郵便配達
アレスたち『青春騎士団』のメンバーはゴーレム戦で破損した装備の代わりに注文していた新装備の納品を受けていた。
店員が遠慮がちに装備の着心地を確認してくる。
「防具の寸法は会ってますでしょうか? 何か気になるところがあればなんでも言って下さい」
1セット300万ゴルダの鎧を買う上客だ。
店員の態度も今までに経験したことがないぐらい
「そうだな……この鎧の肩の部分のパーツが若干引っ掛かるような気がする」
「動くと少し音が出てるよね」
パーツのバリが当たって音が出ているんだろうけど、隠密行動をとる時にこの音は致命的だ。
鎧を脱ぐと店員は修正を手配する。
「ご婦人のローブの方はどうでしょうか」
「ちょっと歩くと布が足に纏わりついて重いわね。すこしだけスリットを入れて貰えるかしら?」
「かしこまりました」
アレスは他の3人にも確認をする。
「マルクとエリンとニケはどうだ?」
すると3人は満足気に答えた。
「特に問題ないみたい」
「いつも通りのいい出来だな」
「大丈夫だよ」
「じゃあ、俺たちは寸法直しをして貰うから、マルクたちは武器屋に行って武器を買ってこい」
「わかった」
武器屋へ向かうマルクたち。
でもニケだけは残った。
「お兄さん、ちょっとお願いがあるんだけど」
「どうした?」
「武器はタナオカさんが買ってくれたから新しいのは要らないんだけど……」
ニケは何か言いにくそうにしている。
「どうした?」
「あのね」
ニケはアレスの耳元で囁いた。
「新しい下着を買っていい?」
それを聞いたアレスは嬉しそうだ。
「そうか。ニケもすっかり色気付きやがって」
「えへへ。だってタナオカさんにくたびれた下着を見られたら恥ずかしいもん」
「そりゃそうだな。ニケは本気でタナオカさんと一緒になりたいのか?」
「うん!」
「じゃあ、お兄ちゃんもニケが結婚できるように援護頑張るからな」
「お兄さん、ありがとう」
ニケは笑顔で走って店を出て行った。
*
翌日も青春騎士団は自由行動で休みだった。
日本だったら30連勤とか当たり前のブラック企業があるらしいけど、こっちの世界はそんなのは無いのかな?
冒険者なんて身体が資本みたいな物だから、無茶して働いてもいい事ないんだろうな。
一年を10日で過ごすいい男ならぬ、一週間を5日で過ごすいい男。
当たり前のことを言ってるのに凄く尊く聞こえてしまう。
俺が日本に残っていたら高校卒業後はバイトで一週間7連勤とかだったんだろうな。
それを考えると異世界最高だぜ!
ちなみに冒険者ランクを上げるために自主的に仕事をしている俺もどうかと思う。
ちなみにニケさんはクリムさんのところで料理修行だ。
毒見役のクリムさんはお気の毒。
あれからFランクの依頼をいくつかしてみたんだが、どれも上手くいかない。
ドブさらいは俺みたいな陰キャで弱キャラには厳しい力仕事だったし、薬草採りは毎回鑑定しないとどれが薬草か雑草かわからないし、普段は俺向きの荷物運びもあるらしいんだけど既に他の誰かが受注した後だ。
結局今まで受けたことのない手紙の配達をすることにした。
その数50通。
Fランクを卒業できるようにいくつも配達依頼を受けた。
でも50通程度じゃアイテムボックスの恩恵は殆ど受けられない。
ただひたすら手紙を配りまくるだけだ。
手紙と言っても受け取りのサインを貰わないといけないので、不在だともう一度配達しないといけない。
感覚的には日本の宅配便と一緒だな。
おまけにスマホのマップアプリもねーし。
散々迷ったおかげで通りの名前を結構覚えちまったじゃねーか。
このままいけばエストの街一番の郵便配達人になれるって、なりたくねー!
俺が目指しているのは郵便配達員ではなく冒険者なんだよ!
手紙の配達は今日を最後に辞めようと心に決め、最後の配達に向かう。
配達先は裏路地の廃れた安宿。
この世界じゃ手紙の配達はあまり安いものではない。
封筒一つの配達で1500ゴルダも取られる。
日本ならば1500円相当だ。
それなのにこの安宿の泊まり客相手に3通の手紙。
今まで安宿への配達なんてなかったから違和感が半端ない。
俺は届け先の301号室を訪れる。
ノックをすると少し間が空いた後、男がドアを開けた。
出てきたのは安宿には似合わない若い男。
俺よりも二つ三つ若そうな感じだが髪も髭もボウボウである。
受け取り票にサインを求めると死んだ魚の様な目をしていた男の表情が豹変した!
「てめーがタナオカか! 死にやがれ!」
ナイフで俺に突きかかって来た。
その突きは鋭く俺の喉元目掛けて放たれた。
こんなの避けられるわけがない!
おまけにアイテムボックスへの取り込みが出来るほど遅い攻撃じゃない。
ぬかった!
油断しすぎた!
安宿に配達の時点で注意しておくべきだった。
ここは異世界、なにが起きてもおかしくない世界。
俺は異世界を舐めていたことを後悔する。
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