ハベルタ攻略開始

 二日ほどの馬車旅をしてオークを倒しにやって来た街ハベルタ。


 オークに完全制圧をされて街から人の姿が消えてから長い時が経ち、オークが新たな国を作り上げていた。


 今回の依頼は街からオークが溢れ出ない程度の間引きだったが、俺たちの目的は違う。


 完全制圧、つまりオークの皆殺しだ。


 たった6人でオークの国に殴り込みを掛ける。


 そんな無茶なことをしようとしていた。


 拠点となるキャンプを街壁の外に設営する。


 ここから街の中に遠征しオークを狩るかと思ったら全然違った。


 街の外から狩るという。


「ここから狩るんだ」


「オークで溢れかえる街の中に入ると6人じゃ囲まれたら終わりだからね」


「まあ、準備もしっかりしてきたし見てなって」


 狩人のマルクさんとエリンさんは荷馬車の幌を取り去る。


 今回は特別な準備が必要ということでマルクさんが用意した荷馬車4台だ。


 普段使ってる弓とは全く違う巨大な固定弓が現れた。


 通称『バリスタ』と呼ばれる石弓の攻城兵器だ。


 その数12台。


 まるで戦争を始める勢いである。


「まるで戦争? 違う、俺たちにとったらこれは戦争なんだよ!」


「敗戦のリベンジなの! 敵討ちなのよ!」


「これで奴らのコロニーをぶっ潰す!」


 息巻くマルクさんとエリンさんが石弓の微調整をする。


「この辺りかな?」


「もうちょっと右じゃない?」


「じゃあ、この辺りだな。行くぞ」


「おっけ、いくよ」


 凄まじい音を立てて石弓の弦が弾かれる。


 空に向かって、無数の電信柱サイズの矢が放たれた。


 すると爆発音がして、街の中から煙が上がり始める。


 どうやらあの矢の中には爆薬が仕掛けてあるらしい。


 まるで現代兵器の迫撃砲だ。


「コロニー4つを完全にぶっ潰したわ!」


「食糧庫もぶっ潰したから滅茶苦茶怒ってそうだな」


 どうやら狩人のスキルで、爆撃地点の様子が見えるらしい。


 まずまずの戦果に二人は満足気だ。


「住宅街も襲うなんて、マルスも鬼畜ね」


「なに言ってるんだよ。どうせ全員逃がすつもりはないんだし順番の違いだけだろ」


「そうね、わたしたちの村と仲間を奪った恨みは許さない!」


 二人は次々に矢をつがえ、砲撃しまくった。


 アレスさんが皆に忠告する。


「そろそろ、ここの位置がバレて大軍が襲ってくるから気を抜くな」


 俺も加勢だ。


 キャンプ地の周りの土をアイテムボックスに取り込み即席の堀を作る。


 その幅20メートル深さ100メートル。


 どうやっても乗り超えられない深さの掘である。


 しかも向こう岸から直接矢を射られないように堀のすぐ横に土を積み上げて防御壁も作り上げた。


 それを見てアレスさんが感心した。


「首都の城壁レベルの守りを一瞬で構築するなんて、タナオカさんは本当にすごいな」


 2000匹ぐらいのオークが襲ってきたが、一匹たりとも堀を超える者はいなかった。


 オークたちは掘りに落ちて死んだ仲間を見て棒立ちだ。


 そこをマルクさんとエリンさんの矢が城壁の射窓から襲い狙撃する。


 俺も小石を投げまくって加勢だ!


 あっという間にオークたちは数を減らした。


 残り50匹!


