第18話
空腹感を満たした皐と空は、適当に歩きながら次の目的地を目指そうとしていた。だがしかし、ゲームセンターからアクセサリーショップ、アクセサリーショップからペットショップ、ペットショップからレストラン……既に遊び尽くした感があるのだろう。
「これからどうするよ、帰るか?」
「えぇ、せっかくのデートでその提案はダメだよ~。女の子相手にそれは絶対に禁句なんだから」
「お前だから言ってんだよ」
「え、それってもうあたししか見えないって事!?」
「どれだけポジティブなんだよ。んな訳ねぇだろうが!」
「なーんだ、つまんない。ぶーぶー!」
唇を尖らせながら、文句を垂れる空。そんな空を無視した皐は、平然とその言葉を遮るように言った。
「あー、俺、トイレ行って来るわ」
「あ、んじゃあたしも行こうかなぁ」
「お前は一緒に来るな」
「何々ぃ~、さっくん恥ずかしいの?――あだっ、何すんのさっ?」
「お前が来ると周りの奴等が気を遣うだろうが。自分の見た目を考えろよ」
「むぅ……はぁ~い」
皐に小突かれた額を押さえながら、壁に背中を預けて携帯を弄り始める空。皐の目が無ければ、物静かで大人しいのが普段の空だ。それを知らない者からすれば、見た目可愛い系の女子が誰かを待っている図が生まれるのだろう。
物静かだが見た目が可愛く、それでいて大人しい様子の女子(自称)。そんな様子の女の子が一人で誰かを待っている図に出くわせば、勘違いする輩というのが姿を現したりする。
『ねぇキミ、彼氏でも待ってるの?』
「……」
『つかすげー可愛いね。その制服、高校生?』
「……」
『無視しないでよ、傷付いちゃうなぁ』
『キミみたいな可愛い子を待たせるなんて、彼氏は罪だねー。せっかくだし、俺達が遊んであげようか』
皐を待っている間の時間潰しの為、開いたアプリゲームを見つめ続ける空。ナンパ男三人に囲まれている様子だが、通り過ぎる他のお客さんは目を逸らして関わらないようにしている。
面倒事が目の前で繰り広げていたとして、そこに自ら首を突っ込む人間なんて滅多に居ない。居るとすれば、そういう行いを見過ごせない正義感の強い人間か、それを翳して自己満足に浸りたい人間のどちらかだろう。
アプリに視線を落とし続けている空に対し、ナンパ男達は苛立ちを見せ始めた。どんな人間であれ、自分の無視されるというのは気持ちの良いものではない。しかし、ナンパ男達の場合は少し違う。
その苛立ちは、「自分が話し掛けてやってるのに返事をしない女」という風に感じるのだろう。そしてその苛立ちをぶつける相手も、目の前に居る相手になるのは必然だった。
『おいおい、無視は良くないっしょ』
『せっかく話し掛けてやってるのにさぁ。冷たくない?』
『それともアレか、俺達の事を見下しちゃってる?』
「……」
詰め寄られても、アプリゲームを進める手を止めない空。そんな空への苛立ちが怒りに変わったのか、ナンパ男の一人が空の手元から携帯を叩き落とした。
手元から携帯が叩き飛ばされた空は、ゆっくりと見上げるようにナンパ男達に視線を向ける。その視線は睨み付けるような、それでいて蔑むような視線だったからだろう。
『ぐっ、てめぇ……女だからって調子に乗んなよ?』
ナンパ男達は睨み返された事にも苛立ちを感じ、空に掴み掛かろうとした瞬間だった。伸ばされた手は空の手前で掴み取られ、胸倉を掴まれる寸前で何者かの手が現れる。
「はいー、そこまでー……人の連れに何しようとしてんのさ、あんた等」
「さっくん、遅い」
「遅いつっても数分だろうが、さっさと行くぞ」
『おいおいおい、ちょっと待てよ。こちとらお宅の彼女に無視されてんだわ』
『だよなぁ、人を無視っつう失礼をした謝罪が欲しいよなぁ』
空を連れて行こうとした皐だったが、それを良しとしなかったナンパ男達は呼び止めた。それを面倒そうに振り返った皐は、面倒そうにして溜息混じりながらナンパ男達に見据える。
「あんた等、勘違いしてるぞ?」
『はぁ?何をだよ』
眉を顰めるナンパ男達に対し、皐は目を細めて何度も周囲に説明した事を小首を傾げて言ったのだった。
「こいつ、男っすよ」
『は?……はぁぁ!?』
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