佐藤くんとあたし (3)

「わかった」

「何がよ」

 きりっと前を見つめたお姉ちゃんの横顔に、あたしは不安を覚える。

 たしかにこうやっていつもあたしは、お姉ちゃんの世話になりっぱなしだ。だけど『忍たま乱太郎』風に言えば、あたしが無自覚な方向音痴なら、お姉ちゃんは決断力のある方向音痴。よけいやばい。


「水原に話をつける」

「やめて」


「だって」

 いきなり、組み伏せられた。

「だってだってこのおっぱいを、あたし以外のやつにもませるなんて許せん」

「やーめーてー!!」

 ブラをはぎとられて生乳めっちゃもまれた。もまれながら思う。そういうお姉ちゃんこそモテモテじゃない、男にも女にも。さみしいのはあたしのほう。だから思いっきりもみかえしてやった。そしたらけろりと言いやがる。

「あたしはさ、どっちかって言うと尻のほうが自信ある」

「へ?」

「こないだ脚立に乗ってたら、二十人くらい押さえに来た。で、下からこう」

 見上げられたんだ、見上げられたんだ! あああ、許せん!!


「あと佐藤もやめとき」

 さんざんふざけて脱がしあって、二人とももうほとんど全裸だった。その状態で真顔で言う。お姉ちゃんはデフォルトが真顔だから、どこからがギャグかわかりにくい。

「なんで? てか、なんで?」

 1こめの「なんで」は「なんでやめときなの」で、2こめの「なんで」は「なんで知ってるの」だ。

「佐藤兄と話した」

「は?」情報網はや!

「てか寝た」

「はああ?!」

 ちょ待っ、行動も早すぎ!!


「あの二人やばい、佐藤兄弟」いやいやいやその前に説明義務あるっしょ、ミラちゃん。「水原とつるんでる。てか込み入ってる、いろいろ」

「どゆこと?」

「んー」額に手の甲を当てて顔をしかめる。お姉ちゃんは説明が苦手だ。ばかなんじゃなくてその逆。頭の回転が速すぎて、あたしみたいなばかにゼロから説明できないのだ。


「佐藤家に下宿してたって言ってたよ?」これはあたし。

「誰が?」

「本人」

「佐藤弟?」

「うんにゃ、水原」


「んー」また顔をしかめてる。「ちょい違うけどまあそんなとこ」何が言いたい。


「あんたほんと何も知らないでしょ。水原ってさ、ああ見えて修羅場くぐってきてるんだよ。

 佐藤兄弟はさ、だから、……あーこれ言っちゃっていいかな、口止めされたのに」

「言いなよ」

「ま、いっか、佐藤兄だってあたしに言えばあんたにつつぬけだってたぶん計算済みだ」

 そこはどうかな、ミラちゃん?

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