野営
日没まで1時間というところだろうか?
日が傾いたので今日の馬車旅は終わった。
さすがに街灯もヘッドライトも無い異世界で馬車の夜の移動は厳しい。
「さ、ここからが俺たちの仕事だ。気合い入れて仕事するぞ!」
アレスさんが青春騎士団のメンバーに激を飛ばす。
日本でいう道の駅みたいなキャンプ場に商隊が停車し一夜を過ごすが、当然野盗も狙ってくる。
それを追い返すのも護衛の仕事だ。
暗闇の中で敵を探し出すのは冒険者といえど無理なので活躍するのは魔道具である。
範囲哨戒の魔道具で敵意のある者が近づいてくれば即座に反応して赤い警告色の光を放つ。
日本でいう赤外線センサーの上位版みたいなものだ。
それを見つめるのが夜の護衛である夜警の仕事である。
「初めての旅なのでタナオカさんと専属の護衛のニケは夜警から外すことにする」
前から決まっていたことなのか特に反対意見も出ず、俺とニケさんは待機となった。
俺がそれでいいのかと聞いてみると、往路は積んでる荷物も少なく野盗も襲ってこないだろうから問題ないということだ。
アレスさんは俺とニケさんが仲良くなることを望んでいるので夜は二人だけのテントで一緒に過ごせるように配慮してくれたのかもしれない。
つまりなんだ。
今晩はニケさんと大人の夜のアバンチュールを楽しめってことだ。
水浴びをし終えテントに戻るとニケさんが毛布の上で待っていた。
「今夜は一緒に楽しもうね」
「よ、よろしくお願いします」
「じゃあ、服はニケが脱がしてあげるね」
ニケさんのリードするのですか。
ニケさんに服を剥かれると下着姿になって毛布の上に横にされた。
するとニケさんはスルスルと服を脱ぎ下着姿になると俺と一緒に横になり俺の胸に顔をうずめた。
薄い布越しにニケさんの胸の膨らみの柔らかさがハッキリとわかり俺の心臓がまな板に乗せた鯉のように跳ねる。
そしてニケさんはくんくんと息を吸いながら俺を抱きしめる。
呼吸がくすぐったい。
もう俺は完全に抱き枕だ。
「あー、いい匂い。こうして抱きしめてるとたまらないよ! すごくホッとする」
かわいいな、もう。
朝からずっとニケさんに抱き着かれっぱなしだ。
ニケさんに抱き着かれるのは嬉しい。
ニケさんの頭が急に重くなりそして聞こえてくる寝息。
ニケさんはなにもせずに寝息を立てて寝てしまったのだった。
天真爛漫なニケさんの寝顔を見ていると長旅の疲れが吹き飛ぶほどの極上の幸せである。
*
アバンチュールは無くとも、今まで生きてきて女の子に抱き着かれる経験なんてなかった陰キャな俺は興奮して寝られず、時だけが過ぎていく。
深夜になると夜警を終えたアレスさんが俺が起きてる事に気が付いてテントの中を覗いてくる。
「ちょっといいかな?」
俺は寝ているニケさんを置いて、アレスさんに連れられてキャンプ場のテーブルまで誘われてお茶を勧められた。
「単刀直入に聞くけど、なんだ、ニケとは上手くいったか?」
上手くって、やっぱあれだよな。
ニケさんと恋人同士の関係になれたのか聞いてるんだよな。
俺がどう答えようか困っているとアレスさんがぶっちゃけて聞いてきた。
「キス以上の事は出来たのか?」
「ぶほっ!」
思いっきりお茶を噴き出したしちゃったじゃねーか!
単刀直入過ぎだよアレスさん。
「どうだ? 上手くいったのか?」
「キスさえもしてませんよ」
「でも、抱き合って寝てたじゃないか。あれって事後ってことだよな?」
「ニケさんが抱き着いて来て、ほっとしたのかそのまま寝ちゃって、なんにもしてません」
「そうか……まだなのか。でも、ニケを大事にしてくれてるんだな。ありがとう」
アレスさんが懐かしそうな顔をして紅茶をすする。
「ニケが、ああして男に抱き着いて寝てるのを見るのは久しぶりだぜ」
えっ?
もしかして、ニケさんと抱き合うほどの関係の男がいたの?
彼氏?
旦那?
それを聞いて嫉妬の炎が燃え上がる。
「もしかして、前の彼氏ですか?」
「いや、ニケの実の兄貴だ」
そっと胸をなでおろす俺。
彼氏だったら悲しみでマジ泣きしてたかも。
そういえばニケさんとアレスさんは本当の兄妹じゃないって言ってたな。
「ニケと実の兄のあいつは仲のいい兄妹だったさ」
再び昔を思い出しながらお茶をすするアレスさん。
俺は完全な聞き手に回って特に相槌などは打たない。
「ニケの兄貴はチームの中で一番強かったんだけどな、7年前のハイオークの襲撃でチームメンバーを庇って死んだんだ」
その時に10人程死んだらしい。
ニケさんの兄貴の頑張りがなければアレスさんも含めて全滅していたとのことだ。
ここは異世界。
人の命が紙屑のように軽い世界。
日本みたいな甘っちょろい平和な世界じゃないことを改めて思い知らされた。
「兄を失って以来、ニケの心はずっと凍り付いて子どもの頃のまま成長が止まったままなんだ。頼むタナオカさん、ニケの心の氷を溶かして人並みな幸せを味合わせてやってくれ」
思いっきり頭を下げられた。
どうりで、ニケさんは俺に強さを求めていたんだ。
『強ければずっとニケと一緒に居てくれるもん』という言葉は
ニケさんはずっと一緒に居続けられる死ぬことのない強い男を求めていたんだ。
けっして負けることのない絶対的に強い男を。
「任せてください。きっとニケさんを幸せにしてみせます」
「ありがとう!」
俺は最強の冒険者になりニケさんをきっと幸せにしてみせると心に決めた。
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