刺客再び

 ニケさんの他にアイラちゃん迄嫁にした俺。


 アイラちゃんには屋敷に住めと言われたけど、庶民の俺が屋敷に住むのはちょっと堅苦しいので今まで通りの小さな我が家に住み続けたんだがメイドのマリエッタさんにキレられた。


「なぜアイラ様と結婚したのに屋敷に住まないのだ!」


 メイドのマリエッタさんはかなりご立腹。


「結婚したのにアイラ様を一人で放置などと! お嬢様は寂しさで毎晩泣いておられるのを知っているのか!」


 交渉の末、ニケさんも同居できるならとの条件を勝ち取り屋敷に引っ越すことになった。


 さすがに大勢の使用人の目があると今までみたいにニケさんと二人だけでイチャイチャしまくるわけにもいかない。


 仕方ないので、ニケさんとアイラちゃんも同じ部屋で一緒に過ごしていたらいつの間にか2人は俺が嫉妬したくなるほどに仲良くなっていた。


 マリエッタさんにからかわれる俺。


「お嬢様はもうタナオカ様を必要としてないそうですよ」


「嘘だろ?」


 死んだ魚のような目をして呆然とする俺をマリエッタさんが笑う。


「嘘ですよ。お嬢様はタナオカ様とさらに親しくなるために積極的にニケ様とも仲良くなろうとしているのです」


「そうだったのか」


「お嬢様に飽きられて相手にされなくなってもわたしが遊んであげますので安心してください」


「あ、ありがとう」


 俺は涙目になってマリエッタさんを思わず抱きしめたマリエッタさんは動揺するものの嫌がってはいなかった。


 それを見ていたアイラちゃんに弄られる。


「タナオカさん、正妻のアイラの前で浮気するなんて凄い度胸ですね」


「こ、これは違うから!」


「遊びじゃないならマリエッタとも結婚しないとね」


 ケラケラと笑うアイラちゃん。


 俺は年下のアイラちゃんに完全に玩具にされていた。


 まさか日本ではモテない君の代表選手で一生童貞を貫く未来しか見えていなかった俺がこんな贅沢な悩みを抱えるとは誰が予想しただろうか?


 異世界は最高だぜ!


 *


 俺が冒険者ギルドの青春騎士団の仕事を終えて屋敷に戻ろうとするととんでもない者に襲われた。


「今度こそてめーに引導を渡してやる!」


「冗談だろ? まだ生きてたのかよ!」


 ワークだった。


 追放処分になったのにどうやってこの街に潜り込んできたんだよ?


 それ以前に3階から落ちてぼろ布のようになっていたのにまだ生きているのが謎だ。


「生憎しぶといもんでな。今回は俺様だけじゃなく相棒も用意してきたから俺様の勝ちは確定だ!」


「相棒だと?」


 こんな負け犬の仲間になる奴なんているのか?


 俺が慌てる素振そぶりりを見せると、ワークは勝ち誇り満足気だ。


 だが俺もあれから進歩している。


 ニケさんと言うお嫁さんを貰い、アイラちゃんと言うお嫁さんを貰った俺には家族と言う守るべき大きなものを得て、もう敵となる者など存在しない。


 一言で言ってしまえば万能感であり無敵である。


 でもそれを最初から見せつけてしまうと、俺が最強の男と知って動揺するワークの顔が見れないので演技をしたのだ。


 それを知らないワークは勝ち誇ったままだ。


「よし、相棒頼むぜ!」


 出てきたのは俺をファーレシアの勇者パーティーから追い出し俺を殺して闇に葬ろうとしたアウ王女派の騎士と神官のおっさんだった。


 暗殺されそうになったのも恨んでいるが、それ以上に俺に手切れ金1万ゴルダしか渡さなかった恨みは今でも忘れていない。


「タナオカ、探したぞ! こんなとこに隠れていたのか。お前の尻尾を捉まえた以上、逃がさんからな!」


「とっとと始末して、アウマフ王女派の再建を!」


 槍を構える騎士と、魔法を詠唱し始める神官。


 俺は領主の旦那だから実質この街の領主みたいなものだし、街中で騒ぎを起こされると困るんだけど。


 なにかごちゃごちゃ言っていたが、俺は気にせず二人を取り込む。


 武器を取り込み、服も取り込み、まっにしてから取り込みだ。


 こうしておけば後でクリムさんのとこに納品するのが楽になる。


 目の前から相棒が消えてワークは動揺を隠せない。


「え? 俺の相棒をどこにやった?」


「そりゃ商人なんだからアイテムボックスの中だろ」


「くそ! でも、お前は俺様を取り込むことが出来ないから、前みたいに串刺しにしてやる。あの時だって助けが入らなければ俺様の勝ちだったはずだ!」


 ここで俺はネタバラシを始める。


 これこそモテる男の余裕だ。


「お前を取り込めないって? いったい、いつの話をしてるんだよ?」


 俺を鑑定して焦るワーク。


 ワークが青ざめた。


「嘘だろ? アイテムボックスのスキルレベルが5だと? あり得ない!」


 そりゃな。


 アイテムボックスのスキルレベル上昇の条件はこうだ。


 ――――――――――

 レベル1 アイテムの取り込みが出来る。

 スキル習得時に開放


 レベル2 アイテムの収納容量アップ x2倍

 スキル試行回数10回で開放。


 レベル3 アイテムの収納容量アップ x2倍

 スキル試行回数1,000回で開放。


 レベル4 アイテムの収納力アップ(液体)

