アイテムボックスの正しい使い方 ― クラスごと集団転移しましたが、クラス一番の雑魚の俺は勇者パーティを追放されたけどアイテムボックスの使い方を工夫したら最強でクラスメイトが雑魚に見える件。

いきなり勇者追放

「棚岡君と居ると安心して狩りできるね！」

「ＭＰ底なしで回復魔法使い放題だもんね！」

「棚岡君の居ない狩りなんてもう考えられないよね！」

「わたし王女様より先に棚岡君に告白して彼氏になっておけばよかった！」

　俺を軸にクラスメイトが回っていたあの日。

　俺が女子たちにモテモテだったあの日。

　あの日は過ぎ去りもう戻って来ない。

　今の俺はクラスメイトたちから罵声を浴びていた。

「おい棚岡！　もっと真面目に回復しろよ！」

「初級の回復魔法しか使えないんだからもっと早くから回復始めろよ！」

「なにちんたら回復してるんだよ！　おめーがグズグズしてたら俺らが死んじまうだろが！　もっと先を読んで回復してくれ！」

　罵声を浴びせる男子たちと違って後衛の多い女子たちからは冷たい反応。

「棚岡が回復してもしなくても誤差レベルの回復だからどうでもいいよね」

「あははは！　それ言えてるわね」

「ほんと使えない奴だわね！」

　あれだけもてはやされた俺だったけど、三ヶ月経った今は再びクラスの最底辺に位置していた。

　確かに俺の【ＭＰ消費ゼロ】のスキルは神スキルだった。

　これさえあれば魔法が使い放題の神スキル。

　でもそれは僧侶や魔法使いであればの話だ。

　俺の職は商人。

　戦闘職でも無い上に、サポート職の中でも荷物運びに特化したかなり変わったジョブだった。

　当然魔法も戦闘も全くダメ、使えない。

　商人では神スキル【ＭＰ消費ゼロ】のスキルの恩恵を得られなく全くの宝の持ち腐れだっのだ。

　戦闘系の高位魔法を覚えられない商人の俺は次々に他のクラスメイトたちに実力を追い抜かされ、気が付くとクラスの最下層になっていた。

　異世界デビューに成功したユッコが俺を見下すように話しかけて来る。

　ユッコとは日本にいた時の俺のヲタ仲間と言うか俺のライバルの女子でクラスメイトの中で一番の異世界デビュー成功者である。

　そして日本で俺が唯一話すことが出来た女子でもある。

「タナピーはクラス最底辺の収まるべきところに収まったって感じね」

「うるせーよ」

　ユッコはいつもの軽いジョブを繰り出した後に本題を切り出した。

「相談があるんだけど、あんたの能力を最大限に生かした依頼を受けてくれない？」

「なんだよ」

「荷物運び」

「うっせー！」

　ユッコまで俺を馬鹿にしやがって涙が止まんねー。

　俺を罵るのがクラスメイトだけならまだいい。

　俺が真の勇者では無い事に気が付き、王妃への道を絶たれて半狂乱となった王女の責めが辛かった。

「あなたは自分の事を真の勇者だと言ってたのにこの体たらくは一体どういう事なんですか？　どう見ても今のあなたは真の勇者では無いですよ！　わたくしはあなたに騙されて結婚した事で王族を追放されそうです！　責任を取ってください！」

「そう言われても俺が頼み込んで結婚したわけじゃ無いし」

　それを聞いた王女の目が吊り上がる。

「１年です！」

「１年？」

「あと１年で王位継承権第一位の姉が結婚するのです。それまでに魔王を倒せないと……あとはどうなるかわかりますね？」

　姉が王位を継承したら継承権を失った俺たちがお城から追い出されるとでも言いたいんだろ。

　このままじゃいけないのは俺だってわかってるから。

　でもなにも出来ないし、なにも言えなかった。

　俺がなにも言い返せないでいると王女がさらに責めて来た。

「今すぐ魔王城に行って魔王を倒して来て下さい！　わたくしへの愛が有るなら魔王討伐ぐらい出来るはずです！」

　こんな会話が毎朝毎晩繰り返される。

　どうにかしてやりたいけど俺じゃどうにも出来ない。

「無茶言うなよ。商人の俺に魔王を倒す事なんて無理だから！」

「じゃあ、わたくしはどうすればいいのですか！　こんな人を本気で愛してしまったのがバカみたいじゃないですか！」

　机に突っ伏して号泣する王女。

　解るよその気持ち。

　俺が一番解る。

　クラスメイトたちの中で一番強い勇者だと自分で思い込んでたんだ。

　俺さえ居れば攻撃魔法も回復魔法も使い放題で魔王討伐も時間の問題だとな。

　それが今やレベルの上がったクラスメイトたちは大地を抉り取りながら辺り一面を焼き尽くす巨大な火球を放ち、天空から大岩を割れる程の凄まじい威力の雷（いかずち）を呼べる。

　それに対して俺の使える魔法は相変わらずピンポン玉サイズの火球。

　クラスメイトたちは凄まじい勢いで強くなるのに対し、俺は初日の弱いままだ。

　そんな男の能力に惚れて結婚してしまった王女。

　王女の落胆は痛いほど解る。

　俺は王女に何の慰めの言葉を掛ける事が出来なかった。

　＊

　王女の部屋から出て来た俺にユッコが呆れた表情を見せる。

　そんな顔はやめてくれ。

　散々王女に説教された後の傷口に沁みまくる。

「あんた、めちゃくちゃ評判が悪いわよ」

「異世界に来て最初の頃、俺は万能だと勘違いしててドヤりまくってたせいだろうな」

「クラスメイトなら日本にいた頃からあんなもんでしょ。この国の役人にまで評判悪いのよ」

　マジか？

　ユッコは話を続ける。

「どこかの森の中にあんたを捨ててくるとか話してたわよ。精々気を付けなさい」

　聞きたくない情報をわざわざ教えてくれてありがとう。

　＊

　その夜、神官と騎士が俺の部屋にやって来た。

　手にはかなりの金貨がずっしりと詰まった金貨袋を持っている。

　あとから調べたら金貨でなく銅貨で一万ゴルダしか入って無かった。

　安い宿屋三回分だ。

　ケチくせぇ！

「悪いがこの金を持ってここを出て行ってくれ。このままでは王女様の立場が危うくなる一方だ。君が逃亡したと言う事ならば、旦那の無能さもバレず王女様の体面も保たれる事だろう」

