第7話

 屋上へ辿り着いた俺と空を迎えたのは、既にレジャーシートの上に弁当箱が広げられていた。パックジュースのストローを挿す来人は、屋上に来た俺達に気付いて大きく手を振る。


 「おーい、こっちだ!」

 「屋上、だいぶ人が居るな」

 「ほとんど男女別のグループだけどな。オレ達だけだぜ?男女混合なのは」

 「女子は未来ちゃんだけだろ。こいつは混ぜるな」


 俺は隣で小首を傾げる空を指差したのだが、言っている意味が分からないと言いたいのだろう。空は俺の手を取って、伸ばされた人差し指を咥え出した。


 「あーむ」

 「っ!?」

 「あむあむ……れろれろ、ぺろ」

 「気色悪い!!!何しやがんだテメェ!!」


 寒気を感じた瞬間、俺は自分の手を無理矢理に引き剥がした。ニコリと笑みを浮かべる空は、ぺろりと唇に付いた唾液を舐め取りながら満足気に見える。

 

 「いきなり何しやがんだよ!あーあー、ヨダレまみれじゃねぇか!」

 「ぺろり……ん?舐めて欲しかったんじゃないの?」

 「んなわけねーだろ、クソがっ!!」

 「照れない照れない!!もー、さっくんはツンデレなんだからー♪」

 「お前いつか殺す!!」


 ハンカチでヨダレまみれとなった指を拭きながら、俺は空にそう言いながらレジャーシートの上に移動した。弁当箱は重箱になっているらしく、おにぎりが一段目、二段目に野菜や肉のおかずが揃っており、三段目に色鮮やかなサンドイッチが並んでいた。

 

 「お兄さんの箸はこちらをどうぞ」

 「あぁ、ありがとう未来ちゃん」

 「空先輩はこっちです」


 未来ちゃんは面倒そうに箸を手渡したが、それは木製は木製でも使い捨ての割り箸だった。それを受け取った空は、物悲しそうな表情を浮かべながら苦笑する。


 「何であたしだけ割り箸?ミクミク、あたしもさっくんとお揃いが良いなぁ」

 「何で空先輩の為に家から箸を持ってこなくちゃいけないんですか。割り箸で十分です。嫌なら食べなくて結構ですよ♪」


 そう告げた未来ちゃんの表情は、ぱぁっと輝かしい笑みが浮かんでいる。だがしかし、俺と来人には見えていたのである。未来ちゃんの後ろから覗き込む般若の面が……。

 自分も何故割り箸なのかと言いたがっていたが、未来ちゃんの圧力に押し負けた来人は小さい声で「いただきます」と言って食べ始める。

 そんな来人の放って置いて、俺は頬を膨らませている空に告げた。


 「せっかく未来ちゃんが作ってくれたんだから、さっさと黙って食えよ空」

 「だってミクミクがぁー」

 「うるせぇ。さっさと食え、昼休みが短くなるぞ」

 「……はい」


 しょんぼりと落ち込みつつも、レジャーシートの上に座る空。弁当箱に手を伸ばして、サンドイッチを手に取る。拗ねているのか、大きく一口で半分以上を食した。

 ここで大人しくするような空じゃない。そう知っているからこそ、落ち込んでいる様子は無視。そうでなければ、調子に乗り続ける事をこの場に居る全員が理解している。


 「もぐもぐもぐ……ん~~~~~っ、美味しいよミクミク!!」

 「いきなりテンションを戻さないで下さいよっ」

 「んん、はむはむはむ、美味しいよぉ~♪ミクミク~♪」

 「く、くっつかないで下さいよ空先輩」


 ちょっとした事でいつもの空に戻る。それが、俺達の知っている蕪木空なのだ。

 

 「さっくん、あーん♪」 

 「食べかけだろうが、自分で食え!」

 「あでっ……チョップは良くないよ。――にしし♪」

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