第15話

 ゲームセンターからアクセサリーショップに、アクセサリーショップからやって来た場所はペットショップだった。様々な物を扱って売っているとはいえ、まさかペットショップまであるモールは少ないだろう。

 他にもゲームショップもあるし、服屋も多々存在する。スポーツ用品も充実しているから、多くの客が利用するのは納得だ。友人、家族、恋人、様々な者達なんて最高の顧客だろう。


 「えへへ~~♪ワンちゃ~ん、よしよし~♪」

 「……はぁ」

 

 小さな囲いの中で飼われている小型犬に対して、空はだらしない声を出しながらその小型犬を愛でている。姿形だけ見れば、明らかに女子生徒に見える。だがしかし、その中身は男子生徒だという事を知っている。

 だがそれを知らない者からすれば、ただ可愛らしい女子生徒が可愛いペットを愛でているようにしか見えないだろう。まぁ、見た目だけの話だが……。


 「あまり触り過ぎるなよ、買わなくちゃいけなくなるだろ。店員に迷惑だ」

 「えぇ~?こんなに可愛いのに触らない方が店員さんに迷惑掛かっちゃうよ。ねぇ、ワンちゃん♪」

 『キャンキャン』

 「あ~、よしよしよし~!可愛い可愛いねぇ、キミは可愛いねぇ~♪」

 「はぁ……前言撤回だ。迷惑なのは店員じゃねぇ、周りの人にだな」

 「あぁ~ワンちゃ~ん」


 俺がズルズルと襟を引っ張って引き離すと、両手を伸ばして小型犬を求めながらそう言った。他の客の視線がチクチクと刺さるが、俺は気にせずに空を引っ張ってペットショップから離れた。


 「もー、いきなり引っ張って何さー」

 「他の客に迷惑だ。あの犬を触りたい子供も居ただろ、見えてなかったのか?」

 「それは見えてなかったなぁ~。けどさっくん、犬に嫉妬したのかな~?俺だけにその愛を向けてくれぇ~って」

 「んな訳あるか、どれだけ自意識過剰なんだよ」

 「でもさっくんは、あたしが大好きだからなぁ~。照れない照れない♪」

 「その自信はどっから来るんだよ……お前」


 そう言いながら満面の笑みを浮かべる空に対し、俺は呆れながら前々から感じている疑問を投げる。だがそれに答える事はなく、空は再び片腕に抱き着いて来た。ここまでの道中、ずっと抱き着かれていた所為で慣れてしまった。

 引き剥がそうとすれば騒ぐので、周囲の視線が刺さってしまう。それは避けるべきだから、俺は空を引き剥がす事はもうしない。しないのだが……密着度が高過ぎて鬱陶しい。

 

 「っていうか、さっくん」

 「何だよ」

 「――普通にブレスレットを付けてるね。もしかして気に入った?」

 「うぐっ、少しだけだ。付けなかったら付けないで、文句言うだろ?お前」

 「言わないよ?ただただそのブレスレットを繋いでー、繋ぎまくって長くしてー天井から吊るしてネックレスにするだけだから」

 「満面の笑みで言う事じゃねぇよ」

 「だってせっかくあたしが買ったんだよ!?誰よりもさっくんを大事にしてるあたしが、さっくんの為にあたしが考えて選んだんだよ!?気に入ってくれなきゃこの世の終わりだよっ!」

 「そこまで大袈裟にする事でもねぇよ。つか、俺は友人に貰った物は全部残してるぞ。お前からのも限らず、来人や未来ちゃんから貰った物も残してる」

 「さっくんは捨てられない人だもんねぇ」

 「捨てようと思えば捨てられるぞ。思い入れに寄るし、必要ない物は捨てる」

 「そ、それじゃあたしのあげた物……全部捨てたってコト!?」

 「お前の自意識過剰はマイナス思考にも発動すんのかよ」


 面倒だ。面倒過ぎるから、俺は溜息混じりに歩き始めた。慌てた様子で抱き着いた空に対し、歩きながら言葉を続ける事にした。


 「――安心しろ。お前から貰った物は全部残ってる。言っただろ、友人に貰った物は全部残してるってな」 

 「えへへ、うん♪」

 「それよりも腹減ったな。どっかで飯にしようぜ」

 「あっ、それじゃ行きたい所あるんだぁ。そこで食べよ!」


 そう告げて俺達は、空腹感を満たしに向かうのだった。

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