いきなり結婚報告
アウ王女は皆の前で語り始める。
「皆さんお集まり頂けましたか? 神官から既に聞いていると思いますが、皆さんはわたくしの呼びかけに応じて、この世界に召喚されました。ここまでご理解宜しいですか?」
頷く生徒たち。
いきなり異世界に召喚されても誰一人帰りたいと動じないあたりはさすが底辺高校の生徒である。
皆が頷くのを見て王女が続ける。
「皆様にご紹介したい方が居ます。私の横に立っているタナオカ様は今回の召喚された勇者様の中で一番能力の高い真の勇者様です。それでですね、女子の方にはしっかりと覚えていて欲しいのですが、タナオカ様はわたくしアウマフ王女のお婿さんとなりました。つまりは将来の王様ですので、故意や過失で有っても『手を出したら処刑します!』と警告しておきます」
それを聞いた女子たちはアウ王女に最大限の敬意を払った。
「どぞどぞ!」
「棚岡なんてモッサリ君を彼氏にするのはごめんだわ!」
「あんなのを彼氏にするぐらいなら私は一生独身を貫く!」
ちくしょーう!
そこまで言うのかよ!
まるで生ごみの日のゴミ袋のように手放すことを全然惜しがらない。
ひでーな!
ひでー言い様だよ!
お前ら!
くたばれ、糞女子!
それはそれと、こっちに置いといてと……。
アウ王女、なに勝手に結婚するとか報告してるの?
俺はまだ高校生だぜ?
結婚したことが学校にバレたら高校退学になっちまうじゃ無いか!
俺はアウ王女に抗議した。
「結婚するのはいいとしてクラスメイトの前で公表するのはやめて下さい」
すると王女は指先を動かして耳を貸せとの仕草。
「タナオカさん、少しお耳を拝借してよろしいですか?」
アウ王女は俺を部屋の隅に連れて行くと、俺の耳元で小声で話し始めた。
それは小声で有っても確固たる気迫の籠もった言葉であった。
早口で話し始め口を挟む余地もない。
「我が国の伝統で魔王を倒した真の勇者の子を産んだ王女は王位継承順位に関わり無く次の王妃となるのです。これがどういう事か解りますか? 本来は王妃になれない第二王女のわたくしアウマフが王妃になれるという事を意味していますし、その旦那様であるタナオカ様は自動的に王様です。ここまでご理解は宜しいですか? 嬉しいですよね? こんな綺麗なわたくしをお嫁さんに貰える上に王様になれるなんて嬉し過ぎですよね? でもですね、タナオカ様がわたくしとの結婚を拒否した場合はどうなるか解りますか? わたくしはどこの馬の骨か解らない男と結婚したふしだらな女として王族から追放されて修道院送りです。そしてどこの馬の骨か解らない男のタナオカ様はわたくしとの結婚を拒否した事でどうなるか解りますか? 王女を手籠めにした重犯罪者ですよ? まともに生きてられると思います? 思いませんよね? という事で、人間らしい生活を送って生きていたいならば拒否権は有りません! ご理解頂けましたか? 船は既に大海原に旅立ったのです! ここは大海の中、もう降りる事も後戻りも出来ません! わたくしもタナオカ様も結婚してしまった以上後には引けません。タナオカ様もこの船に乗り続けるしか無いのです!」
マジかよ!
退学どころの話ではなく完全にハメられたぜ!
ここは王女との結婚を飲むしかない。
俺は首がもげるんじゃないかと言うほど首を上下に振って頷きまくった。
「はい! 結婚して下さい! お願いします!」
「では皆さんに聞こえる様に大きな声で復唱をお願いします。
『私、真の勇者であるタナオカは、美麗で秀麗で端麗なアウマフ王女と結婚します!』と」
まじ?
何この罰ゲーム!
なんでクラスメイトの前でこんなこと言わないといけないの?
「言わないとダメ? みんなの前でそんな事を言うのはちょっと恥ずかしいんだけど?」
「ダメです!」
王女は考え直してくれる気は無いようだった。
半ば焼け糞になって大声で怒鳴ってやった!
「俺! アウマフ王女と結婚します!!」
沸き上がる拍手喝采!
