ベアウルフ

 俺が納品した生きのいいベアウルフのお陰でギルド長と受付嬢は土下座!


 事態はすぐに収拾した。

 

「お前がこれを捕まえたのか? ランクAのパーティーにでも潜り込んだのかよ?」


「いや、一人だ。俺一人で全部捕まえた」


「嘘だろ! マジかよ! 世間知らずの口だけデカい初心者と思ってたらどうやら違った様だな。謝らねばならん様だ。すまん」


 素直に謝ったので今回の俺に対する愚かな行いは水に流してやろう。


「今までお前みたいな凄い奴を見たこと無いんだが、この街では見かけない顔の様だがひょっとすると流れ者か何かなのか? お前の出身は何処だ?」


「俺は異世界から召喚されてやって来た勇者だ」


「召喚勇者か、どうりでな。あのベアウルフはアイテムボックスから取り出したんだろ? あんな大きな物をアイテムボックスに収納出来るなんておかしいと思った。普通じゃベアウルフをしかも五匹も収納するなんてあり得ないよな」


「これが当たり前と思ってたんだが、普通だとアイテムボックスはどんなものなんだ?」


「せいぜいバケツ二杯分ぐらいの容量さ。お前は勇者だけ有って規格外な奴なんだな」

 

 ギルド長が俺が勇者であるという事に感動していると、受付嬢が書類を持って来た。

 

「それではギルドカードを作りますので、この石板に手を載せて下さい。あなたのステータスを測定します」

 

 俺は石板に手を載せると、数字やスキルが石板に浮かぶ。


 どうやらこれが俺の能力らしい。

 

 ──────────

 名前:タナオカ マサト

 性別:男

 ジョブ:商人


 LV:10

 HP:32/32(D)

 MP:64/64(C)


 STR:8(E)

 VIT:8(E)

 INT:4(F)

 LUK:32(C)


 ユニークスキル:

 【アイテムボックス:超】LV2

 【MP消費ゼロ:超】LV1


 スキル:

 【アイテムボックス拡張:超】LV2

 【MP回復:超】LV1

 【通訳:超】LV5

 ──────────

 

「こ、これは!」


「凄いですね」

 

 ギルド長と受付嬢の口から感嘆の声が漏れた。

 

「ユニークスキル二つかよ!【アイテムボックス:超】と【MP消費ゼロ:超】だと! しかもどっちも神スキルじゃ無いか! 特に【MP消費ゼロ】が半端無いな!」


「【アイテムボックス拡張】って言うのは何なんでしょう? 私は今までこんなスキルを持ってる人を見たことが無いんですが、アイテムボックスの容量を大きくするスキルなのかしら?」


「これは手を触れずに複数の物をアイテムボックスに出し入れするスキルだな。かなりのレアスキルだ」

 

 どうりでウサギやベアウルフに触れずに手をかざすだけで収納できる訳だ。


 ギルド長と受付嬢は声を潜めて話し始める。


 俺が聞いたらマズい話でもするんだろうか?

 

「アイテムボックス関係のスキル以外はゴミだな」


「ですね」


「素のステータスが一般人の商人のステータスほぼそのままなんだが、もしこいつが商人じゃ無く魔法使いだったらMPが尽きる事がないから特大の火球魔法の連射で魔王様もこんがりローストに出来たんだろうな」


「商人じゃ無かったらこの世界がとんでもない事になってましたね」


「ギルドに生きたままのベアウルフを放つような頭のおかしい奴だ。こんな奴が魔法使いだったら魔王を超える化け物が現れたのと同じで、この世は終わりだったな。天は我々に救いを与えてくれた!」


「神様グッジョブです!」


 うるせーよ!


 思いっきり聞こえてるし!


 俺を極悪人や頭のおかしい奴みたいに言うな!


「それにしても凄いな。【アイテムボックス:超】に【MP消費ゼロ:超】だ。どれだけの荷物がこいつの中に収納出来るのか想像もつかない。きっと歴史に名前を残せると思うぞ!」


 それを聞いた冒険者から声が上がった。


 少し酒が回ってるのか、冗談に節度がない。


「荷物運びとして歴史に名を残せるな!」


「そりゃいいわ。ガハハハ!」


 笑い声はギルド中に伝わり、割れんばかりの大爆笑だ。


「ガハハハ! 伝説の荷物運びオメ!」


「それじゃ俺のウンコでも運んでもらうかな? 出来たてほやほやの湯気の立ってる奴でもな! ガハハハ!」


「じゃあ、俺は五日間履き続けたくっせえパンツだ!」


 ムカついたので、こいつら全員収納してやった。


 夜になったらオネェバーのステージにでも放流してやる事にしてやろう。


 ギルド長は俺が酔っぱらいを収納した事を見て見ぬふりだ。


 俺に逆らっても何も得は無いと学習したんだろうな。


 世渡り上手な少女だ。


 ギルド長は石板に浮かび上がったステータスを書き写す。


「名前はタナオカか。そういや私の名前を言ってなかったな。私の名前はリーダだ。こっちは受付嬢のカンナだ、よろしくな。それでベアウルフの報酬なんだが、これしか払えん」


 目の前に出された銀貨五枚。


 つまり五〇〇〇ゴルダという事だった。


「依頼票見たら一匹五〇万の報酬だったから五匹で二十五万ゴルダじゃ無いの? ちょっと少な過ぎるだろ?」


「そりゃあれだけの人数でボコったらボロボロで皮素材としては使えないからな。討伐の基本報酬の一匹一〇〇〇ゴルダだけしか払えない」


「五〇〇〇ゴルダかよ。安宿に泊まったらそれだけで無くなる金額じゃねーかよ」


「なんならまたウサギを捕まえて来るか? 一匹一〇〇〇ゴルダで買い取るぞ。ただし死んだのだけだけだぞ。今度は生きたのなんて持ってきても買い取らないからな!」

 

 という事で、またウサギ取りをする羽目になった俺であった。

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