第13話

 空から誘われて始まったデートから一時間程が経っただろうか。今、俺達はショッピングモールに訪れていた。ゲームセンターで対戦ゲームをしたり、相性占いをしたり……しっかり楽しんだ上で次の場所にやって来ていた。

 ウィンドウショッピングなんてしないのだが、空は女子グループにも誘われる事がるらしく、非常に慣れている様子だ。同じ男子であるにもかかわらず、あの見た目だから女子に混ざっても違和感が無いのだろう。


 「むぅ……?」

 「何見てるんだ?」

 「アクセだよ」

 「女子陣にか?殊勝なこって」

 「え?何言ってるの?さっくんに似合うの探してるんだよ」

 「は、俺の?」

 「そーだよー。さっくん見た目良いのに、アクセとかで女子ウケ狙わないんだもん。勿体無いよ」

 「洒落た格好は嫌いじゃないが、興味が無いんだから仕方無いだろ?」

 「だから勿体無いのー。うーむ……」


 そう言って俺に詰め寄った空は、頭から首元、胸から手、手から足まで舐めるように視線を動かす。気持ち悪い視線を受けた為に逃げようとしたのだが、動かないでと言われてガシリと固定されてしまう。

 こういう時だけ、こいつは何かしらの力が発揮される。いつもの事だが……固定されるのは辛いものがある。通り過ぎる他の客から、生温かい視線を向けられて背中が痒くなる。


 『見てあの子、必死になって選んでる』

 『一緒に居る子は彼氏さんかな?可愛い、一生懸命になってる』 

 『本当に好きじゃなきゃ、あんなに真剣にならないわね。初々しいし青春ね』


 隣に文具屋がある癖して、アクセサリーショップに来ている客は女性客が多いようだ。同じ高校の女子も居るっぽいが、空が男子だと知らなければ彼氏彼女だと見られる事は今までも何度もあった。

 あったのだが……この注目される状態は流石に堪える。


 「ま、まだか空。あとどれくらい待ってれば良い?」

 「うーん、あともうちょっと……もうすぐで決まりそう」

 「そ、そうか……出来れば早くしてくれると助かるんだが」

 「んー」


 集中しているのか、空の返事が生返事に変わった。これはしばらく拘束されるだろうと、この場は諦めるしかないのだと悟ってしまった。俺はお遊戯会の木の役のように徹するしかない。または空気がベストだな。


 「(俺は木、木、木、木……空気空気空気空気)」


 俺は無心になり、その場を乗り越える事にしたのである。


 「(えへへ、さっくん良い匂いだなぁ♪)」

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