「棚岡! お前は一生結婚できないと思ったが出来て良かったな!」
「俺も心配してたんだ。おめでとう!」
「棚岡君、結婚出来て本当に良かったねっ!」
「良かった良かった!」
みんな心から祝ってくれてる。
モテない君の厄介払いが出来たと思ってるだろ!
ちきしょー!
まあ、一人だけヲタ仲間のユッコだけが俺に先を越されたのが悔しいのか寂しそうな顔をしていたのを俺は見逃さなかった。
王女は俺のやけくそな言葉を聞いて満足してるようだ。
「はい、よく出来ました! という事で、皆さんには私のお婿様のタナオカ様のサポートをお願いします。それでは皆様にはタナオカ様の能力のお披露目といきましょう。この中で一番ランクの高いAランクの魔女と聖女の方、居ましたら挙手をお願いします!」
二人の女の子を選び、皆の前に手を引いて連れて来た。
「この方たちは今回召喚された勇者様の中ではかなり上位に位置する能力を持つ魔女様と聖女様です。その方とタナオカ様の能力を比べてみましょう。まずは魔女の方からお願いします。あちらに見える的に向かって手を突き出し『ファイア!』と唱えてみて下さい」
30メートル先にある鉄製の標的に火球が放たれた。
火球はゴルフボール程の大きさ。
それが的に向かって真っすぐに突進!
的に当たると火花を散らせたあと、的を軽く焦がした。
「大変よく出来ました。ではもう一発お願いします」
だが、魔女の女生徒は再び魔法を唱えようとするが苦悩の表情を上げる。
「ダメです! 何度魔法を唱えようとしてみても魔力が切れているのかもう火の玉が出せません!」
それを聞いて満足気で晴れやかな表情を浮かべる王女。
「はい、ありがとうございます。それが普通の魔女ですね。LV1の魔女は魔法を一発しか撃てません。ではタナオカ様、同じようにお願いします」
俺は火球を放つ!
「ファイア!」
俺の手から火球が放たれる。
火球は真っ直ぐに的に向かって飛んで標的に命中し火花を散らした。
「続けて下さい! 火球が出なくなるまで何度も!何度も!」
「ファイア!」
「ファイア! ファイア!」
「ファファファファファファファファファイア!」
はぁはぁはぁ!
山のような数の魔法を使って喉が枯れるまで連射してやったわ!
凄まじい数の火球を〇橋名人なみに連射しても火球は止まる事が無かった!
俺、滅茶苦茶魔法を使えるんだな。
こりゃ強いわ!
王女が俺の事を好きになるのも解らなくもない。
俺の火球を食らいまくった的は鉄製なのに真っ赤に焼け、やがて溶け落ちてしまった。
「見ましたか! これがタナオカ様の真の勇者の能力【MP消費ゼロ】の威力です! 何度魔法を唱えてもMPと呼ばれる魔法の素が尽きないのです!」
沸き上がる歓声!
「スゲーな、棚岡!」
「お前見直したよ! 今まで散々バカにしてごめん!」
「本当にお前は真の勇者なんだな!」
そうだろそうだろ!
俺は強いんだよ!
異世界サイコー!
勇者もサイコー!
それを聞いてMAXテンションの王女!
「そうでしょ! そうでしょ! わたくしの旦那様は優秀なのです! 次は回復魔法を披露しますよ!」
神官の一人が自らの腕にナイフを当てて軽く引く。
すると腕には一条の赤い筋が描かれ、やがて血玉が浮かび上がった。
聖女の女生徒が神官に向い回復魔法を使うと、一度目は回復したがやはり二度目は無かった。
俺が回復すると10回を超えても何ら問題なく回復魔法をとなえられ続ける。
やがて傷跡はわからないほど綺麗に回復した。
あれ?
もしかして俺って攻撃魔法だけじゃなく回復魔法も凄い?
俺の魔力は底なしかよ!
再び沸き上がる大歓声!
「棚岡君凄い!」
「棚岡、お前はまるで神だな!」
「俺は一生お前についてくぜ! 尽くしてやるぜ!」
クラスメイトの皆は、俺を本気で尊敬していた。
王女も俺の事を誇りに思っていた。
今考えると、この時が俺の召喚勇者人生のピークだったのかもしれない。
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