第11話

 手を繋いで制服のまま、放課後に何処かへ遊びに行く。高校生であれば、少なからず経験するであろうシチュエーション。そんな微かに憧れた事のあるシチュエーションは、腐れ縁であり、正体は男である相手となってしまった。

 しかも、普通の男ではなく……女装男子、男の娘と呼ばれる存在である。


 「えへへ~♪」


 手を繋いだ相手は、見た目は可愛らしい女の子。だが、中身は男だ。男なのだが、周囲からはそう見えていないのだろう。中身を知らない者からすれば、見た目が可愛いから目映りしてしまう。

 視線が誘導される、というのだろうか。擦れ違う誰もが、俺の隣に居る空に視線が向けられている。まぁ、色んな意味で目立っているから当然だ。手を繋ぐ空は、楽しげに笑みを浮かべながら手を振っているのも原因だろう。


 「そんなに楽しいか?まだ何もしてねぇぞ」

 「楽しいよー?さっくんと一緒だし」

 「はいはい。物好きだよな、お前。俺の何処が良いんだか……」

 「うーん、全部?」


 首を傾げながら、空はそんな事を言った。


 「全部ってやっすい答えだな。都合の良い答えだよなぁ、全部ってさ」

 「別に悪い事じゃないでしょ?嫌いなトコロは無いって言ってるんだよ?」

 「んな事は有り得ないだろ。人間好きでも、嫌いな所は必ずあるもんだろ?」

 「そうかなぁ……」


 小首を傾げ始めた空は、眉を寄せて難しい表情を浮かべている。思考を働かせているのだろうが、本当に出て来ないのだろう。すぐに困った笑みを浮かべつつ、誤魔化すようにして言った。


 「あはは、ちょっと分からないや。それよりもほら、目的地に到着したよ。じゃーん!!ゲームセンターーーー♪」

 「まぁここぐらいだろうな。場所ってのは」

 「さっくん、人とのデートを暇潰しは良くないんじゃないかな?」

 「はいはい、悪い悪い。悪かったから気安く腕を組むな」

 「イヤでーす、離しませーん♪」


 そう言われつつも引き剥がそうとするが、中身が男なのは伊達じゃない。全くビクともせず、俺は片腕を犠牲にしてゲームセンターの中へと足を運んだ。

 

 「さっくんさっくん、あれやろうあれ!」

 「エアホッケーか、良いぞ。手加減はしねぇぞ?」

 「えぇ、優しくしてよ」

 

 互いに脇の投入口からコインを入れ、エアホッケーが始まった。最初は一枚なのだが、徐々に制限時間が終わりに近付くと枚数が増える。わたわたとしている空を放置し、俺は的確にゴールに入れて行く。


 「あっ、さ、さっくんのがあたしの穴に……ああっ、だめっ、そんなっ……――しくしく、優しくしてって……言ったのに」

 「誤解を招く事ばかり言うからだアホ」

 「ちぇー、ノリが悪いなぁさっくんは」

 「お前の発言が周囲から誤解を生むからな。さっさと場所を移動したいのが本音だ」

 「そんなに二人きりになりたいなら良いよ。初めては人目のないとこで、痛ったぁ!?」

 「いい加減にしねぇと殴るぞ」

 「もう殴ってるよぉ」


 嘘は言ってない。しかし、いつものノリで殴っちまったな。これはあくまで機嫌取りで、空の我儘に付き合っているだけ。だが機嫌を取るという事は、空の言う事を肯定しなくてはならない訳だ。


 「(はぁ、めんどくせーな)……ほら、馬鹿やってないで行くぞ」

 「はーい」


 すぐに笑みを浮かべた空は、再び俺の片腕を強く抱き締めた。白い歯を見せて笑うその仕草は、確かに普通の女の子のように可愛らしかったが……俺はそれを言わずに足を運ぶのである。

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