 矢では倒せない屈強なハイオークたち。


 堀に橋を掛けると、アレスさんとニケさんが襲い掛かり殲滅だ。


 たった20分程度で2000匹のオークを始末してしまった。


 俺は感心する。


「滅茶苦茶強いんですね」


「ありがとう。でも、この辺りは昔の俺達でも倒せた雑魚中の雑魚しか居ないからな。昔は浮かれまくって側近のいる中央塔に殴り込んでいったが、同じ間違いはしない」


 マルクさんとエリンさんはバリスタを使い、虱潰しにコロニーを襲った。


 この勢いだと、今日中に殲滅出来るんじゃないだろうか?


 マルクさんが謙虚な態度で現状分析をする。


「そんなわけはない。この作戦が通用するのは外周部の住居区のコロニーを潰す程度だ。側近が牛耳る中央塔には結界が張られていて傷一ついていない」


 さすがにオークもバカじゃないので第二波以降は弓による遠隔攻撃に切り替えたが、弧を描いて空を飛んでくる矢は全て俺のアイテムボックスの中だ。


 俺たちは日が落ちる前に中央塔以外のコロニーを全て殲滅したのだった。


 *


「雑魚は俺たちがすべて倒した。後はアレスとニケ、セレナそしてタナオカさんに任せるぜ!」


 マルクさんは全てをやり切った顔をして地面にへたり込む。


 あれだけ動き回って雑魚をたった二人で殲滅したんだから疲れ果てて当然だ。


 同じく疲れているはずのエリンさんが膝枕をしてあげている。


 仲が良くて羨ましいぐらい。


 戦闘のリーダーを渡されたアレスさんはしっかりと受け取った。


「おう! ここからは俺たちに任せろって。多分主力以外もまだ残っていて襲ってくると思うからエリンとマルクは俺たちのサポートに回ってくれ」


「了解」


 眠り込んだマルクさんを起こさないようにエリンさんが小声で答えた。


 *


 日が落ちて辺りが本格的に暗くなり始めた。


 オークたちはまだ中央塔で作戦を練っているんだろうか?


 範囲哨戒の魔道具には今だ反応がない。


 夕飯は俺が屋台で買ってきた串焼きを皆で頬張る。


「アイテムボックスから取り出したのか。調理もしないで熱々の料理が食えるなんて最高だな!」


 アレスさんは大喜びだ。


 マルクさんも続く。


「こいつはうめー! 最高だぜ! いつもはミートパテの缶詰かエリンとセレナの作ったエサだもんな」


「なによ、エサって!」


 怒るエリンさんに警告するセレナさん。


「女性陣に喧嘩売ったら後がどうなっても知らないわよ」


「あはは、ごめんごめん」


 ワザとらしくキスをするアレスさん。


 とっても微笑ましいというか、熱くて見てられない。


 ニケさんが俺の裾を掴んで目を瞑った。


 これってニケさんも求めてきてるの?


「はやく! ニケ待ちくたびれて倒れちゃう」


 じゃあ、早速……。


 唇を重ねるといつもの様に甘い香りがする。


「タナオカさんとこうして触れ合ってると疲れが身体から飛んでいくよ」


「俺も……」


 こうして過ごすニケさんとの癒しタイムは戦場でも必要である。


 みんなの視線がこちらを向いているのに気が付いた。


「なっ!」


 マルクさんとアレスさんが笑っている。


「いいもの見せて貰ったぜ」


「あの小さかったニケが女の顔をしてるんだもんな」


「本当にタナオカさんは女たらしだぜ」


 恥ずかしさから目を逸らした先にあった範囲哨戒の魔道具を見ると、赤い点がいくつも瞬いては消えている。


 あれ?


 壊れてる?


「今範囲哨戒の魔道具が点滅していたんですけど、故障でしょうか?」


 それを聞いたアレスさんの顔が真顔になった。


「ちょっと見せてくれ」


 俺たちは範囲哨戒の魔道具の前に集まる。


 するとアレスさんの顔が青ざめた。


「この点滅は故障じゃない。姿を隠した敵だ!」


「まずい! 完全に敵に囲まれているぞ!」


「嘘だろ?」


 俺たちに戦慄が走った。

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