黒幕

 シルマインへの護衛という長期依頼をこなしたので勤務明けとなる今日は一日休みになる。


 アレスさんたちは発注していた装備を受け取りに行った。


 寸法直しもあるので今日一日の大仕事だ。


 俺はというとクリムさんのとこに行って報告を受ける。


「この前の盗賊の親分の事なんですが、なにかわかりました?」


「ええ、わかったわよ(はぁと」


 クリムさんの性癖は一般人の俺から見るとちょっとあれだが、仕事はやたら早くて評価できる。


「どうやらね、領主の息子のワークの指金だったらしいわね。ところでこの前領主に呼ばれてたけど大丈夫だった?」


「ええ。力になってくれることになりました」


「それはよかったわね」


 それにしても、領主の息子が野盗を陰で操っていたとは……。


 どうりで行商の復路でとんでもない数の野盗が襲ってきたわけだ。


 原因がファーレシアじゃなかっただけ一安心である。


 俺はクリムさんに調査の報酬を払おうとしたら要らないと断られた。


「本当に要らないんですか?」


「ええ。どうしてもお礼をしたいって言うならば従業員になってくれると嬉しいんだけど(はぁと」


 それだけは絶対にお断りだ!


「今回は新しい従業員が2人も増えたことだし、報酬はそれでいいわ」


 ってあれですよね?


 元暗殺者と元野盗の親分の新店員。


 ちょっと油断したら寝首掻かれそうで、そんな店には行きたくねぇ!


 俺はそそくさとクリムさんの店を退散した。


 *


 今日は一日フリーなので、冒険者ギルドで依頼を受けることにした。


 ニケさんを守れる実力を身に付けるためにも冒険者ランクを上げないとね。


 早速掲示板に向かい依頼を物色する。


 俺の冒険者ランクは最も低いFランクなので受けられる依頼はめちゃくちゃ簡単なFランクのものだけだ。


 アイテムボックスを使えばCランクの討伐依頼も余裕なんだろうけど、それはギルドが許してくれない。


 俺を見て冒険者ギルドのギルド長のリーダさんが俺の依頼を受け付ける。


 カンナさんとのトラブルの一件以来、リーダさんが俺専属の受付嬢になっている気がするけど気にしない。


 むしろギルド長を専属の受付嬢としてしまう俺カッコいい。


 バイトどころか子どものお手伝いレベルのFランクの依頼しか受けられず気落ちする俺を見て慰めるリーダさん。


「まあ、そう腐るな。5回も達成すればEランクに昇格するんだからな」


 今回俺の受けた依頼は下水路のドブさらいだ。


 なんでこんなものを受けるんだと、リーダさんは理解出来なかったようだけど俺には秘策がある。


 アイテムボックスでドブに溜まったヘドロを収納してしまえばそれだけで終わりじゃね?


 きっと5分もあればドブ掃除なんて終わる。


 あとは街の外に行ってヘドロを廃棄すれば終了な簡単なお仕事。


 そう思っていた時期が俺にもありました。


 俺は依頼場所の下水路に到着。


 早速全身の力を込めてヘドロの収納だ。


「しまえ!」


 ヘドロの臭う下水路に向けて手をかざす。


 アイテムボックスがヘドロ臭くならないか少しだけ心配。


 でも下水路には波紋の一つも起きやしない。


 なんでなんだ?


「しまえ! しまえ! しまえ!」


 俺は声が枯れるほど叫びまくるがなんにも起きない。


 なんにも取り込めない。


 なんでなんだ?


 もしかして俺のスキルが消えうせた?


 と思って、ドブに落ちていた岩を収納したら簡単に取り込めた。


 どういうことなんだよ?


 俺は冒険者ギルド長のとこに戻り状況を説明する。


「ということがあって、ヘドロが全く取り込めないんだけど」


「あー、お前のアイテムボックスのスキルってレベルいくつだ?」


「レベル2だけど?」


「それじゃ無理だぞ」


「マジで?」


「ギルド秘のスキル辞典を見るとだな」


 マル秘文書と言いながらスキル辞典を俺に見せるリーダさん。


 問題が起こったら俺のせいにするから大丈夫とかとんでもない事を言っている。


 レベル1 アイテムの取り込みが出来る。

 レベル2 アイテムの収納容量アップ x2倍

 レベル3 アイテムの収納容量アップ x2倍

 レベル4 アイテムの収納力アップ(液体)

 レベル5 アイテムの収納容量アップ x2倍

 レベル6 アイテムの収納力アップ(魔力)

 レベル7 到達者無しのため不明


「レベル4にならないと液体のヘドロの取り込みは出来ないな」


「マジか? そのレベル4に上がるにはスキルを何回使えばいいんだ?」


「一万回だな」


「そんなに使えるかよ!」


「普通なら一日2回使って10年以上掛かるけど、MPの尽きないお前ならあっという間だろ?」


 絶対すぐじゃねぇ。


 寝ずに頑張っても一週間ぐらい掛かる。


 ギルド長は熊手とバケツとスコップを俺に手渡す。


「今回はこれを使うんだな」


「おおう……」


 俺はヘドロに塗れてドブさらいをする羽目になった。


「アイテムボックス、全然役に立たねーじゃん!」


 俺の悲しい叫びが異世界の空にこだまする。

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