ラベンダーはブルー (2)

 フロリアンをひとしきりぼこった後、クロードとベンジャミンは再び交渉の席に着いた。

 クリストフはフロリアンの介抱に忙しい。


「この際二人とも乗せちゃえば? 姉妹」

「そっち?」

「女の子は軽いよ」

「最大積載量の問題じゃないです。だけど、ああ」母指球プラスため息。「内実知られたとなると……どこまで話した?」後半はフロリアンにだ。

 何かもごもご言う声が聞こえ、おそらく「なんもです」と発語したのではないかと思われる。なにせ口のわきに絆創膏を貼られているから聞き取りにくい。


「『なんも』って、んなわけなかろう」とベンジャミン。

「だよな。抜け駆けもはなはだしいよな」これはクロード。

「ですよ」

「おれだってアリーちゃんにまだ何にもしてないのに」

「だからそっち? てか、うそ」

「ほんと。乳もんだだけ。あ、あとキスか」

 してんじゃん!という無言の叫びが、三つの開いた口から放たれる。


「内実知られたとなると何よ」しれっと本題に戻すクロード。「消す?」

「いや、まだ、そこまで」

「けど二択だよね。消すか乗せるか」薄い笑み。何をどこまで楽しんでいるのか。「おれは女の子には手をあげない主義だから。やるならおまえやれ、ベン」

「おれ? また?」

「おまえが言い出した」

「こういうことに」大男の嘆き、山を吹き下ろす寒風さながらだ。「こういうことになると思ったから、男子校にしとこうって言ったんじゃないですか。それを御曹司が『それじゃつまんない』って」

「楽しいだろ? じっさい」

「楽しくない。ぜんぜん楽しくありません。いつも後始末させられるのおれじゃないですか。もういやだ。もうかんべんしてください」

「あーうるさい。じゃおまえが下りろ船。おまえが乗らなきゃ女の子あと三人は積める」


 氷結。


 それはないですよ御曹司、とクリストフは心の中でおずおずとつぶやく。

 こう見えて武蔵さん、ガラスのハートなんですから。

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