佐藤くんとあたし (4)

「護衛だって」

「護衛?」

「そ。ボディガード」


 なんで。

 誰からの護衛。

 てか、


「護衛いるじゃん、もう。あんなでっかいの一匹」

「ベンちゃんね」

 ベンちゃんこと武蔵ベンジャミン。日サロか?ってくらいよく灼けた大男で、色白小柄の水原とは好一対だ。飲み終わった空き缶、かならず片手でつぶすやつ。ぜったい腹筋割れてる、シックスパック。あたしのいちばん苦手なタイプ。

 そういうのって伝わる。武蔵があたしに投げる視線も、いつも冷たい。


「ベンちゃんでも足りないの? どんだけやばいの、水原。てか誰にねらわれてるの」

「それがさ。あー……言っちゃっていいかなぁ」

「言いなよ」


「やつの姉ちゃん」


 えっ。


「えっ、えっえっ、だって水原シスコンだって」

「だからさー」お姉ちゃんは頭をかかえた。「あーやばい、あーやばい、やっぱ言わなきゃよかった。あんたいま同情したよねすっごく。そういうの弱いもんね」

「してない」

「した」

「してない」

「じっさい不憫ふびんじゃん、水原」

「うん」

「ほら」


 だってどういうこと。あたしの頭はぐるぐるしてた。なにその、めちゃくちゃ恋い焦がれてるお姉さんに命ねらわれてるわけ、水原。あのへらへらした笑顔にそんな悲劇隠してたわけ? ひどい。ひどくない、いろいろ? あ、お姉ちゃんの言うとおりだ。あたしいま、

 すっごく恋に落ちた。

 

 マリファナ海溝並みにディープ。


 ちがった、マリアナ海溝。

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