野盗の襲撃
護衛の復路はとんでもないことになっていた。
ひっきりなしに野盗が襲ってきたのだ。
「ヒャッハー! テメーら、全員俺様の養分になりやがれ!」
野盗は七人だった。
俺は颯爽と野盗退治に向かう。
ニケさんが心配そうに俺の裾を掴む。
「危ないから隠れてようよ」
「大丈夫、俺は絶対に負けません! ニケさんを守り切ってみせます」
「タナオカさん……」
そう、俺はニケさんを守り抜けるだけの実力を持った最強の冒険者になるのだ!
恋する少女の目で見つめるニケさんを置いて、俺は馬車の揺れでふらつきながらも屋根の上に乗る。
そしてアイテムボックスから即死アイテム
「くらえ!」
俺のアイテムボックスから取り出されたサンドイッチが次々に野盗の口の中に納まる。
処分完了!
サンドイッチのな。
「ぐわわあああ!」
「なんじゃこりゃー!」
「のどが~! 腹が~!」
「あばばばばば!」
「死にたくねー!」
野盗たちは口から泡を噴き、次々に気絶をして地面に倒れ込んだ。
たったひと切れで気絶である。
それを何個も食っていた俺って……。
俺はこんな危険な物を喰ってたのか。
よく死ななかったな!
商人のステータスの幸運の高さが無かったら確実に死んでたぞ。
俺たちの馬車に駆けつけたアレスさんが俺の顔を見る。
「今のはタナオカさんがやったのか?」
「ええ、まあ」
「タナオカさんって本当にすごいんだな」
凶器はあんたの妹のサンドイッチだけどな。
俺は気絶し無力化された野盗たちをアイテムボックスに回収。
後で衛兵に突き出して報酬を貰おう。
こいつらは護衛依頼の特別報酬の対象だから、衛兵に突き出せばいい。
わざわざオネェバーに放流しに行って胸毛のおっさんに襲われなくて済むのは助かる。
俺の冒険者稼業は順調に進んでいた。
*
朝一番の出発時刻の午前六時に商隊と共にキャンプ場を後にした俺たち。
野盗はひっきりなしに襲ってくるがそれ以外のことは順調だ。
馬車の中ではニケさんがお茶やお菓子を俺に勧めてきたがシルマインの食堂で買った物なのでどれも美味しい。
こうして二人だけでいる甘い時間がとてつもなく楽しい。
ニケさんに料理の経験を聞くとこの前作ったサンドイッチが人生初めての料理との事。
教えてくれる先生も居なかったのであんな呪殺兵器が出来上がったらしい。
作った食事が全て毒属性を帯びるスキルを持ってなくて良かった。
そりゃ子どもの頃から冒険者をやってたら、まともな料理を作る機会なんて無かったよな。
ニケさんとの結婚の唯一の懸念材料であり障害となるのが料理だったが、ちゃんと勉強をして貰えば問題無さそうなので俺はほっと胸を撫で下ろした。
アレスさんが俺たちの馬車にやってきた。
「今回の護衛は何かおかしい」
「と言いますと?」
「普段なら野盗が襲ってくるのは1回か2回なんだ。それが昨日一日で7回も襲ってきている。何かあるのかもしれない」
どうりで野盗の襲撃が多かったはずだ。
まあ、野盗なぞアイテムボックスを極めた今の俺にすれば雑魚でしかない。
ちょっとした旅の暇つぶしにちょうどいい。
俺がそんなことを話すとアレスさんは呆れていた。
*
本拠地のエストの街に近づくとまたしても野盗が襲って来た。
しかも今度は三十人という大所帯。
今まで襲ってきた中で最大の規模だ。
この人数が相手では護衛の青春騎士団には勝ち目がない!
俺がいなければな!
この野盗、今までの農民上がりの野盗とは違い明らかに戦闘経験を積んだ集団だった。
装備を見ると使い古されているものの前線に立つ者は鎧を付け、後方から攻撃する物はかなりしっかりとした遠隔武器を持っていた。
かなり面倒そうな野盗の集団だ。
野盗は火矢を放って先制攻撃をして来た。
数に物を言わせて俺達の戦力を削ぐ攻撃だ。
火矢を放ち、馬車を燃やし、火を恐れる馬を暴れさせて俺たちを混乱に陥れる作戦だ。
これはきつい攻撃である。
何度も言ってしつこいが、俺がいなければな!
俺は飛んできた火矢を全てアイテムボックスに取り込む。
真っ赤な炎に染まっていた空が一瞬で青さを取り戻す。
ついでに野盗の弓と矢筒と魔法使いの杖も取り込んだ。
呆然と立ち尽くす野盗たち!
一瞬で戦力を大幅に削いでやったぜ。
野盗は大混乱だ!
野盗の親分は狼狽える子分たちに怒鳴り散らす!
「てめーら! 落ち着け! 落ち着かんと今日の昼飯は抜きだぞ!」
野盗の親分の声で一瞬で騒ぎが収まった。
なかなかやる奴だな。
親分は俺たちに凄みを効かせて脅し始めた。
「おい、お前ら! タナオカの身柄を置いていきやがれ! さもなくば、ぶも~!」
俺の身柄を名指しで要求だと?
アレスさんが今回の野盗襲撃はおかしいと言っていたが、俺が原因だったんじゃないか。
でも俺には野盗に恨まれることをした覚えはない。
なんで俺を名指しなんだよ?
まあ、いい。
原因を探るにはまずはこいつらを捕まえてからだ。
親分は突然白目になって倒れ込んだ。
「親分、どうしたんですか! 親分! ぶも~!」
親分を揺り起こそうとしていた側近の男も泡を吹いて倒れる。
なにが起こったか賢明な傍観者ならお判りだろう。
俺は喋る奴に片っ端から例のファイナルウェポンを口の中に突っ込んでいたのだ!
「ど、どうなっているんだ? いったい、あばばばば!」
「お前ら、落ちつけ、ぐぎょー!」
「しっ死にたくねえ、ぶへ~!」
「にっ逃げるぞ、にぎゃ!」
次々に築き上げられる戦闘不能となり動かなくなった野盗の山。
それを見て遠隔攻撃をしていた遠くの奴らが逃げようとする。
「逃がすか!」
俺は視界に入る奴らを片っ端からアイテムボックスに収納してやった。
あっという間に野盗たちは壊滅だ。
アレスさんが恐る恐る俺に聞く。
「これもタナオカさんがやったんだよな?」
「はい、俺がやりました」
「タナオカさん凄いよ! 本当に凄い!」
結局三十匹の野盗は全て気絶し、俺のアイテムボックスの中に収まった。
これだけ強けりゃ他の勇者なんて目じゃないな!
まさに真の勇者!
商隊とチームの皆に拍手喝采を浴び褒め称えられながらエストの街へと馬車は向かった。
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