 スキル試行回数100,000(10万)回で開放。


 レベル5 アイテムの収納容量アップ x2倍

 スキル試行回数10,000,000(1000万)回で開放。


 レベル6 アイテムの収納力アップ(魔力)

 スキル試行回数1,000,000,000(10億)回で開放。

 ――――――――――


 こんな感じだ。


「俺様だってスキルレベル4に到達できてないのに、どうやってスキルレベル5に到達した?」


「冥途の土産に教えてやろう。『友情』『努力』『勝利』だ!」


「意味わかんねーよ!」


 俺も解らん。


 アニメの主人公みたいに一度言ってみたかっただけだ。


 冒険者ギルド長の話ではレベル4に上がるのはアイテムボックスへの1万回の取り込みの試行がスキルレベルアップの条件と言っていたが、実際に訓練してみると1万回じゃ開放されなかった。


 そこでニケさんと色々と検証してみると回数ではなく個数、つまり10万個の取り込みを試行すればアイテムボックススキルが上がるんじゃないかと予想を付けた。


 10万回もどうやって取り込んだかわからないだと?


 そんなもの簡単さ。


 大き目のツボに入れた豆を何度も取り込めばあっという間に10万個達成でスキルレベルが上がったんだよ。


 スキルレベルを5まで上げたが、さすがにレベル6になる条件の10億個はいまだにクリアしていない。


 今は取得できていないが、スキルを使っていればそのうち覚えるだろう。


「まっ、そういうことだから、テメーを取り込むわ」


「ぎえー!」


 まっ裸にされた時点で負けを認めたワークが逃げようとするが、アイテムボックスに取り込んでやった。


 断末魔を残して奴が消える。


 ふふふ、これで俺の目障りな敵はいなくなった。


 完全に勝利だ!


 ニケさんとの友情、豆を取り込む努力、そして雑魚を蹂躙し勝利!


 俺もアニメのヒーローみたいになって来たな。


 主人公として十分アニメをやっていけるんじゃね?


 街中で高笑いをして通行人にドン引きされていたら、見知った顔が現れた。


 小田野優子。


 あだ名はユッコだ。


 日本から一緒に召喚されたクラスメイトの中で俺とタメを張るほどのイケてない女で底辺脱出を争うライバルだ。


 趣味は男子同士が絡む薄い本。


 自分でも描いているらしくその道ではかなりの有名人とのことでSNSのフォロワー戦闘力は53万ぐらいだ。


 ユッコは俺と同類で異世界デビューを存分に堪能している。


 ユッコは俺に指をビシッと突き付けた。


「アイテムボックスを操る召喚勇者が現れて街を滅茶苦茶にしているって隣国の領主の息子から聞いたのでピンと来たんだけど、やっぱりタナピーだったのね」


「おい、ユッコよ。俺をその黒歴史なあだ名で呼ぶな」


「まあいいわ。あんたの噂を聞いたけど凄いことになってるのね」


「凄いこと?」


「この街にやって来た途端、冒険者ギルドにベアウルフの群れを解き放って蹂躙したり、ゲーバーに入り浸ったと思ったらスカウトしまくりで陰の店長を始めたり、領主の娘とも仲良くなってこの街自体を牛耳り始めたそうじゃないの」


「ちょ!」


 なんだよ、そのデマ!


 大体合ってるけど。


 その情報源はギルド長だろ。


「で、わざわざ俺に会いに来てなんの用だよ?」


「勇者パーティーに帰って来なさいよ。土下座すれば戻るのを許してもらえるわよ」


「やだよ、あんなとこ」


「それに王女も会いたがってるわよ」


 追い出された上に暗殺されそうになったあの国に戻りたいなんて思うわけないだろ。


 それに俺を暗殺しようとしたあの王女の顔なんて二度と見たくねぇ。


 今はニケさんとアイラちゃんのいるこの街を離れる選択肢は絶対にありえ無い。


「今更なんの用が有るっていうんだよ。俺は異世界デビューに成功してこの異世界を満喫しているんだ。今更戻れって言われても戻る気なんてねーから」


「あら、断っちゃっていいのかしら? ファーレシアから追われるのを助けてあげようと思ったのに」


「マジか?」


 俺の最大の懸念材料はファーレシアだ。


 今後も俺の存在を消そうと刺客が襲ってくることだろう。


 俺だけならともかく、ニケさんやアイラちゃんが標的にされることを考えると背筋が寒くなる。


「そのアイテムボックスに入っている3人も二度と襲ってこないように話を付けてあげるわ」


 雑魚とはわかっているけど、アイラちゃんの弟なので殺すわけにもいかず、かと言って引っ切り無しに何度も襲ってくるのはウザい。


「で、見返りはなんだよ?」


「話が早くて助かるわ」


 ニッコリとほほ笑むユッコ。


 昔だったらこんな顔は絶対にしなかったのに、こいつも異世界デビューしてずいぶんと変わったな。


 ユッコは俺に用が有ったらしく、俺に何かさせるらしい。


「まだ詳しいことは話せないけど、タナピーの力を使って手伝って欲しいの」


「荷物持ちか」


「そうなるわね」


 俺に魔王攻略戦の荷物持ちでもさせようと思っているのか?


「それは安心して。魔王攻略はまだまだ先だし四天王戦もまだ準備段階だわ。頼むのは安全な荷物持ちよ。その仕事をしっかりこなせればあの三人には話をつけて身の安全を確保する約束は守るわ」


 まあ、悪い条件ではなさそうだ。


「すぐに決めろとは言わないわ。明日まで待ってあげる」


 その言葉を残してユッコこと小田野優子はロープで縛られた裸の男3人を連れて勇者パーティーの待つファーレシアへと戻っていった。

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