【超短編】好意に気づけぬ僕と、好意を言い出せない君

波瀾 紡

一話完結短編

 僕が中学三年生の頃。近所に住む同級生の女の子と、よく顔を合わせることがあった。僕が日常生活でよく通る道沿いにその子の家があるので、その近くでたまたま彼女に会うのだ。


 ニコニコと明るくて、少し色黒でショートカットが可愛い小柄な女の子。

 僕はその子と立ち話をするのがとても楽しみだった。

 楽しくて楽しくて。気がつくと30分、1時間立ち話をしていることも度々あった。

 しかもラッキーなことに、しょっちゅうその子の姿を見かけたから、何度も話をする機会があった。


 いつの頃からか、僕はその子に恋をしていた。ある意味必然とも言えるかもしれない。僕はその子に告白をしようかどうか、何度も何度も迷った。

 いつもニコニコと会話に付き合ってくれるのだ。少なくとも僕を嫌いではないはず。だけど彼女は割と淡々と僕と接していた。だから僕を異性として好きだなんてことは、全然自信を持てなかった。


 もし万が一告白して失敗したら、今のこの素晴らしく楽しい日常は砂のように崩れ去ってしまう。

 それがとても怖かった。

 だから僕は、ついつい「彼女が僕を好きだなんて可能性は低い」と自分に言い聞かせて、告白することをやめてしまった。


 僕のことをチキンだと呼びたいならば呼ぶがいい。

 だけど中学生男子にとって、告白ってイベントがいかにハードルが高いか。

 それに共感してくれる人も数多くいると僕は信じたい。


 結局僕は、その後も彼女に告白することはなく中学を卒業した。

 それからはお互いに生活スタイルが変わったせいか、ほとんど顔を合わせることもなくなった。



 そして時は流れた──


 大学も卒業し、社会人になったある日。

 中学校の学年全体の同窓会が開かれた。

 宴会場で乾杯が終わると、僕は自然とその子の姿を探した。


 ──あ、いた。


 僕は自分からその子に近づき、声をかける。


「久しぶりやね!」

「あ、ホント。久しぶり」

「川田は俺のこと覚えてる? よく家の近所で立ち話をしてたよね」


 彼女の名前は川田かわた あや

 中学の時に親しく話した関係ではあるけど、下の名前で呼ぶなんて照れくさ過ぎてできなかった。ずっと名字呼び。向こうの方も、僕の名字にクンづけだった。


「うん、もちろん覚えてるよ」


 そっか。覚えてくれてたんだ。

 あの頃、まだ若すぎて言葉にできなかったことを、今ならすんなりと口にできる気がした。


「あのさ、川田。俺、あの頃、川田のことが好きやったんよ」

「うん、わかってた」


 わかってた?

 そうなんだ。

 気づかれてたのか。

 今さらながらに恥ずかしい。


「川田は俺のこと、どう思ってたん?」

「嫌いなら、あんなに長時間おしゃべりに付き合わないよね」


 う~ん、微妙な返答。

 これはもう少し踏み込んでみないとわからない。


「もしも俺があの時、付き合って欲しいって言ったら付き合ってくれた?」


 彼女は俺の顔を、優しい笑みをたたえて眺めている。

 そしてひとこと──


「うん」


 彼女は少し恥ずかしそうにコクリとうなずいた。


「ええ~っ? じゃあなんで川田から好きって言ってくれなかったん?」

「だって恥ずかしかったもん」


 そりゃそっか。

 自分も恥ずかしくて言い出せなかったのに、女の子の方から言ってくれるのを期待するなんて、僕はなにバカなことを言っているのか。


 やっぱあの時、ちゃんと自分から告ればよかった。

 それに尽きる。


 後悔が胸の奥に渦巻いたものの、もう時は戻らない。

 今はお互いにそれぞれの生活がある。

 今から改めて付き合うという選択肢は僕らにはなかった。


 それからひとしきり彼女と取りとめのない話をした。

 彼女と言葉を交わすことで、時を経てあの頃の甘酸っぱい感覚が少し戻った。だけど僕も彼女も、それに惑わされることはない。

 しばらく話をした後、他の同窓生とも話をしなきゃということで、僕は他の席に行くことにした。


「じゃあ、またな川田」

「うん。またね波瀾はらんクン」


 僕は長年心の奥に引っかかっていたものが取れて、思いのほかすっきりした気分で彼女の元を離れた。






 ──あ、はい。

 これ、僕の実話です。名前以外はノンフィクション。

 つまり何が言いたいかというと……


 一つは、ラブコメによく出てくる鈍感主人公について。

 僕自身の経験でもそうですが、自分への好意なんて、よっぽど自分に自信がある人以外は、「もしや」と思っても否定しちゃうんですよねぇ。万が一、違ってた時が怖いから。


 だから僕は鈍感主人公に共感できるのですが、そういう主人公を「お前はおかしい」と非難する読者さんが稀にいらっしゃるんですよね。

 だけど鈍感主人公クンがかわいそうなので、非難するのはやめてあげてください(´;ω;`)ウゥゥ


 これが言いたいことの一つ目です(笑)


 そしてもう一つ。


 現役中高生の皆さん!

 時は戻りませんよ!

 どんどん告りましょう!


 まあ、そういうことです。


 = おわり =

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