インゴットの品質

 結局報酬を貰わずに帰って来た俺。


 あくまでもゴーレムの件は貸しということにしておく。


 新しく就任した領主のアイラちゃんの領地運営の為に使ってくれというと喜ばれた。


 アイラちゃんは俺の味方になってくれそうなので一安心だ。


 そんな見栄を張った俺だけど、懐具合はニケさんに短剣をプレゼントしたこともあってすこぶる寂しい。


 持ち金が尽きかけているので早速シルマインで仕入れたインゴッドを売ることにした。


 俺が心配だったのか、屋敷からの坂道の麓でニケさんが待っていてくれていたみたいだ。


「領主さんとの謁見はどうだった?」


「一応、上手くいったかな」


 アイラさんに求婚されたことはあえて話さない。


「じゃあ、このままエストの街に居られるんだね」


「おうよ!」


「一緒に居られてよかった!」


「そうかそうか」


 ニケさんの肩を抱きしめると全身で喜んでくれた。


 *


 インゴットの売り先はいつもの武器屋のコルタック商会だ。


 ぶっちゃけ、ここしかインゴットを売れそうな場所を知らん。


 いつものおっさんに話を聞く。


「インゴットの買い取りか? することはするけど、質の悪いものはタダでも願い下げだぞ」


「それなら安心してください。シルマイン一番の品質のインゴットらしいです」


 ということでインゴットの買い取りを依頼したんだけど、武器屋のおっさんの顔色が冴えない。


「劣悪な品質ではないことは確かなんだが、最高とも言えない微妙な品質だぞ」


「そうなんですか?」


 鍛冶屋の親父さんはかなり自信ありげだったんだけどな。


 結局、標準品よりも1ランクだけ高い品質ということで準上級品として買い取って貰った。


 馬車2台分の鉄インゴットでお値段250万ゴルダ。


 差額100万ゴルダの儲けである。


 アイテムボックスが使える俺の儲けとしてはいいんだけど、普通に馬車2台を借りて護衛も雇ってエストの街から5日の交易をするとなると必要経費が多くて殆ど儲けは無いかもしれない。


 儲けがあったとしても10万か20万程度で、野盗に襲われて荷物を奪われたら一回の被害で交易何十回分の利益が吹き飛ぶんでしまう。


 武器屋の親父も俺を労ってくれた。


「まあ、最初の商売はこんなもんなんじゃねーの? 騙されて粗悪品を押し付けられなかっただけでもマシだと思うぞ。次は信頼できる仕入れ先を見つけることだな」


 今度シルマインに行ったらあの鍛冶屋の親父には文句を言わないとな……。


 インゴットを売り払ったせいか、頭の中で声が聞こえた。


 ――商売の利益が100万ゴルダを超えましたので【商売上手】の称号を得ました。


 ――スキル【鑑定】を手に入れました。


 おっ?


 鑑定を手に入れたぞ。


 商売人というか冒険者の必須スキル。


 これでインゴットを鑑定すれば品質が解る。


 早速鉄のインゴットの鑑定だ!


 ―――――

 鉄のインゴット

 ―――――


 そんなの鑑定しなくても見りゃわかるって。


 鑑定使えねぇ!


 店にあるものを片っ端に鑑定してみる。


 ――鉄の短剣


 ――鉄のやり


 ――鉄の片手剣


 ――銅の短剣


 ――皮の鎧


 ――……


 見りゃわかる情報しか出てこねーじゃねーか。


 マジで鑑定使えねぇ!


 と思ってたらスキルのレベルが上がった。


 ――【鑑定】の試行回数が10回を超えました。


 ――【鑑定】の熟練度が上がりレベル2になりました。


 ――詳細が見えるようになりました。


 早速パワーアップした鑑定を使ってみた。


 ―――――

 鉄のインゴット

 鉄鉱石を生成した物

 ―――――


 ちょっとはマシになったけど、まだまだ使い物にならない。


 これって駄目スキルなの?


 さっきインゴットの鑑定をしていた武器屋のおっちゃんに聞いてみた。


「兄ちゃん、鑑定を覚えたのか?」


「ええ。でも全く使い物になりませんね」


「レベルは?」


「2です」


「2かぁ……まだまだだな。次は100回鑑定するとレベルが上がって品質が見れるようになるぞ」


「マジですか?」


「大体のスキルは3にならないと使い物にならないな」


 俺は街出て市場にあるものを鑑定しまくった。


 すると100回はすぐに達成できた。


 ――焼き鳥☆


 ――道路×


 ――りんご


 評価が見れるのが面白い。


 どうやら☆が上級品、×が劣化品、無印が標準品のようだ。


 早速武器屋に戻って鉄のインゴットを鑑定だ。


 ―――――

 鉄のインゴット☆

 鉄鉱石を生成した物

 ―――――


 ちなみにニケさんにプレゼントした短剣を鑑定すると☆☆☆☆☆だった。


 なかなかよさげな品質。


「品質が見えるようになりました。☆一つですね」


「レベルアップする迄ずいぶんと速かったな」


「ええ、頑張りましたので」


「普通は頑張ってもMP消費が激しくて一日に何度も鑑定出来ねーから結構時間が掛かるんだけどな」


 あー、俺はMP消費ゼロのスキル持ちだからな。


 どうりで鑑定のレベルが上がるのが早かったんだな。


「鑑定のレベルが更に上がれば相場の値段なんかも解るようになるから結構便利だぞ」


 ニケさんが物欲しげに見つめてきた。


「ねえ、私を鑑定してみて」


「いいんですか?」


「タナオカさんに私の愛を鑑定して欲しいの」


 早速鑑定してみる。


 ―――――

 ニケ

 盗賊LV23 ☆☆☆☆

 人間 女

 ―――――


「鑑定出来た? 何が見えた?」


「出来たけど……ジョブしか見えないね」


「そっか。愛の深さを見せたかったんだけどなぁ」


 そんなものまで見れるの?


 武器屋のおっさんが俺たちの惚気のろけ話に首を突っ込んでくる。


「レベルが上がれば見えちゃいけないヤバいものまでいろいろ見えるようになるぞ」


 見えちゃいけないものってなんだよ?


 すごく気になるんだけど!


 なんなんだよいったい?


 女性に聞いたらヤバいってのは年齢か? スリーサイズか?


 ニケさんのスリーサイズが解ると思うと、なんか急にやる気がみなぎって来たぜ。


「次は200回ですか?」


「バカ言うんじゃねーよ、次は1000回だ。その次は10000回な」


 桁1つ上がるのかよ。


 こりゃ大変だな。


 でもまあ、MP消費ゼロスキル持ちだから大して時間は掛からないはず。


 今の俺はやる気満々だ!

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