　厄介払いか。

　ついに来る時が来てしまったな。

　まあ、これ以上ここに居ても俺の居場所は無い。

　ここは波風立てずに素直に追放を受け入れる事としよう。

　俺は荷物を纏めると商人のスキルで使えるようになったアイテムボックスに収納する。

　アイテムボックスとは俗に異次元収納とか言われてる便利な商人のスキルだ。

　手をかざして『しまえ』と念じれば何でもアイテムボックスの中にしまえるし、何かを取り出そうと思えば探さなくても目の前に取り出せる便利なスキル。

　おまけにアイテムボックスの中では時間経過が無いので入れておいた食べ物が腐る事も冷める事も無い便利スキルだ。

　俺は身の周りの物を全てアイテムボックスに詰め込むと、王女への謝罪の置き手紙を残して手ぶらで城を出た。

　外は既に日が落ち月明りだけが頼りになる暗さだった。

　俺は勇者をしていた時に貰ったランタンで道を照らしながら一番近い街へと向かう。

　すると遠くから早馬に乗っている騎士が近づいてくるのか見えた。

　手には槍を正面に構えながらである。

　どう見ても臨戦態勢としか思えなかった。

　嫌な予感がした俺はランタンの火を消し、草むらの間に身を潜める。

　反対側の城側からは杖を抱えた神官が馬に乗って来た。

　二人は俺の隠れた草むらの近くで落ちあい情報交換を始める。

「タナオカは見つかったか？」

「いや見つからない」

「さっきこの辺りでランタンの光が見えた気がするんだけどな。森の中にでも逃げ込んだかな？」

「この辺りの森にはベアウルフが出るから森に逃げ込んだら命はないさ」

「まあ、逃げ込むとしても森では無くこの先のテスクの街かな？　街の出入りを封鎖して、日が昇ったら虱（しらみ）潰しに宿屋を調べてやる」

「王女の旦那の秘密を守る為だ。何としてもタナオカを仕留めるんだぞ！」

「あんなのが旦那とバレたらアウ王女を王妃に推していた我々全員の出世の道が無くなるからな。奴を葬り去った後、アウ王女を他の勇者と結婚させれば俺たちの首の皮はどうにかなるさ」

　どうやら俺は自らの無能のせいでアウ王女一派の敵となってしまった様だ。

　やがて騎士と神官は情報交換を済ませ終えると、それぞれ元の場所へと戻っていった。

　俺は既に騎士の手が回っていそうな関所を通らずに、森の中を抜けて他国へと渡ろうとした。

　誰もいない真っ暗闇な森の中をランタン一つの灯を頼りに進む。

　国境線の峰を超えたと思われる辺りで休憩をして一息つく。

「これで一難は去ったな」

　だが目の前には月明かりに照らされた凶暴なベアウルフの群れが現れた！

　鋭い爪と何でも噛砕く牙が武器の凶悪なパワータイプの野獣。

　Ａランクの勇者四人でも苦戦する敵らしい。

　そんな敵が五匹も現れたのだ！

　五匹が俺に飛びかかろうと腹を地面に擦り付けるほど身を低くして身構えた。

　こんな群れに勝てる訳もない。

　どうやら俺の人生はここで終わってしまうようだ。

　武器を持ってない俺は手を振るい必死に抵抗する。

「来んな！　来んな！　こっち来るな！」

　まるで駄々っ子である。

　駄々っ子が手を振り回してところかまわず殴りまくる。

　駄々っ子パンチだ。

　そんな物が何の武器になるはずもない。

　ベアウルフは俺を食らおうと地を蹴り大きくジャンプすると上空から一斉に飛びかかって来た！

　俺は必死に抵抗する！

「来るな！　来るな！　どっかに消えてし（・）ま（・）え（・）！」

　俺の発した『しまえ』の言葉にアイテムボックススキルが反応！

　ベアウルフは霧が晴れる様に俺の目の前から消えてしまった。

　それと共に俺の耳に響く声。

　――アイテムボックスにベアウルフ五匹を収納。残り容量は９９．９９９９９９９９９９％です。

　ベアウルフたちは俺のアイテムボックスの中に収納されてしまった様だ。

　絶体絶命の危険が去った事で笑いが止まらなくなった。

「あははは！　俺は生き残ったぞ！　生き残れたんだ！　アイテムボックスに敵を収納とか超笑えるな！　反則技過ぎる！」

　と、そこまで言って自分でふと思った。

　これってもしかすると凄くヤバいスキルでは？

　商人のアイテムボックススキルだから、手を触れずに収納できるんだぞ。

　それに収納するとは言え、攻撃力関係なしに敵を目の前から消し去るんだぞ？

　相手の魔力によってはレジストされる可能性のある即死魔法や死の宣告よりヤバくないか？

　触れずに遠くから消し去れるんだぞ！

　超ヤバいだろ！

　敵が俺の視界に入ったらそれで俺の勝ち確定だ！

　これを使ったら魔王さえも消し去る事も出来るんじゃね？

　俺の最底辺からの成り上がりが始まろうとしてた。