第14話

 アクセサリーショップの前で待つ事数分、ようやく空は何かを選んで小包を持っていた。駆け寄って来る様子は男子だという事を忘れてしまう程、女子のような振る舞いで戸惑ったが平静を装う。

 いちいちドキッとしてられるか。大体、こいつは男だ。俺と同じオスだ。ドキッとする事自体が、そもそもオカシイ話だろう。そんな事を考えていると、空は「はい!」と言って俺に小包を渡して来た。


 「?……何だよ」

 「何って、ずっとさっくんの奴選んでたんだから分かるでしょ。今日のお礼だよ、あたしとデートに行ってくれてありがと♪っていうお礼。黙って感謝して受け取るがよろし」

 「はぁ、喋り方ウザいぞ……開ければ良いのか?」

 「開けるがよろし」

 「はいはい」

 

 空はフンスと鼻を鳴らしながら、ドヤ顔を浮かべて俺に開けるよう促す。アクセサリーなんて付ける機会というか、付ける習慣がそもそも俺には無いんだよな。

 だからいきなりこういうのを貰っても、付ける習慣が無いなら貰う意味も渡す意味も無いんじゃないのかと思えてしまう。


 「ブレスレットか?これ」

 「そう!黒と青だから、さっくんが付けても格好良いから大丈夫だと思って。どうかな?……かな?」

 「その語尾は止めろ。何処かの竜騎士さんのファンに殺される可能性がある。でも……これは俺も気に入った。うん、意外に悪くないもんだな、これは」


 開けてブレスレットを取り出した俺。出て来たブレスレットが派手ではなく、黒い数珠と青い数珠が交互に並んでいるシンプルな作りのアクセサリーだった。

 俺もチラッと見た時に目に入った物でもあり、男子が付けたとしても気恥ずかしさは全くないと言っても過言ではない物だろうと思う。しかし、そんな感想をしつつ、ブレスレットに視線を落としている中でやけに空が静かなのに気が付いた。


 「……」

 「どうした?急に黙って」

 「ん!?あぁ、えっと、うん……悪くないなら良かったよ!うん!」

 「??」

 「いやー、ええっと……あはは(素直に喜ばれた事にビックリし過ぎて、思考が停止してましたぁ!なんて言えないや。こ、ここは一つ誤魔化して!)」


 何やらモゾモゾとし始めた空は、自分の手元にあった小包から何かを取り出した。自分用に何かを買っていたのだろうか、今更俺のを合わせて小包が三つある事に気が付いた。


 「じゃーん♪これがあたしのブレスレットなのだ~♪」

 「ほぼ俺のと変わらないじゃねぇか」

 「シンプルな部分しか一緒じゃないよー?でもほら、あたしのは白と赤なんだよー。ちょうどさっくんの逆みたいで良くない?良いでしょー♪」

 「お前自身が気に入ってるなら文句は無いけど、良いのか?そういう理由で選んでさ」

 「良いの!あたしはこれが良いんだよ♪」


 空はそう言って、満足気な笑みを浮かべている。その表情は嬉々としており、手首に通したブレスレットを撫でている。

 

 「えへへ……げへへ、にへぇ~♪」

 「……」

 「さっくんとお揃い……お揃い、げへへ、ぐへへぇ~」

 「気色悪くなってるぞ。公共の場では控えろよー、そういうの」

 「公共の場以外だったら良いって……コト!?」

 「どっちも駄目だ。気色悪いから、他人の目に見せるなって言ってるんだよ」

 「ええ~、またまたぁ~、本当は自分以外に見せたくないんじゃないの~?征服欲を満たしたいんじゃないの~?俺だけの空って」

 「んな事誰が言うか。勝手な妄想すんなよ」

 「あー、もうさっくんは照れ屋さんだなぁ~♪」

 「違うわ。さっさと次行くぞ。行きたい場所選べよー」

 「はぁ~い♪」


 そう明るく返事を出した空は、自然と俺の片腕に再び抱き着くのだった。


 「歩きにくい」

 「我慢我慢♪」

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