第1話

 「登校登校、さっくんと登校♪」


 隣でウキウキな彼女(だが男だ)は、満面の笑みを浮かべて楽しそうにしている。それなりの長い付き合いになるが、毎度の事ながら何がそんなに楽しいのだろうか。

 呆れた溜息を吐きつつ、俺は隣でスキップをし始める空に問い掛ける。


 「何でそんなに元気なんだ?朝からかなりのテンションだったよな」

 「あたしはいつも元気だよ。けど、今日はいつもよりテンション高いかも。ふふふ~、何でだと思う~?」


 ニコリと悪戯な笑みを浮かべた空は、俺の顔を覗き込むようにしながら体を傾ける。ニヤニヤとしている様子を見る限り、どうやらどうしてテンションが高いのかを聞いて欲しいらしい。

 だが俺は、空とは長い付き合いだ。問い掛けた所で、俺の頭には空がなんて答えるのかが簡単に想像出来てしまう。どうせ、こう答えるに決まっている。


 『へへへ~、それはもうさっくんと一緒に居るからだよ♪』


 細かい部分を当てる事は出来ないが、それでもこんなニュアンスを答える事は容易に想像出来る。ただ無視したらしたで、へそを曲げて不機嫌になられるのも面倒なだけだ。

 ただ理由を聞くという方向になるのも、ただただ面倒で仕方がない。


 「はぁ……どうしてテンションが高いんだ?」

 「ふふふ~、それはぁ……――さっくんと一緒に居るから♪」

 「あー、さいですか」

 「えぇ、何だぁ。その反応はぁ~。反応が薄いぞぉ、さっくん」


 俺にどうしろと。面倒ながらも、ちゃんと理由を聞いたのに。他にどう反応したら正解なのか、それは空にしか分からないだろう。

 しかし、頬を膨らませているが、すぐにテンションを維持したまま歩き始めたので問題は無いだろう。引き続き歩こうとした所で、俺の肩が突然に重くなった。


 「おいおい、朝っぱらから可愛い子と登校してんじゃねぇかぁ皐月ぃ」

 「誰でしたっけー」


 気安く肩を組みつつ、空の事を知っていながら煽るような事を言う奴は一人しか居ない。幼馴染である空を含め、幼い頃からの友人はもう一人居るのだ。


 「ひでぇなぁ。オレとお前の仲だってのに」

 「あいつが男だって知ってる癖に、わざわざ煽ってくる奴の事は知らん」

 「良いのかぁ?そんな事言って。せっかくお前にプレゼントがあったのによ」


 憎たらしい程の笑みを浮かべるのは、もう一人の幼馴染の君塚きみづか来人らいとだ。

 まるで怪しい取引をするような笑みを浮かべつつ、鞄から取り出したのは一冊の本。その本を見た瞬間、俺の意識は覚醒した。


 「そ、それはっ……!」

 「ふっふっふ、流石は皐。これを一目で何か理解出来るとはな。だが、オレを他人として扱ったしなぁ。この本を渡す訳にはいかねぇなぁ」


 ニヤつく来人は本をパタパタと仰ぎ、俺を再び煽るような視線を向けて来た。その憎たらしい顔には微かに苛立ったが、俺は見せられている本の価値を優先する事にした。


 「――あぁ誰かと思えば、幼馴染で俺の親友。君塚来人くんじゃないか、おはよう」

 「すげぇ変わりようだな、お前。まぁ良い」

 「そして早くその写真集を寄越せ」


 俺はそう言いながら、来人から無理矢理に本を奪おうとする。軽い取っ組み合いをしようとした瞬間、来人の手元にあった本が消えた。


 「何をしてるのかなぁ?ライライ」

 「お、おい空さん?その本は大変貴重な本でな?それなりに値が張る写真集で」

 「ん~♪何か文句があるのかなぁ?」

 「い、いえ無いです」

 「さっくんにはあたしが居るんだから、こういうのは必要無いの。次渡そうとしたら、これ……燃やすからね?」


 ニコリとドス黒いオーラが見えるような笑みが、得体の知れない圧力を来人に向けられる。たじろいでいる来人はともかく、俺は口には出さないが脳内で空の発言にツッコミを入れていたのである。


 ――お前、男じゃん。

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