第4話
「おっはよー♪」
「うぃーす」
教室の扉を開くと同時に空は、元気良く片手を上げて笑みを浮かべる。その挨拶を返すクラスメイト(女子)の輪の中に入り、すぐにドラマやらファッションの話に花を咲かせ始めた。
俺はその様子を見ながら、自分の椅子へと向かって机の上に鞄を置いた。
『おう新城、彼女連れとは隅に置けないねぇ』
『ほんとほんと、良いご身分だよなぁー。あんな可愛い彼女と幼馴染なんてさ』
「おいお前ら、あいつが男だって説明したはずだろ。まだ認めてねぇの?」
『いやいや、確かにあいつは男かもしれねぇ。だけどな新城、俺達は、あの可愛さに癒された。救われてるんだ。例え男だとしても、女子と触れ合っているような雰囲気を味わえるんだ。彼女が居ない俺達には、これ以上、望む物は無いだろう?』
その男子の発言に対し、クラスメイトの男子も一緒になって頷いている。そんな力強く頷いている男子共を他所にして、俺は頬杖をして女子と談笑する空に視線だけ向ける。
何が癒しなんだろうな。あいつは男で同性なのに、どうしてあそこまで自分に正直になれるんだろうか。どうして女子の格好をするのか聞いた事があったが、その時は「ただ可愛いから」って言ってたっけか。
でも、それにしたって貫き過ぎだろ。一体、何を目指してるんだって感じだ。
『それでさー、この服なんだけどさー、空っちはどう思う?』
「んー、あっちゃんには派手過ぎない?あっちゃんには、こっちの方が似合うと思うよ?せっかくスタイル良いんだしさ、こういう大人しめにすれば映えると思うんだけどなー。ほら、モデルみたいにさ」
『えー、そうかなー』
『ははは、言えてる。あっちん、スタイル良い癖にオシャレをただ派手にすれば良いとか思ってるんだもん。勿体無いよ?』
『えー、マジでー?』
「……ん?」
ずっと視線を向けてたからか、空は俺の視線に気付いたようだ。俺の視線に気付いた空は、すぐにニコリと笑みを浮かべて手を振り始めた。満面の笑みである。
『うごっ!』
『うっ!』
『はうっ!』
それを見ていたのか、空が男であっても癒しであると公言していた男子共。その男子共が一斉に声を上げ、机に突っ伏したり、上を向いたり、胸を押さえる仕草をし始めた。
『相変わらず仲良しだねー。
『顔は悪くないし、成績も悪くない。けど、変態男子の一部でもあるよねー』
「えー?さっくんは良い人だよ?っていうか、あげないからね!」
いや、お前の物みてぇに言うなよ。誰の物でもねぇだろ。つか、俺って女子からそんな風に思われてるの?明らかにこいつ等としか話してないから、不可抗力じゃね?
『いやいや、そもそも同級生で彼氏は無理っしょ。彼氏にするなら年上っしょ』
『あたしは年下かなー。あぁでも、同級生でも楽しければオッケーかなぁ』
『それは同感。年上も分からんでもないけど、まぁ定期的にデートとかしたいなら同級生が楽なんじゃね?予定とか考えやすいし』
『あー、一理あるー』
「あ、でもさ?これは先輩に聞いたんだけど、年上ってのも案外良くないみたいだよ?」
『え、マジ?そこんとこkwsk』
女子の恋愛トークが始まり、空もその話題に流れるように介入している。同じ男として、あそこまで違和感のない溶け込み方は恐れ入る。だがしかし、何度も言っておくが蕪木空は正真正銘――男である。
それなのに、どいつもこいつも、どうしてこんな受け入れてるのか。それは多分、空自身の人当たりの良さもあるし、話し安さや明るさが影響しているんだろうと思われる。
誰とでも隔てなく接する空は、男女平等という壁のない空間を作り出す。それが心地良く思う気持ちは分からなくはないけれど……
『あぁ、天使だ。やっぱり空ちゃんは俺達の天使だ』
『はぁ、はぁ、俺、今のだけで白米3杯はイケる』
『あぁ、空ちゃんは俺達のオアシスだ』
こいつ等はどうかしている。そう思わざるを得ないのであった。
◇
一方、来人は隣のクラスで項垂れていた。
「オレ、出番少ねぇな……とほほ」
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