第8話 トイレットペーパー

 普通に生活している場合じゃない。


 でも、私は普通に生活をしてしまっていた。


 ウイルスに終わりはないけど、私にはタイムリミットがある。


 お姉ちゃんが感染するのは2021年の6月。


 それまでに何かしらの答えを出し、行動にうつさないといけないのに。


 ——こんな風に、トイレで貧乏ゆすりをしている場合じゃないのに。


 イライラが溜まり、脇の紙を思い切り引っ張ってやろうとして、頭をよぎった。


 確か2020年の3月くらいだったかな。トイレットペーパーが品薄になる事件があった。


 どうも日本人は不安になるとトイレットペーパーを買い占める習性があるらしい。


 だったら無駄遣いしちゃいけないよね……。


 私は必要最低限の紙を取って用を済ませた。


 こんなことでお姉ちゃんの運命はきっと変わらない。


 でも、それは私がすべきことのような気がしたのだ。


 

 私はただの小学生。こんなにもできることが少ない。


 未来の2021年には国の対応を批判する人たちが大勢いたけど。


 その人たちは、自分が力を持てば。未来を知っていたら、何かを変えられる人たちなんだろうか。


 だとしたら代わって欲しい。


 ネットニュースのコメント欄に書き込みをするその時間で、お姉ちゃんを助けて欲しい。


 私はトイレットペーパーを節約してるだけのくせに、人のことなんて言えないけれど。


 誰でもいい。なんでもいい。


 お姉ちゃんに死んでほしくない。


 そう思ってる。


 思うだけじゃ何も変わりはしないのに。

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