調査結果

 野盗を衛兵に引き渡し、俺はクリムさんの元へと向かう。


 要件は二つ。


 一つはこの前引き渡した暗殺者の調査の結果を聞くこと。


 もう一つは今回の野盗団の親分の調査だ。


 なんで野盗の親分から俺の名前が出てきたのか判らなかったので調べてもらうことにした。


「また来てくれたのね。そろそろうちの店で働く決心はついた?(はぁと」


「違います!」


 そのネタ何度目だよ!


 そんな気になることは一生無いから!


「じゃああれね。私とデートしに来たのね(はぁと」


「そんな気もありません! 要件がわかってるのにわざとはぐらかしてるでしょ?」


「てへっ?」


 舌をペロッと出しながら顔の前で手を広げるクリムさん。


 それ全然かわいくないから!


 むしろ気持ち悪いから!


「また調べて欲しいことがあるんです」


 俺はクリムさんに野盗の親分を渡す。


 まだ、サンドイッチが効いてるのか、殺虫剤を掛けられたゴキブリのように手足を丸めてピクピクしていた。


「この子を育てればいいのね。やりがいのあるむさくるしさね。久々に血がたぎるわ(はぁと」


「育成はしてもしなくてもいいんですけど」


「あら、残念ね」


「商隊を襲ってきた時に俺の名前を言っていたんで、なにか依頼者に繋がると思うので調べて欲しいんですよ」


 たしか『タナオカの身柄を置いていきやがれ!』と言っていたので、ただの野盗じゃないのは間違いない。


 クリムさんは調査を快諾してくれた。


「任せなさい。でも今度お店に遊びに来なさいよ(はぁと」


「お、おう」


 あんまりこの人とは関わりたくないが、調査の為なら仕方ない。


 俺はもう一つの案件も切り出す。


「それと、前にお願いしていたおっさんの調査はどうなりました?」


「この前の暗殺者の事ね」


「ええ、結果はどうなりました?」


「さすがプロの暗殺者だけあって依頼者の名前は口は割らなかったわね。たぶん聞いてなかったらしいの。でもね、とんでもない証拠を見つけたのよ」


 証拠?


「これよ」


 クリムさんは一枚の指示書を取り出した。


 ごく一般的な手紙だ。


 書いてあるのは俺の名前と潜伏先の宿屋の名前と住所だけ。


 この前見た物で、どこにも依頼者に繋がるものは無かった。


「これがなにか?」


「この用紙はね、どうやら隣の国の公文書だけに使われる用紙なのよ」


「それって……」


 俺は『隣の国』という言葉に思いっきり心当たりがあった。


 俺を召喚した国『神聖国ファーレシア』。


 正確に言うと俺を召喚したのは国では無く、勇者の俺と結婚して王家を継承しようとした第二王女の『アウマフ』だ。


 あの件はあの国から逃亡することで死亡扱いとなり既に決着がついた話だと思っていたんだが、まだ尾を引きずっていたのか。


 隣国とは言え王族相手の話になると面倒なことになったかもしれない。


 やっと彼女が出来て、冒険者としてもうまく回り始めてたのにいまだに王族が俺を消し去ろうとしてるなんて……なんでなんだよ!


 陰キャな俺が異世界でやり直せると思ったのに!


 俺は頭を抱えてうずくまる。


 俺はこんなに運が向いてきている状況で絶対に死にたくねぇ!


 すると知った少女の声がかけられた。


「ようタナオカ、また悪さでもしてたのか?」


 冒険者ギルド長のリーダさんだった。


 見た目だけは幼女でかわいい。


 見た目だけはな。


 そのリーダさんがなぜにオネェバーに来たんだ?


「なんでここに?」


「いや、衛兵に野盗の集団を引き渡したと聞いていたので冒険者ギルド待ってたけど一向に現れないので探しに来た」


 先に飲み屋で飲んでいるアレスさんから行き先を聞いたみたいだ。


「お前、なにをやらかしたのか知らないが、この街の領主から召喚が掛かっているぞ」


「えっ?」


 俺は何も悪いことをしていないのに、なぜに領主に呼ばれないといけないんだ?


 もしかしなくても、面識のない領主に呼ばれてるってことは俺をファーレシアに引き渡そうとしてるんだよな?


 やべえ!


 領主にまで目を付けられてしまうとは、俺の異世界成り上がりライフは完全に積んでいる。


 最悪、領主とファーレシアの連中をアイテムボックスにしまって逃げるしかねぇ!


 でも、そうなると……逃亡生活となるのでニケさんとはもう一緒にはいられない。


 それだけは困る。


 なんとか話し合いでうまいこと引き渡しを回避することは出来ないのだろうか?


 俺のアイテムボックスの有用性を認めてもらえればなんとかなるかもしれない。


 俺は覚悟を決めて領主の館に乗り込むのだった。

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