頭に軽く手を乗せた。すぐにその手は離れたが、皐の背中を追った空は満面の笑みを浮かべて隣に並んだ。


 「~~♪」

 「何だよ、ニヤニヤして」

 「これも気にしない気にしない」

 「変な奴だな。あぁ、元からか」

 「それはヒドいんじゃないかなぁ?まぁ許してあげよう。今のあたしは気分が良いのだ」

 「へいへい、仰せのままに。偽お嬢様」

 「ふむ、苦しゅうない。手を繋ぐ事も許可するぞー?」

 「断る」

 「えぇー、ここは繋ぐところでしょーよー」


 そんな言葉を交わしながら、皐と空は外へと足を運ぶのであった。

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