第5話
午前中の授業は数学と古典と世界史、そして体育のようだ。ある程度の成績を取っているつもりだが、やはり授業というものは退屈に思えてしまう。やりたい事や夢に必要な教科や分野であれば、こうして学んでいる事がタメになったりするのだろう。
だがしかし、生憎と俺は夢は愚か、目標にしているモノが未だにない。何かを目指した事も明確な物は何一つなく、平凡なレールの上をただ歩くだけの人生だ。まだ平均寿命の半分も生きていないのだが、未だに未来を見出す事が出来ない状態である。
『パスパース!!こっちフリーだ!』
『あいよー!しっかり取れよチビー!』
『誰がチビだてめぇー!!』
体育の授業の最中だというのに、俺はそんな事を考える余裕があるらしい。クラスメイトがボールを回しているのだが、こちら側に来る気配が一切無いからだ。
ちなみに競技は、サッカーである。
「……暇だな」
「なら上がっちゃえば?さっくんって経験者でしょ?一応」
「一通りの球技はなぁ。けど、最近はインドア生活だし、あれに混ざっても高が知れてるだろ」
言った通り、一通りの球技の経験はある。だが、それに力を入れて生活している奴の相手は務まらないだろう。経験者と言っても、ただ成り行きでやる事が多かっただけだ。
スポーツは別に嫌いじゃないのだが、それでも周りが熱を入れるのを見てると急に冷めてしまったのだ。やる気はあったし、楽しくもあった。だけど、一生懸命になればなる程に考えちまうのだろう。
俺は一体、何をしているんだろう?と。
「あ、さっくん……ボール来るよ」
「はぁ、めんどくさ。さっきまでハーフコートに居たじゃん」
俺はそう言いながら、渋々と攻めて来るクラスメイト達を見据える。何処を狙ってくるのか、警戒しながらゴール全体とボールへ意識を集中させる。いつの間にか隣から姿を消している事にも気付かず、俺は目の前の事に集中し続けていた。
『おらぁ、覚悟しろ新城!!』
「何で名指し」
『俺はクラスの非リア充代表として、お前をぶっ倒す!!』
「付き合ってる奴が居ないって点じゃ、俺もお前等と一緒のはずだが?」
『うるせぇ!!毎日毎日、あの天使と一緒に居やがって!!たまには変われ!!っていうか今すぐに変われ!!死ねっ!!』
「あいつは男だって知ってるだろうが。つか、最後のが本音だろテメェ!」
◇
『良いの?あれ放置して』
「うん、大丈夫だよ。さっくんは負けないから」
『えぇ?思い切り数で負けてるけど。つか、もうサッカー関係ないじゃんあれ』
ゴール付近で皐月と会話していたはずの空は、サボって見学に来ていた女子の中に混ざっていた。参加せずに観戦している空に対して、クラスメイト達が空に問い掛ける。
『あれはもうサッカーじゃなくて、ただのボール使った喧嘩じゃね?』
『うわー、新城くん一人にほぼ全員じゃん。ホントに大丈夫なん?あれ』
「大丈夫だってば。知ってる?さっくんって、喧嘩も結構強いんだよ♪」
空がそう言った瞬間、数で勝っていたはずの男子が皐月に負けていた。それを見て女子達は感心しつつ、戸惑いつつ、驚いた様子で眺めている。そんな女子達の信じられないという表情を横目に、空はニコリと笑みを浮かべてハッキリと告げた。
「さっくんは負けないよ。あたしとの約束があるからね」
『え?約束?何それ』
『え、なになに?何か新城と約束してんの?』
そんな問いに対して、笑みを浮かべたまま空は指を立てた。その表情は異性であると女子達が忘れる程、可愛らしく小悪魔な雰囲気に包まれていたのである。
「くふふ……――ナ・イ・ショ♪」
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