佐藤くんとあたし (5)

「お風呂入ろ」

 お姉ちゃんはバスタブにお湯をためだした。うつむいたうなじとか、お湯をかきまわす手とかほんと綺麗。

「おいでアリちゃん。髪洗ってあげる」

「洗いっこしよ」

「いいよ」

 一日のうちであたしたちがいちばん幸せな時間、バスタイム。


 お姉ちゃん。大好きな大好きなお姉ちゃん。

 あたしたちは七人姉妹の六番目と七番目。だけどほとんど、双子みたいにして育った。

 うちの王国は末子相続だから、王位継承者の第一候補はあたしだ。

 この留学が終わったら、帰国して、お見合いすることになってる。


 本当に結婚したいのは誰かって訊かれたら、ミランダお姉ちゃんかもしれない。


「アリちゃん、塩入れた?」

「あ、まだ」

「どっちにする? ラベンダーとローズマリー」

「オレンジ」

「そう来たかー」


 死海のバスソルトっていうのが最近あたしたちのブームだ。エッセンシャルオイルでいろんな香りがつけられる。

 今日のあたしははじけたい気分。いろいろ、哀しすぎた。だからお日さまたっぷりの柑橘系が欲しい。きらきら暖色、ラテンのリズムのイメージ。

 思い出す、海の底アンダー・ザ・シー

 パパ。


 あたしたちは、元気です。


 お姉ちゃんとあたしはバスタブに飛びこんで、またふざけあった。

 あたしたちの腰から下の鱗が、色のついたお湯の中できらめく。

 緑。藍。

 銀色。

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