男の娘は今日も健全です!

三城 谷

プロローグ

 「はぁ、はぁ、はぁ」


 朝の日差しが差し込み、カーテンの隙間から微かな眩しさに包まれる。まだ起きたくないと思いつつ、寝返りを打ってその光から逃げようとする。

 だが寝返りを打った瞬間、扉の向こう側から勢いのある足音が聞こえて来た。


 「さっくん!起きてぇ!朝だぞ登校だぞ!」

 「っ、んん~……」


 ドスンと腹部に体重が乗り、微かな痛みを感じつつ目を開ける。するとそこには、朱色の髪と瞳が、寝ているこちらを覗き込む人物が居た。

 ぴょこぴょことアホ毛を左右に揺らし、ニコニコと満面の笑みを浮かべている。


 「あ、さっくん、起きた?」

 「んん……何だよ朝っぱらから」

 「だって新学期だよ?それに一緒に登校するって約束したじゃん♪」

 「あともう少し寝かせてくれ」

 「じゃあ、あたしも一緒に寝ようかなぁ。さっくん、添い寝しよ」

 「耳元で囁くな。起きるから。あ、布団に入ってくるな」

 

 ――数分後。


 リビングでテレビを眺めながら、目の前にニコニコと居座っている人物へ視線を向ける。


 「何でそんなテンション高いんだよ」

 「だって一緒に登校出来るんだよ?さっくんは、あたしと登校したいでしょ」

 「別に」

 「即答!?あたしとは遊びだったの!?」

 「いや、ただの腐れ縁だろ」


 冷たい態度をされた事が不満なのだろう。不貞腐れたように頬を膨らませ、ご不満というのが一目瞭然な表情を浮かべている。


 「何だよ、その目は」

 「冷たい!冷たいよさっくんっ!あたしはそんな子に育てた覚えはないよっ!」

 「育てられた覚えはねぇよ」


 呆れつつも、これ以上の口論は面倒だし、時間の無駄でしかないだろう。

 そう思った瞬間、早々に学園へ向かう事にした俺は――新城しんじょうさつき。慌てた様子でその後ろから着いて来るのは、幼馴染である蕪木かぶらぎそら

 朝から幼馴染であると登校する様子は、何も知らない者からすれば仲睦まじい光景だろう。だがしかし、彼女は彼女であって正確には彼女ではない。

 見た目は女の子よりも女の子らしいのだが、蕪木空という人物は――男である。

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